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金曜日の午後6時

作者: ごはん
掲載日:2026/10/02

 仕事を終えて車に乗り込むと、外はもう少し暗かった。


 エンジンをかける。

 ラジオをつける。

 いつもの道を帰る。


 それだけだった。


 けれど、私はこの「それだけ」が、案外好きだった。


 以前は、金曜日になると「何かしなければ」と思っていた。


 友達と会う予定を入れたり。

 新しい本を探したり。

 知らない場所へ出かけたり。

 将来のためになることを調べたり。


 休日を無駄にしてはいけないような気がしていた。


 けれど今は違う。


 家に帰って、温かいご飯を食べて、

 お風呂に入って、

 好きなゲームをする。


 それでいい。


 家に着くと、玄関から夕飯の匂いがした。


「おかえり」


「ただいま」


 家族の声がする。


 今日の出来事を少し話して、

 くだらないことで笑って、

 テレビを眺めながらご飯を食べる。


 特別なことは何もない。


 でも、ふと箸を止めた。


 ――こういうの、幸せっていうのかもしれない。


 温かいご飯があって。


 帰る場所があって。


 たまに会いたいと思える友達がいて。


 好きな作品があって。


 休日にゲームをして。


 来月のお茶を楽しみにして。


 今日一日、特に嫌なこともなく眠れる。


 それで人生は、ちゃんと続いていく。


 窓の外で雨が降り始めた。


 静かな雨音を聞きながら、私はゲームを一時停止する。


 そして、小さく息を吐いた。


「……幸せだな」


 誰に聞かせるでもなく呟いた。


 明日、何か特別なことが起こるわけではない。


 来週も、たぶん似たような毎日だ。


 でも、それが少し嬉しかった。


 何も起こらない日を、

 「何もない」と思わなくなったから。


 何もない日は、


 何も奪われなかった日でもある。


 そして時々、


 何もない一日の中にしか見つからない幸福がある。


 私はもう一度ゲームを始めた。


 雨は、静かに降り続いていた。

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