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美味しい幼なじみ

アイスコーヒー、ブラックで。

作者: natsuki

「美咲、悠斗くん、帰っちゃったわよ」


布団にくるまるあたしに、呆れ気味に教えてくれたのはお母さんだ。

あたしは今、悠斗から絶賛逃げまわり中。

そう、記憶から消してしまいたい、1ヶ月あの祭りの日から。


逃げまわるとは言ってもそんなに難しい話ではない。

元々同じクラスとは言え、学校ではそんなに喋らないし、

最大の難所と思われたお母さんも家庭教師を辞めたいと告げると、

何も聞かず「いいわよ」とOKしてくれた。

その代わり自分で勉強しなさいねととってもイイ笑顔を向けられたけど。


とはいえさすがに1ヶ月もすれば避けてるって気付くのか、

家にやってきた悠斗に居留守を使って冒頭に戻る。



分かってる。

急に幼なじみに避けられたらそりゃ気になるよね。

しかも悠斗はなんにも悪いことしてないし。



『ばか、んな訳ねーだろ』


思い出すのはイライラした悠斗の声。

付き合ってるのか聞かれて、答えた、あの時の声。


悠斗は何も悪くない。だけどそんな言い方するほど嫌だったんだ。

結局、あたしが勝手に浮かれてただけだったんだ。

悠斗はただの幼なじみとしか思ってないのに、

付き合ってるんじゃないかってあわよくばって、勝手に期待しただけ。



あーーーホントもうやだ!!恥ずかしい!!!

穴、私が隠れられる穴はどこですかーーーーー!!!!!


何度目になるか分からない堂々巡りな思考に、

羞恥心に耐えられず、お布団にくるまってゴロゴロ悶える。


「あんた何やってんの。気持ち悪いからちょっとお醤油買ってきてよ」


ヘイマザー、あなたの娘は傷心なんですよ!!

気持ち悪いとお醤油関係ないからね!?やめて、お布団ぺいってしないで!!

穴どころか隠れるものすら奪われてしまったよ!!



「はあ・・・お母さんなんて女心が分かってないんだから。」


とはいえ逆らえるはずもなく、お財布握りしめお醤油を買いに駅前まで歩く。

今日は土曜日。まだ夕方というには早い時間で、

駅前は待ち合わせしてるカップルでそこそこ人があふれていた。


「けっこれから夜のデートかよ・・・」

なんてやさぐれた気持ちで歩いていたら、


「いた!美咲!」


今一番聞きたいけど聞きたくない声で名前を呼ばれた。

やば、悠斗に名前呼ばれただけで泣けるとか何この乙女モード。笑える。

泣くの笑うのどっちだよ、あたしとかセルフツッコミしながらあたしは駆け出していた。



「ちょ、おま、待てよ!!」



ふははははー!待てと言われて待つやつは最初から逃げたりしないのだーーーー!!



はい、つかまりました。



あのさ、かよわい女子の首根っこ捕まえるってどうなのよ。

これ、あれじゃない?俗にいうDVってやつじゃない?

あ、あたしと悠斗は赤の他人だから違うか-あはははは~

・・・自分で言ってへこんじゃったじゃん、ばか。



「もう逃げないから放してよ、ばか。」


「ばっ!?ばかはお前だろ、そもそも何で逃げるんだよ」


「逃げてないし!首いたい!」


「矛盾してるだろ!・・・ったく。これで逃げられねーだろ」


あたしの首を押さえてた手を放して、その手であたしの手を握る悠斗。

ばっ!だからあたし汗手なんだってば!しかも全力で走った後なんだってば!!



ってちがーーーう!!

なぜ!手を!握る!?



「可及的速やかにその手を離したまえ」


「だが断る。・・・ここ最近、俺を避けてただろ」


「・・・避けてないし」


「お前、嘘つく時眉間にシワがよるだよな」


「!?」


悠斗の言葉にばばっと眉間を手をやって確かめる。


「ほら、やっぱり避けてたんだろ」


「ーーーだましたの!?」


「さあな。ほら、なんで避けてたのかじっくり聞かせてもらうからな。」



こうやっていつも悠斗はあたしをからかう。

あたしはこうやって手を握ってるだけで心臓ばくばくでいっぱいいっぱいなのに、

悠斗はいつだって余裕たっぷりで涼しい顔してる。

悠斗はあたしのことなんて何とも思ってないから。



うつむいて黙ってしまったあたしの手を握ったまま、

近くにあった何とかフラペチーノで有名なコーヒーショップに入る。



「注文してくるからお前、座ってろ。逃げんなよ」



悠斗を待ちながら、逃げてやろうかとも考えたけど、

確かにいつまでも逃げてるわけにもいかないと思い直す。


だって幼なじみで同じクラスなんだもん。

ずーっと避けるなんて無理だよね。


「ほら。」


注文した飲み物を飲みながら、二人とも黙る。

その間にあたしはちょっと冷静になって考えてみた。


あたしは悠斗が好きだけど、悠斗はあたしのこと何とも思ってない。

だけど、よく考えたら嫌いとか言われたわけじゃないし、

むしろ幼なじみだしこれからなんじゃない、あたし!

惚れぬなら、惚れさせてみせよう、ホトトギス!!

あ、でもすごいイライラした声で付き合ってるわけないだろ的なこと言ってた・・・。



そうやってこの1ヶ月間散々した堂々巡りを終わらせるべく顔をあげると、

じっとこっちを見ていた悠斗と目があった。

思わず恥ずかしくなってまたうつむいて、そこでふと気付いた。



「あれ、これ、アイスコーヒー、しかもブラック・・・?」


何もリクエストしてないのに、あたしがいつも頼むのとおんなじものだ。


「お前、アイスコーヒー、ブラックだろ」


「そうだけど・・・なんで知ってるのよ」


そう、あたしはカレーは甘口以外食べれないことごとくお子ちゃまな味覚だけど、

コーヒーだけは甘いモノと一緒に食べるのでブラックなのだ。

そのせいか、コーヒー単体で飲む時もブラック派になってしまった。



「好きなやつの好みくらい覚えてて当然だろ」



え。時間が止まった。





そして時は動き出す。




いやいや、もはや騙されるあたしではないのだ!

きっとあれだ、そうだ、あの、好きなやつってのは、えっと、人として!

そう、人としてってやつだ!!


「・・・お前分かってる?人として、とかじゃないからな。」



さーせん、分かってませんでした!!



「いやいやいやいやい、え!!??」


「やっぱ分かってなかったのかよ。」


「いや、だって、祭りの時!!」


「あ?祭り?・・・なんだよ」


「言ったじゃん!付き合ってるわけないって!中村くんに!超イライラしてながら!!!」


ぜいぜいと肩で息をしながら言い切ると、


「あー・・・?あー・・・。あの時か・・・。うん、確かに言った。

美咲、それで俺のこと避けてたのか?俺が付き合ってないって言ったから?」


がしがしと頭をかきながら悠斗があたしの顔を覗きこんでくる。


「ばっ!ちっ!・・・ちがわないけど!ばか!」


「お前ホントかわいいよな」


あたしはもう何がなんだか分からなくなって涙目で悠斗を睨む。

あたしは怒ってるのに悠斗は真顔でそんなこと言ってくる。


え、なに?今、悠斗が?あたしを!?かわいい!?

わっつはぷん!!!

またからかわれてる!?


そうやってあたしがパニクってると、

真剣な目をしてあたしの手を握る悠斗。



「ごめん、あん時はちょっと余裕なくって。まじかっこわりぃから詳しく言えないけど。

だけど、俺は美咲が好きだよ。ずっと隣にいてほしい」



悠斗のこんな顔、初めて見た・・・。


いつも涼しい顔してる悠斗が、すんごい真剣な顔で見つめてくる。

すっごく恥ずかしいけど、目をそらしちゃいけない気がした。

いくらあたしでもこれがからかってる顔じゃないことくらい分かる。

だって、ちょっと悠斗の手が震えてるから。

だからあたしも勇気を振り絞る。


「ばか悠斗。あたしもだよばか。」


「ばかって言いすぎだろ」



あたしが涙目になってそういうと、悠斗はほっとした顔をして笑う。

その顔に安心してあたしも笑っちゃって、

もう泣いてるんだか笑ってるんだかよく分かんない。



そうやって、手を握ったまま、二人で向き合って笑う。

あたしは段々恥ずかしくなってきて離そうとするけど、

悠斗はもう涼しい顔に戻って離してくれない。



これから何が変わるんだろう。

でもきっと大事なことは何も変わらない。


きっとまた一つのソフトクリームシェアしながら歩いて、

からーいカレー食べたり、お祭りで食べ歩いたりするんだろうな。

そのうち手をつなぐことにも慣れるのかな?

そうやってちょっとずつ2人の距離を縮めていけたらいいな。



そんなことを思ってると、悠斗が色気たっぷりの笑顔で、


「次はソフトクリームごしの間接ちゅーじゃなくて本物のちゅーだな」

「!!!!!何言ってるの!!!もう帰る!!!!」



そんなことを言ってくるから恥ずかしくって一気に飲み干したアイスコーヒーは、

ブラックなはずなのにほんのり甘い味がした。



お読み頂きありがとうございました。

1年後しですが、ちゃんと二人の恋を実らせることができました!

というかこれ、今更ですが連載にしたほうがよかったですね。

お付き合い頂きありがとうございました。

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