天使の梯子: Ⅱ 開店
朝、和弥が目覚めると、ふと懐かしい匂いが鼻につく。居住スペースの三階から二階に降りていくと、リエが台所で料理を作っていた。戦闘特化型じゃなかったのか、と軽く驚いているとその気配を察し、
「おはようございます、昨日はよく眠れましたか?」
と挨拶をしてくる。
「おはよう、うん…ぐっすり寝すぎてよく覚えてないくらいなんだけど…昨日はあの後ファミレスに行ったんだっけ?」
リエのおすすめの店がファミレスなことに驚いたが、ふんぞり返って、「コウヤに教わりました!」なんて言われると何も言えなくなってしまったのだった。
「そうだ、今料理を作ってるみたいだけど、それも親父じこみ?」
「はい、家庭の味というものの味の再現にはなかなか苦労しましたが……」
苦笑しながらリエは言った。懐かしい匂いがしたことに納得がいく。
「準備が出来たので、運んでください」
と言われ、皿を運びリエとご飯を食べている時、和弥は、ふと気になって、
「口から食べられるんだね」
という質問をした。
「ええ、栄養の経口摂取は可能ですよ、ただ不要物の排泄が不可欠ですが…」
と若干補足し過ぎなまでの説明を返された。
「ただ、コウヤがいない間のように、電気からの状態維持も可能です。」
あの階段の下の暗い部屋にいたのはそういうことだったのか……。
――暗い部屋?
その言葉にひっかかる。
「あの階段の下の部屋はなんだったんだ?」
「あぁ、あれは武器庫です。」
サラリと吐かれたリエのセリフに一瞬唖然としたが、これからする仕事を思えば不思議はないことだった。
「まだ開店まで時間があるので、案内しましょう。」
と言って、食器を片付けるとあの階段へ歩き出す。和弥も堪忍しておとなしくついていく。
例の重厚な扉を開けると、そこには表のロードバイクショップと同じくらいの空間が広がっていた。銃器や弾丸、一見してどう使うのかわからないものまで雑多に置かれている。よく見ると値札がついていた。
「値札がついてるよ……?」
和弥が気になって聞いてみると、リエは、
「…えぇ、それらは売り物でもあるのですよ。この店に来る客は、大体がこれ目当てに来るといっても過言ではありません。」
と言った。昨日口ごもった理由に得心が言ったが、同時に客層への不安も覚えた。
「さ、さあもう開店です。店を開けましょう!」
とリエが会話を切り上げる。一抹の不安を覚えながらも、時計の針は開店時間の10時に迫っていたので、表の店の鍵を開け、プレートをオープンにひっくり返した。
……10分後、客の来店を告げるベルがなり、入ってきたのはロードバイクにも銃器にも縁がなさそうな、お嬢様然とした一人の少女であった。