天使の梯子: Ⅲ ハッカーと殺人鬼
「いらっしゃいませ」
と和弥がいうと、その可憐な容姿の客はおずおずと切り出した。
「あのー…お仕事の件でコウヤさんと組むことになっているものですが…コウヤさんはどちらに?」
和弥はそれを聞いて、どの仕事のことか一瞬分からなかったがパートナーを組む仕事なんてひとつしか思い出せずに
「あぁ、その件でしたら父の都合により、僕が一任されました。」
と言った。父が死んだということを伏せたのは、親戚から秘匿するよう言われているからだが、サラリと嘘をついたことに若干の罪悪感を覚える。
「それで、今回はどのようなご要件で?」
「はい、メールを何度か送っていたのですが返事がないようなので、念のため……」
失念していた、そのような裏の仕事なら、こんな大っぴらな打ち合わせなんてするわけがないではないか、と少し慌てていると、リエが耳元で、メールの概要と相手の情報を簡潔に説明してくれた。
それによると、相手はコンピュータプログラムのハッキングを専門とするハッカーで、メールには、潜入する施設の地図、警備員やセキュリティなどが書いてあったという。
「ありがとう」
とリエに言って、相手を見ると、居心地悪そうにもじもじとしていた。少し申し訳なく思いながら、
「こちらの不手際でご迷惑をおかけして申し訳ありません。では、改めて自己紹介をしましょう。僕はわだ…綿貫鋼弥の息子、和弥と言います。」
相手のオーラによって、和弥は警戒を解こうとしてしまった。それを少し見とがめたが、相手も、
「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は伊吹あかねと申します。」
と名乗った。
--その時、店のドアが急に開いて一人の少年が入ってきた。
「コウヤー!たま切れたから補充に……あれ?あかねと、誰?」
「…あぁ、この方は鋼弥さんの息子の和弥さんです。和弥さん、こちらは殺しを生業にしているユウさんです」
あかねは先方と知り合いだようで、互いの紹介をしてくれた。
--殺し屋…?
外見とかけ離れた事実に少し驚きながら、和弥も
「よろしく」
と言うと、
「よろしくね〜!」
快活な性格のようで、毒気を抜かれたが、次の台詞で現実に戻された。
「で、銃の弾を買いに来たんだけど。はやくちょーだい!」
ふと隣を見るとリエが銃の弾を持って立っていた。驚いていると、リエは和弥にウインクして、ユウに差し出した。
「ありがとう!これで足りるよね」
とプリペイド式のマネーカードを出して機械にかざす。アナログだな、と思ったが足がつかないようにするためなのかな、とひとりで得心していると、その間に買い物を済ませたユウは、リエから商品を受け取ると
「バイバイ〜!」
と言って帰っていった。
あかねも呑気に手を振っていたが、我に返ると
「で、では今夜決行ですね、無線でサポートしますので、この通信機は外さないでください」
と豆粒のようなものを渡すと、いそいそと帰っていった。
「おい、まさか初仕事が今日なんて……」
とリエの方へ向くと……にっこり笑っていた。和弥は真実に気づくと、ため息をついて言った。
「……じゃあ、さっき言ってなかった情報を聞かせてくれ」




