霧の中
掲載日:2026/09/15
近頃よく忘れる
嫌なことに、「何かを忘れた」ということは覚えている
「忘れた」という記憶も忘れられたら良いのに
そう思っても、中途半端に覚えている
「どんなに大事なことだったか」
「絶対忘れないと誓ったのに」
焦りが、もどかしさが、心を苛んでも、
思い出しはしない
あと少しの所で、記憶は霧の中だ
その霧を通して、何かが
薄ぼんやりと
誰かの顔?
覚えがある目鼻立ち
そうだ。あの…
えっと…
どうしても思い出せない
夢の中、その人がいる
薄い霧の中、その人の笑顔が見える
寂しげな横顔も見えた
胸が締め付けられる
その人のことを私は
愛していたんじゃないのか?
そうだとしたら
それなのに
その人はまた霧の中へ消えていく
哀しく、夢から覚めた
隣で寝ていた妻が、
こちらに声をかける
なんでもないと応える
妻は、また眠りにつく
その横顔に、
突然
衝撃を受けた
何かを思い出した気がした
大事な何かを
しかし、すぐに
忘れてしまった
もう思い出せない
しばらく、妻の寝顔を見る
しかし、もう何も起きない
仕方なく、横になり
また夢を待った




