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職業:富豪  作者: 月暈
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陣宮家-3

「じゃあ、帰るよ」

「おう、迷子になるなよ」

「子供じゃないんだから。心配いらないって」

 三時間のテニスを終え、大己は「んじゃ、また来週」と言って帰った。俺も自分の家に帰るため、自転車を漕ぐ。

 右に百メートルくらいにある基也の家に向かって唾を吐く。舌打ちをする。あっかんべーをする。手を握り、親指を立てて下に向ける。手の甲を向けて、中指を立てて上に向ける。手を握った状態から、人差し指と小指を立てる。

 まあ、これくらいでいいだろう。知ってる限りの侮辱行為をしてやった。

 家に着く。自転車を停めて、テニス用具を収納庫に仕舞う。

 ドアを開けると、三咲さんが出迎えてくれた。

 鶴崎つるさき三咲さん。俺の専属メイド。二十歳。茶髪のポニーテール。

「幹也様、お帰りなさいませ」

「ただいま、三咲さん」

「制服、アイロン掛けておきましたよ」

「サンキュー」

「あと、お夕食も作っておきました。冷めない内に召し上がってください。お風呂も沸かしてあります。お好きな時間にどうぞ」

 三咲さん有能すぎ半端ねえ。

「いつもありがとね」

「いえ、幹也様の為ならば」

 笑顔で返してくれる天使。

 靴を脱いで、リビングに向かう。

「それと、基也様がいらしております」

「はあ?」

 リビングの扉を開けると、基也が椅子に座ってテレビを見ていた。机の上には空の皿が並んでいた。

「おかえり、幹也」

「お前、俺の飯を食ったな」

「違うよ。これは三咲に頼んで作ってもらったんだ。君のはそっちの机に並んでいるだろ? 三咲、ありがとう。美味しかったよ」

 基也が指さしたほうの机を見ると、確かに料理が並んでいる。

「いえ。片付けますね」

「それくらい自分でできるからいいよ。三咲はもう帰ったら?」

「おい、お前調子に乗るなよ。三咲さんは俺の専属だ。お前は料理を頼んだり、帰ることを命令したり出来るような立場じゃないだろ!」

 三咲さんの手を引き、後ろに隠す。

「まるで不良に絡まれた彼女を助ける彼氏だな」

「何言ってんだお前は」

 そんなことを言われると意識しちゃうじゃないか。ほら、三咲さんも顔赤くなってんじゃないか。

「まあ、そんなことはどうでもいい。君に用事があってきたんだ。三咲にはいてほしくない」

「三咲さんはいてもいなくても同じだろ」

「同じじゃない。この用事は父さん――いや、陣宮コンツェルン会長からの直々の極秘命令だ。この命令を君に伝えるために、一時的に上級命令権を貰っている。さっき君は三咲に対して命令できる立場ではないと俺に言ったが、この場合、俺の発言は三咲に限らず、会長を除く全陣宮コンツェルン社員に有効だ。鶴崎三咲に命令する。この幹也の家から出て、従業員宿舎に帰れ」

 基也はスーツの胸ポケットから『上級命令権一時譲与状』と書かれた紙を取り出し、俺と三咲さんに見せた。そこには『陣宮基也に、陣宮コンツェルン社員に対しての上級命令権を、下記の期間内において一時的に譲与する』という一文、『期間:2月19日午前0時から2月26日午前0時まで』、基也と会長の捺印。たったこれだけで、基也に上級命令権なんて大層なものを(一時的なものとはいえ)譲与することができる。

「君、上級命令権がどこまでの範囲で命令できるか分かっているか?」

「……原則として、人命、名誉、法律に関わらない範囲まで」

「正解。もう一度言う。鶴崎三咲、従業員宿舎に帰れ」

「……幹也様、基也様、失礼します」

 三咲さんが頭を下げ、リビングから出て行く。すぐに玄関のドアの音がする。

「上級命令権といえど、君には命令することは出来ない。残念だ。実に残念だ」

 俺はまだ社員ではない。いずれ絶対に陣宮コンツェルンに就職し、かなり上位の地位につくことは確定されているが、しかし。今はただの高校生。上級命令権だろうと、その上の会長にしか行使することができない最上級命令権であろうと、俺に対しては効力を持たない。

「で、お前、そこまでして、俺に命令ってなんだよ」

「まあ、座れ。まずは夕食を食べろ。話はその後だ」

 腑に落ちないが、逆らっても話が進むとは思えないから、大人しく飯を食う。三咲さんの料理は冷めても美味しいけれど、温かい内に食べたほうがずっと美味しいのは当然だし。

 俺が食べている間、基也はテレビを見ていた。まさかのバラエティー番組。基也っぽくない。度々思いっきり笑う。全然基也っぽくない。何度も、本当は別人なんじゃないか、と思った。

 食べ終わり、食器を食器洗い機に入れ、スイッチをつける。

「おい、食べ終わったぞ。早く話をしろ」

「ちょっと待ってハハハハ。何この番組、すっごく面白い! 君もこっちに来て一緒に見ないかい? ハハハハ!」

 お前、誰だよ! 絶対基也じゃないだろ!


 仕方なく先に風呂に入り(基也と一緒にテレビを見るなんて気持ち悪いことをするはずはない)、時刻は九時。バラエティー番組も終わり、基也が落ち着いたところで、やっと話が始まった。

こんばんは、月暈です。TSUKIGASAです。

アイディアを思いついたときにすぐにメモする癖をつけたいのに、たまに「まあ、覚えてるだろ」って思ってしまい、後々完全に忘れてしまうことがあります。後悔しか残りません。メモ、本当に、大切。

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