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こんな私でいいんですか?

作者: 亀太郎
掲載日:2026/09/24

私は深井君子(フカイキミコ)高校3年生、付き合っている彼がいる。彼は川上登(カワカミノボル)、そして彼の友達、大矢英太(オオヤエイタ)、その彼女の伊武美久(イブミク)、私たちはいつもツルンでいる自他共に認める仲良し4人組だ。


「わたし、英太と絶対に結婚するんだ」美久はこの頃、4人で居る時に必ずと言っていい程1回はこの言葉を口にする。


「オレもだよハニー」と英太もウィンクをして応える。私と登はその掛け合いを見てはいつも笑っていた…そして私は登の目を見て〝私もだよ”って目で合図を送っていた…が彼は微笑むばかりだった。


彼は温厚な性格だけど積極性に欠ける所が有るんだけれども、一緒にいるとフンワリした気持ちになれる…各言う私も積極的じゃ無いし[ジミ子]って言われるくらい地味な性格をしている。


そんな2人がどうして付き合えたかって…それはたまたま席が隣り同士になっただけ…それでお互いに相手を意識する様なって…もうお互い好き同士って周りにもバレバレなのに、くっつかなくてみんなをヤキモキさせてみんなからカップル認定をもらってしまった。お互い告白無しの希有な2人なのだ。


登と英太は中学からの友達で…英太の彼女の美久も加わって4人一緒に行動する様なり仲良し4人組となってしまった。


今、私たちの間での話題は将来の事で持ち切りだ。英太は機械好きで工学部の有る大学へ行くつもりで、美久は進学せず早く働いて給料をもらって好きな事に使いたいとの事、登は国立大学を目指していて…私も登と同じ大学を希望しているが…どうも私の学力では無理そうな気がする。



そんなこんなで翌年の春前に私たちの進路は決定してしまった。英太は希望通り工学部の大学へ…美久も大手電機メーカーの工場勤務に…登は…登は意外にも全部の受験に失敗…浪人する事になってしまった。


私はなんと奇跡的に国立大学に合格してしまった。凄く嬉しい反面、登の事を思うと心から喜べなかった…


そして、卒業後みんなそれぞれの路を進んでバラバラになっていった…でもグループラインでやり取りは欠かさず、月に1回はみんなで顔を会わせる約束をして別れていった。


始めの月はみんなでよく行ったファミレスで顔を会わせた…たったのヒト月だったのに…随分と時間が過ぎたような感じがした。


英太と美久は相変わらずの掛け合いを楽しんでいたけど…私は登に当り障りの無い近況報告をした…登も無理に笑顔を作っていた…


美久は私たち2人を見て「何よアンタたち他人行儀に…って他人だったわね…エヘヘ」と私たちを盛り上げようとしてくれたが高校生の時の様に心の底から明るくなれなかった…


英太が「オレ課題のレポートとか有って来月は会合無理かも…」美久が「え〜アンタそんなのばっかりね、ラインのやり取りも素っ気無いし…」

すると登も「オレも予備校とバイトが詰め詰めで…ダメかも…」私「え〜1ヵ月ぶりでも随分と有って無い気がするのに〜」とシュンとした…


結局は来々月に集まる約束をしてこの日は解散した…


毎日のグループラインも話題があまり無く…約束していた来々月の会合も流れてしまった。


私はやっぱり登の顔だけでも見たかったので、意を決して登の家に何度か訪れたが、いつも予備校かバイトで不在だった…


私は自分が大学に合格した事が恨めしかった…そんな事を考えていると涙がポロポロと落ちていった…


そんなある日、美久から電撃的な電話が有った。

「ワタシ来月、結婚する事になったの」

「えっ英太と!」

「違う違う!電話じや何だからさ、明日あのファミレスで会わない?」

「うん、わかった…」


翌日、私は約束のファミレスに行くと…奥の席の方で美久が大きく手を振って呼んでくれた。その隣りには見知らぬ男性が座っていた。


私はおずおずと席に行き、挨拶をして美久の前に座った。「彼が今度ワタシと結婚する事になった相手」落ち着いた感じの30歳くらいの男性が静かに微笑み…「三島です。来月伊武クンと結婚する事になりました…よろしくお願いします。」と頭を丁寧に下げた。私も慌てて名前を名乗って祝福をのべて会釈をした…


私の頭の中では…どうして、どうしてとグルグルと繰り返すばかりだった…それで2人の会話が入って来なかった…ただ2人は工場の上司と部下と言う事だけはわかった…つまり職場結婚と言う事なんだ…


三島さんがヤボ用と言う事で先に帰った後、私は思っていた事を次々と美久に聞いた…

「英太と絶対結婚するって言ってたのに…英太は知ってるの?」美久は呆れ笑いをして…

「あんなお子さま…やっぱり大人の人と比べると魅力も経済力も包容力も全然違うよ」私はそんな…そんな事なの…と思った。


そして美久からもっと衝撃的な事を聞かされた…

「ワタシさ…実は登の方が好きだったの…で、告白しちゃったんだ」私はあまりにも突然の事だったので声も出なかった…美久は続いけて…


「でも、ものの見事にフラれちゃった…登はワタシなんて眼中になかったのよ、そしてアナタもね…」私は美久の言っている意味がわからなかった…


「登の本当に好きな相手は…英太なんだよ…つまり同性愛者なのよ…アイツらデキてんのよ…」私は頭が混乱して何も考えられず、思考停止状態だった…


美久はそんな私に丁寧に説明してくれた…私たち抜きでよく遊びに行ってたり…ベタベタしてたり…見つめ合ってたり…私たちと付き合ってたのは同性愛がバレ無いためのカモフラージュだったと…そう言われれば思い当たる事が次々と浮かんでは消えた…私は心臓をエグられた様なショックを受けた…


その後どうやって家に帰って来たのか思い出せなかった…ただ涙がボロボロと止まらず、失恋と裏切られた思いが複雑に渦巻き発狂しそうだった…大きく膨らんだ心の風船に取り返しのつかない穴が空いてしぼんで行く様だった…


私の心身は虚無感に支配され何をするのも億劫だった…でも時々、登の優しさや一緒に居た時のフンワリ感はどうしてもウソには思えなかった…でも次の瞬間やっぱりアレもコレもウソなんだと…心の振り幅が大き過ぎて何も考えられなくなってしまう…


そして私は彼らの連絡先をスマホから削除した…美久とだけ繋がっていた…もう彼らの顔をまともに見る自信が無かった…


美久の結婚式は華やかだった…会社の人々や親族に祝福され幸福の絶頂と言う笑顔を振りまいていた…美久は私に「早くあんなの忘れてさ、新しい彼氏見つけなよ」と慰めてくれた。


この時、私を何とか支えてくれたのが大学の勉強だった何も考えず、勉強に没頭する事で自分を保てた…


そうして私は大学を卒業して、とある中堅商社に就職した事務職として働いた…私は何も考えず、ただただ目の前の業務をこなして行くだけに集中した。人との付き合いも前より消極的になり、上辺だけで何とか捌いていた…


私はますます地味になり、人付き合いも無くなり…趣味と言えば…有料動画配信で映画やアニメを観るだけが唯一の楽しみとなっていた…でも、どうしても…フッとした事で、止めども無く涙が溢れ出てどうしょうも無い事が有った…


登の事を…忘れられない…今でも好きなんだ…と心が訴えているのがわかっていた…


同僚はもちろん…私より後に入社して来た女子社員たちも次々と寿退社をしていき、私はいつの間にか…いわゆる御局さまになっていた…


「三十路を越えちゃった…私…」そんな私を両親も心配してくれて、幾つかのお見合いをセッティングしてくれたけれど、私はどうしても受け入れられなくて、全てをお断りしてしまった…


やがて両親も諦めてくれて、私の中ではホッとした思いと呵責の念が入り混じった塊が喉に詰まって涙が知らずしらずのうちに流れていた…


そんなある日、仕事関係の書籍を探しに本屋さんへ立ち寄った時に『店長オススメの新刊』なるものに目が止まった。著者の名前が[深井深(フカイシン)]となっていた…私と同じ苗字だった…つい本を手に取りパラパラっとページをめくり立ち読みをしてしまった…


少し読んだだけで心が奪われた…何だかフンワリした気持ちになって、つい購入してしまった…その夜、さっそくその本を手に取り、夜が更けるのを忘れて読みきってしまった…疲れも無く、むしろ充実したした気持ちで満たされた…こんな気持ちになったのは久しぶりだった…


私は自分と同じ苗字の著者に親近感を覚え、他の著作も探し求めていた…5冊出版されているのがわかったけれど、出版部数が少なく入手困難な状態だったがネットで何とか全部購入出来た…


著者のプロフィールはシンプル過ぎて地元が

同じと言う事しかわからなかった…


私は手に入れた本を何度も何度も読み返して、その世界へ入り込んでいった…出て来る登場人物の優しさ…ストーリーのほのぼのとした流れ…どれも私を癒してくれた…


また後輩が寿退社をする事になった…祝賀会を兼ねた送別会が有り、私も出席した。和気あいあいとした中…私に遠慮気味に飲み会は進み、盛り上がりの中、お開きとなった…


私は駅への近道だと思い込み違う方向へ進み、道に迷ってしまい、ホテル街へ入ってしまった…前から歩いて来たカップルとすれ違った時…私は男性に見覚えが有る様な気がした…


電車に揺られながら私はハッとした…あの男の人…美久の旦那さんだ…浮気…私の気持ちはドンと重くなって行った…人は裏切る生き者…そう思ってもやっぱり許せない気持ちでいっぱいになった…でも、これは美久に内緒にした方がいいだろうと感じた…


この頃は美久と会うのも年に1〜2回程度になっていた…彼女も家庭の事や子育てで忙しい様だった…そんな時、美久から「久しぶりに会わない?」って電話が有った。私は了解して日にちと場所を決めた。


本当は美久と会うのにとまどいがあった…会った後に止めとけば良かったと思う事が多く有ったけれど…高校時代のニオイを感じたくて、つい会ってしまう…


そして、その日、ちょっとした個室の有る和食屋さんで私は美久を待った。30分程遅れて美久は2人の子供を連れてやって来た。美久は前に会った時より恰幅が良くなり…生活疲れが滲み出ていた…


「ゴメン、ゴメン…コイツらに手間どっちゃてさ〜」「さ〜早くオバさんにあいさつしな」と美久は悪びれる事も無くサバサバと言った…私は苦笑を浮かべて「こんにちは〜大きくなったね〜」子供たちに声をかけた、5歳と3歳の男の子がペコリと頭を下げた…


「上の子はもう中学生だしさ…手がかからないんだけど、生意気盛りの女の子だから…もうヘトヘトだよ」「アンタはいいわね…独身で本当に羨ましいよ」私は苦笑いを浮かべるしか出来なかった…


美久と会うと羨ましがられる…でも、ドコかで私を見下している感じも拭えない…それは言動の端々でみられた…ま〜ある意味、事実なのだから、仕方ないのだけれども…


その日は特に酷かった…お金の無心はいつもの事だけど…私の心に突き刺さる事ばかりワザと言って来る…


イライラしてるのはわかるけど…親しくても言ってはいけない言葉をズバズバ言って来る…私をストレスの捌け口にしてるの?…いつもの私なら我慢していたけれども、その日はどうしても我慢出来なかった…


「私ね…アナタの旦那さんがキレいな誰かさんとホテルに入るの見ちゃたんだけど…お気の毒さま…」つい言ってしまった…美久の目が見るみる吊り上がるのがわかった…鼻も膨らんで…震え気味の声で…「フン、知ってわよそんなの!」

「そのうちアイツら2人から慰謝料分捕ってやるんだから…」


美久は私に哀れに見られない様に必死だった…でも急に目線が冷たくなり私をさらに見下す様に信じられない事を言い出した…


「ワタシを哀れに思ってるんでしょうけどね…」

「フフフ…本当に哀れなのはアンタよ…」私は

目を細めて美久を見た、美久の顔が醜く歪んで笑っている…


「登ってさ…本当は同性愛者じゃ無いの…アレはワタシの作り話しよ…ククク…あの話しをアンタが間に受けてさ…ククク…今思い出しても受けるよ…」私は愕然とした…


「アイツ、ワタシの事フッてさ…アンタに一途だってさ…それをアンタがさ…ククク…アンタおぼこ過ぎるよ…ククク…」「アイツが受験に失敗したのもさ…アンタが手作りしたって事にして、下剤入りのお菓子を受験前日に渡してさ…ククク…体調崩してさ…アイツも繊細だったからさ…その後も全滅…アハハハハ…」


私はボー然とした…何…この人…目の前がクラクラして来た…


気付いた時には食べ散らかした食器と伝票がテーブルの上に残されていて…無心して来たお金の入った封筒も無くなっていた…いや、そんな事は今はどうでもいい…


高校を卒業してから何年になるの…私…登…私たち…あんな人のために…人生が台無しじゃ無いの…もう訳がわからなかった…もう取り返しがつかない事だけはわかった…もう…もう…涙が溢れ出て…どうしょうも無かった…


         ◇◇◇◇



私の心が癒えるのに、どのくらいかかったのだろうか…今は美久を恨むより…愚かな自分が恨めしいだけだった…私の心を立ち直らせてくれたのは…深井深の著作だった…


優しい物語が私を包んでくれた…その世界に浸ると何もかもが忘れられた…


その日、私は母と一緒にデパートに来ていた…甥っ子夫婦の出産祝いの品を買いに来ていた…ふと後から声をかけられた…聞き覚えの有る声…いや、懐かしい声…振り返ると、英太が立っていた…可愛らしい女性を横にニコニコしながら

「久しぶり君子!元気だったか?」


私は涙がボロボロと溢れ出し止める事が出来なかった…


母は久しぶりなんだから話ししときなさいと、私を置いて行ってくれた…私は泣きながら言葉を出そうとすると嗚咽ばかり出て来た…英太は「コレオレのカミさん」と紹介してくれた…彼女は「も〜女泣かしてニヤニヤするな!」と英太を叱ってくれていた…


2人は私が落ち着くまで、ずっと待っていてくれた…「英太、おめでとう…素敵な奥さんね」彼女は愛らしく微笑んで「改めまして…コイツの嫁のサチコです」とペコリと頭を下げた。


「オレらアイツの受賞祝いを買い物に来てさ…君子が居てさ…本当…ビックりしたよ」私の胸が

なぜか高鳴った…アイツ…アイツ…


英太は遠慮しがちに「君子独身?…」と聞いてきた…私はコクっとうなづいた…「アイツもさ…登も未だに独身でさ…」私はまた目から涙が溢れ出して来た…「も〜また泣かして…」英太は頭をかいていた…


私にはとても信じられない話しだった…登は…あの私が大好きな…私を支えてくれてた…

作家の深井深だったのだ…登は私への思いを忘れられずに、私の苗字を使って作家活動を続けていたのだ…そして今回はさる有名な賞に選ばれたとの事だった…


今月末にとあるホテルで受賞パーティーが開かれそうで…その祝い品を英太夫妻が買いに来ていたのだった…


「君子も来いよ…アイツ喜ぶぞ!」

「私そんなの行く資格が無いよ…勝手に縁を切っちやって…今さらそんな…」また、涙が溢れ出して来た…「そうだ、アイツ大学スベって、フラらたって今でも思ってるよ…あの時に何が有ったんだ?…」


私は嗚咽まじりに美久とのいきさつを話した…


英太夫妻は笑いを堪えるのに必死だった…

「オレらが同性愛者…ププププ…」「コラ笑うな」と奥さんが英太を叱った…奥さんも笑っていたけど…「しかし…美久のヤツ酷いな〜」変な間が出来た…私ってバカなんだ…笑いたいのに泣いてしまう…


聞けば、登の受験失敗は本番に弱い繊細な登自身のセイだった…あのお菓子は食べずに、ずっと宝物として今だに残しているとの事…

私もバカだけど…登もバカ…笑いたいのにまた泣いてしまう…




         

         ◇◇◇◇




そして受賞パーティーの日、私は精一杯に着飾って…本当に私が手作りしたお菓子を持参して会場に向かった…胸のドキドキが止まらない…あの大好きな作家が…もっと大好きな登なんだから…


会場に入ると登が立っていた…隅の方にチョコんと…今日の主役なのに…脇役の様に…私と目が合った!あの懐かしいフワ〜とした笑顔が見えた…少し白髪が目立つけど…私も登から見ると同じ様なもの…


登がギコチなく歩み寄って来た…私の心臓は破裂しそうだった…いい年なのに純真な少年の様な目で私を真っ直ぐ見つめて…

「あの頃…ボクらは大事なコトを他人まかせにしちゃって…ちゃんと告白しなかったね…何年越しになるだろう…イヤそんなのはイイや…」


コホンと咳払いをして…

「君子!ボクと結婚して欲しい!」

私の目に涙が溢れ…

「こんな私でいいんですか?」と答えた…

登は私をギュッと強く抱きしめた…


英太が会場のマイクを掴み「本日の受賞パーティーに婚約パーティーを追加させていただきます!みなさん盛大なる拍手を!!」



大歓声の中…私たちはフワフワした温かい気持ちに包んまれて…ずっとずっと見つめ合っていた…
































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