wonderful holiday?
あの変な夢から数日。
俺は自室(といっても碧と相部屋だけど)のベッドでまったりニマニマしながら寛いでいた。
そう、今日は待ちに待った!
「連休初日だぁ~っっっっっっ!」
ゴッ…。
「あ~あ、今日くらいは静かな朝が迎えられると思ったのに。ホント、葵兄って叫ぶの好きだね。」
「碧、お前、だからって自分の兄貴殴ることないだろ!?せめて優しく小突くとかにしろよ!兄ちゃん泣くぞ?泣いちゃうぞ!?」
「黙って。今ニュース見てるんだから。」
「ハイ。スミマセン。」
俺より年下なくせに、マセガキだな!マセガキなんだな!?
「人のこと勝手に貶さないで。僕は葵兄よりまともなんだから。」
うっ…。ま、またエスパーなのか!?
あれは夢じゃなかったのか!?
それとも何だ!?俺はまだ寝てるのか!?
「はぁ。葵兄。葵兄がうるさくて集中できない。」
「はっ!も、申し訳ございません!碧どのっ!」
「それに、いい加減慣れてよね。僕、いつも家だとこういう性格なんだから。」
…。は?
家だとこういう性格?
何言ってるんだ、こいつ?
「なんか、そういう設定らしいよ?」
設定?
いつ、だれが、どこで!
そんな設定したんだぁ~っ!!!!!!!!
「声に出てる。」
「スミマセン。」
「頭が高い。」
「ハイ。」
「兄貴の面目丸潰れだね。」
「反論の余地もございません。」
「もぉ!○○型選手権終わっちゃったじゃん!」
は…?
「葵兄が馬鹿すぎて黙っててくれないから文句言ってたらラッキーアイテムとかちょっとしたアイテムとか見れなかったっ!どうしてくれんの!?」
こいつ…。
女か?
いや、乙女なのか?
なんでそんなの気にすんだよっ!?!?!?
ラッキーアイテムって○間か?あいつなのか!?
「なあ、碧。お前、もしそのラッキーアイテムがネズミーランドとかで売ってるくまさん型の風船とかだったらどうすんだ?」
「??? 買いに行くけど?」
行くのか!わざわざ買いに!!
家から遠いぞ、そこ!?
めっちゃ遠いぞ!?
電車で片道2時間だぞ!?
「あ、僕、ネズミーランドは電車で行く性質じゃないから」
性質じゃないって、そこで使うか?その難易度高そうな言葉っ!?
あくまで笑顔で聞いてみよう。
「あ~、じゃ、お前はどんな手段で行く性質なんだ?」
「馬。」
「そうか。馬か…。って、馬っ!?馬ってあれか!?動物の!?4本足で、奇蹄目で背が高くて、競争にも使われて、馬力がめっちゃあって、とんでもなく速くて、ヒヒーンって鳴いて、ぱっからぱっから走って、ニンジンが大好きなあの生き物かっ!?っはぁ、はぁ、はぁ…。」
「ずいぶん長い説明だったね。それも偏りすぎだし。それに、馬って全部の個体がニンジン好きなわけじゃないよ?みんな好きなものっていうと角砂糖かな?」
角砂糖!?
なんでそこだけレベル高いんだ!?
普通の砂糖じゃダメなのか!?
敢えての角砂糖なのか!?
というか、コイツの方が詳しくね?
年上の俺より馬の事知ってね!?
ま、まぁ、それは置いておいて…
「な、なんで馬?」
「え?だって葵兄買ってくれるんでしょ?馬。」
「は?」
「約束したじゃん、僕が3歳の時。」
覚えてねぇ~っ!!!!!
覚えてねぇよ!んな事!
碧が3歳の時って俺4歳じゃん!
覚えてる訳ねぇよ!
あれ?
俺、そういえば自己紹介の時、碧と1歳違いって言ったっけ…?
「言ってないよ?」
あ、そうか。ま、いいよな。
「ってなんで、お前俺の質問に答えてんだよっ!」
「だって顔に書いてあるんだもん。」
「嘘。」
「ホント。鏡見てみたら?」
鏡?
訝しげにクローゼットの中に設置されている鏡を覗いてみる。
と。
「な、なんだこれぇぇぇぇぇ~!」
俺の声が響き渡った。
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数分後。
「碧。」
「何?葵兄?」
「あれ、やったのお前だよな?」
「違うよ?」
「じゃぁ、誰なんだよッ!?」
「内緒。」
「じゃぁ、お前じゃねぇか!」
「だから違うってば!」
さっきから目を見ようとすれば顔をそらす碧。
マーカーで書かれた額の文字を消してから、
このやり取りを始めて早一時間。
ん?一時間?
はっ!?進みすぎじゃね!?
…あ。違った。
10分だった。スンマセン。
「で?碧。やったの誰だ?正直に言わねぇとた」
「お母さぁ~ん!助けて~っ!葵兄がいじめる~!」
「あ、おい、ちょっと!」
階段を上がってくる足音に怒気を感じる俺。
そして、見事に泣きまねしてる碧。
…。これ、完全に俺の立場危険じゃね?
案の定俺たちの自室に侵入した母さんは俺をガミガミと叱り倒し、碧には『葵がアイス買ってくれるはずだから許してあげなさい』と
有無を言わせぬ口調で言ってから出て行った。
俺、文無しになっちまうよ、母さん…。
そんな俺の心の声は届かなかったらしい。
「葵兄!ありがとぉ~!」
「…。」
現金な奴め。
覚えてろよっ!
俺の事、悪者にした上に、俺から金も取りやがって!(アイスクリームって形だけど。)
「で、葵兄。」
「あぁ!?」
あ、今の俺ヤンキーっぽい…。
ヤンキーっぽかった!
「僕もう一回お母さんのとこ行こうかな。」
「お、ちょ、ちょっと待て!悪い!悪かった!今のは兄ちゃんが悪かった!」
「…。」
「申し訳ありませんでしたっ!!」
「わかってるなら最初からやらないで。」
「ハイ。」
俺、今日は謝りすぎな気がする…。
「で、なんでしょうか碧どの。」
「うん。額の文字の犯人知りたい?」
「はぁ!?」
何言いだすかと思えば、コイツいきなりなんだ!?なんで今更…。
ふと目につく碧のアイスクリーム。
…。
まさか…。
俺の視線に気づいてニッコリ笑う碧。
「当然の対価。でしょ?ふふっ。」
唖然とした俺は思わず叫んだ。
「なら、なんで最初からそう言わねぇんだよっっっっ!」
「お座り。」
「わん。」
思わず答えてしまった。
「で、教えてほしい?」
「当たり前だぁっ!」
「お手。」
「わん。」
「ふふ。」
「~~~っ!」
「面白いかも、これ。」
俺はコイツの犬じゃねぇ~っ!
「指示したのは直哉だよ。やったのは僕。」
「やっぱりお前じゃねーか!」
「うん。」
「ほかに誰もできないでしょ?」
「当たり前だろ!てか、なんでさっきやってないって言ったんだよ!?」
「だって対価ひつよ」
「対価も何もねぇだろッ!」
「…。」
ちょっと涙目になった弟が何故か可哀そうに思えてさっきよりは優しい声で質問してみる。
「そ、それで?なんでこんなこと指示されたんだ?」
「うっ…、昨日、直哉が携帯で『碧、俺さ、明日と明後日親父と出かけなきゃいけなくて、出番ないから葵になんか悪戯でもなんでもしておいてくんない?』って言って、その後小声で『月曜日会ったらマカロン土産にやるよ』って言われたからいいかなって思って、で、それで、何しようかなって思ってたら、お母さんが『そういえば葵ったら、自己紹介で碧の誕生日とか細々したこと言ってなかったわね』って呟いてるのが聞こえたから、『それだ!』って思って…」
「うんうん、そうか。…。って、ほぼお前が案出してるじゃねぇか!?それもなんだよ!?マカロンって!」
「葵兄、マカロン知らないの?あれって甘くておいし」
「知ってるよ、それくらいッ!!なんで俺にはねぇんだよ!?」
(碧)
葵兄、そこなんだ…。
というか、僕二回くらい遮られたような気がする…。
「はぁ…。俺思いの友達はいねぇのか~?」
(葵君!何言ってるの!私がここにいるじゃない!ふふっ)
あ、そっか。こんなに可愛い彼女が俺には…って、そうじゃねぇだろ!?
ここで妄想出すな!俺!
ていうか、彼女1話ぶりなんですけど!?
「なんか葵兄がまた別の世界に行きそう」
「というか碧、お前さ、俺に喋っちゃってよかったわけ?」
「え?うん。直哉兄は喋っちゃダメって言わなかったし」
「それ、直哉に直接聞いたのか?」
「ううん、聞いてないけど。」
直哉め、ざまぁ見ろ。
「あ、でも余計なことしないでね?マカロンもらえなかったら家族にあげる分なくなっちゃうんだから。」
「んなことしない訳ね…って、は?」
「だから、あげる分なくなっちゃうから仕返しとかしないでねって言ったの。」
「碧…、お前…。」
「弟よぉ~!お前はなんていい弟なんだぁ~!俺はお前を誇りに思うっ!!!!」
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月曜日。
帰宅して。
月曜は部活がない碧は先に家に帰っていて、俺は満面の笑みで碧に声を掛けた。
「碧!」
「葵兄?」
「マカロンもらえたか!?」
「うん。もらえたけど。」
「そうか!!」
と言って、手を差し出す俺に不思議そうな顔をして首を傾げる碧。
「何してるの?」
「何してるのって、お前マカロンくれるんだろ?」
「は?マカロンならもう食べちゃったけど。」
「な、何!?」
「なんか、お母さんがね、『一昨日葵がまたいじめたみたいだから、葵の分のマカロンなんて取って置かなくてもいいわよね?この間も怒るだけで碧には何にもなかったし…。ね?あなた?』って言って、お父さんがすごーく生返事で『う~ん、いいんじゃない?』って言ったから僕が食べたんだ!すごくおいしかったよ!ありがとね!葵兄!」
ぱぁ~っと輝かしく可愛らしい弟の笑顔を見て思った。
(俺、今度から絶対碧には楯突かない…。)