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職業:富豪  作者: 月暈
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陣宮家-2

「全然悪気はなかったんだって! つい、うっかり、出来心なんだよ!」

「へぇー。君はつい、うっかり、出来心で人の車を蹴るのかー。ふーん」

「だから、ごめんなさいって謝ってるだろ」

「上辺だけだろ。謝っていても、内心では『チッ、めんどくせーな』って思ってんだろ?」

 思ってる。チッ、めんどくせーな。

「今のは明らかに君が悪い」

「ですよね。同感です」

「大己は入ってくるなよ」

「大己くんは黙ってて」

「……はい、すみません」と謝る大己。

「モトヤ、もうそれくらいにしたらいいじゃないか? ミキヤくんも反省してるだろうし」

「レナード、こいつは反省なんかしないんだよ」

「そうですよレナードさん。俺は反省なんかしてません」

「……はい、すみません」と謝るレナード・クロルさん。

 レナードさんは英語、フランス語、日本語のトリリンガルだという。

 いいな、羨ましいな、かっこいいな、トリリンガル。「トリリンガル」っていう響きがかっこいい。

「だがしかし、この男と男の意地の張り合いに、トリリンガルなんて関係ない」

「何言っているんだ君は。男と男じゃなくて、大人と子どもだろ」

「じゃあ、お前が子供だな。日本で外国産の車に乗ってるから」

「その外国産の車を蹴るなんて暴挙に出た君が子供に決まっているだろう」

「だーかーら! 謝ってるんだろう! ごめんなさい!」

「さっき、君は反省していないって言っただろ。そんな言葉だけの薄っぺらい謝罪なんて求めてないんだよ」

「じゃあ、何したらいいんだよ」

「土下座」

 膝を地面につけ、腰を折り、地面に手をつき、額を地面スレスレまで持っていき、すぐ戻す。この間一・五秒。

 三人とも唖然としている。

「よし。大己、始めようぜ」

 自転車の横に立てておいたテニス用具を背負い、コートの扉を開け、中に入る。

「お、おう」

「おい、ちょっと待てよ」

 基也に声をかけられる。

「なんだよ。まだなんか文句あんのかよ」

「今のはなんだ」

「は? 土下座に決まってんだろ。お前がやれって言ったんじゃないか。物忘れが酷いな。とびっきり悪い病院紹介するか?」

 良い病院じゃないのかよ、とツッコミを入れる大己。

「土下座とは言わない」

「じゃあ、なんて言うんだよ」

 考え込む基也。

「他の言葉で表しようがないな。だから、今のは土下座だ」

「そんなの屁理屈だ」

「ちょっと車を蹴ったぐらいで土下座させるような理屈よりは屁理屈のほうがマシだろ」

「…………、生意気になったな。いつから俺にそんな風に喋れる身分になったんだ」

「お前こそ、内弁慶のくせして生意気言ってんじゃねーよ。何様のつもりだっつーの」

「君のお兄様だろ」

「お兄様だろうが何だろうが、世界の人の半分以上に命令できる程度の身分になってから俺に命令しろよ」

「いいだろう。ついでに、君も一般人の半分以上に命令できるようになったら、俺に命令して良いことにしようか」

「それは別にいい。興味ないし。さ、もういいだろ。大己、やるぞ」

「……おう。で、では、基也さん、レナードさん、さようなら」

 大己がテニスコートに入り、扉を閉める。


 テニスをする。テニスは良い。どっかの阿呆と怒鳴り合い威張り合い意地の張り合いをしているのよりも何百倍も良い。あいつと話していてもストレスが溜まるだけだが、テニスをしていればストレスが解消される。今、テニスを開発した人を一生称え続けることを決めた。ああ、俺はテニスをしていて良かった。まあ、最初に無理矢理やらせたのは母さんなのだけれど。

「なんだかすごいな、お前」

「何が?」

「あの基也さんとあんなに堂々と喋れるなんてさ」

 あのってなんだよ、と思いながら。

「兄弟なんだから普通だろ」

「それもそうか」

 テニスをする。テニスは良い。この世のスポーツの中で一番だと言ってしまうと、それは他のスポーツに対して失礼になってしまうから言わないけれども、俺は一番好きだ。たとえ、始めた理由が「零点を『ラブ』と呼ぶのが好きだから」と言う母さんに流されたことだとしても。それに対して、最近やっと「あれ? 『ラブ』と呼ぶのが好きなのは良いとして、零点なのは駄目じゃね?」と思い始めたとしても。

こんにちは、月暈です。名前を辞書登録しました。

出来るだけ早い更新を心がけます。

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