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記憶を失った彼が戻るまで

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/05/10


♦︎

「誰ですか?」


病院のベッドの上に座っているのは、

駅のホームの階段から落ちた春水(はるみ)君(27)は頭を打ったショックで右足の骨折。そして、記憶を失っていた。


私と春水君は、高校一年の時に同じクラスになり、

彼が私に一目惚れをしたと猛アタックの末に付き合い、22の時に結婚した。子どもはまだいない。


「私は、友達の七海(ななみ)よ・・・。」


この方が誰なのか分からない。

でも、泣いている七海さんという人を見て、彼女を泣かせてはいけないと思った。


七海さんが帰った後、母親と父親、弟と名乗る人達が会いに来た。

しばらく話をした後で母親と父親は飲み物を買いに部屋の外に出た。


そんな時、話しかけてきたのはまだ部屋にいた夏水(なつみ)さん。彼は、俺より3つ歳が下らしい。


「兄ちゃん、いや、うん。記憶が無くても俺はそう呼ぶからね。」


「え、ええ・・・。」

 

「ところで兄ちゃん。七海さんを泣かしてないだろうね?」


「え?どうしてそれを?確かに先程泣いてました・・・。」


「そりゃそうだよ!俺らだけならまだしも、七海さんだよ?彼氏に忘れられるなんて可哀想過ぎるよ。」


「ちょっと待って下さい。あの方、友達ではないのですか?」


「え、聞いてないの?七海さん、兄ちゃんの恋人だよ。」


 

♦︎

数日後。

「七海さん、どうして友達だなんて嘘を・・・。」


「春水君に負担に思わせたくなかったの。

記憶を無くして、ただでさえ心が痛いはずなのに。

これ以上傷付けたくなかった。」


「じゃあ、七海さんの痛みはどうなるんですか?」


「え?」


「そうやって、今までも一人で心に蓋をしてきたんじゃないんですか?」


「・・・そんなことないわ。これでも言いたいこと言ってるわよ?私、飲み物買ってくるね。」


「は、はい・・・。」


俺はまずいことを言ってしまったのだろうか。

これ以上、彼女を泣かせたくないのに・・・。


それからすぐに彼女はレモンティーのペットボトルを買って来た。


「はー、すっきり。」


「レモンティー好きなんですか?」


「うん。私ずっと紅茶はレモンティー派なのよね。」


レモンティー、か。

恋人だったならそれくらい覚えてて当然なのに。

俺は、そんなことさえも忘れてしまったのか。



♦︎

しかし、その数ヶ月後、小さな事件が起きた。


花を生けている七海に後ろから名前を呼ぶ声がした。


「あのー、七海さん。」


「んー?」


花を整えながら七海が聞く。


「その、非常に言いにくいんですが・・・。」


「なーに?」


振り返って再び聞く。

 

「ズボンが裂けて・・・下着が見えてしまってます。」


その言葉に慌ててお尻を隠しながら七海が確認をする。

 

「えぇ!?やだ!!何よこれ!いつから!?きゃーやだ〜!」


あれ、なんか今・・・何か蘇って・・・。


「ちょっと!見ないでよ。恥ずかしいじゃない!」


ずっと見ていたので抗議が入る。


「すみません。なんだか見覚えがある下着のような気がして・・・。もっと近くで見たら記憶が戻るかもしれません。」


真顔で言う春水にツッコミを入れようとしたその瞬間。

 

「春水君のへんたっ・・・。」


彼女の目からポロポロと涙が落ちた。


「すみません。俺、またあなたを泣かせてしまった・・・。」

 

「ごめん、違うのよ。前にも同じようなことがあったから。」


「え、そうなんですか?」


「ええ。」


♦︎

そう。あれは付き合い始めの頃。

お互い初めてで緊張しまくってたっけ。

新しい下着を着て挑んだのよね。

 

捨てたくなくて、ずっとタンスに仕舞ってあった。

こんなにへたへたになってしまったけれど・・・

今は春水君のお見舞いの日だけ着るようにしてるのよね。

 

「うん、よし!少しでも記憶が戻る可能性があるなら見てもいいわよ。」


「え、本当にいいんですか?」


どうしてそんな純粋な目で言えるのよ・・・。

あなたは裂けたズボンの隙間からパンツを見ようとしているのよ!


「んー・・・。」


「ど、どう?」


「思い出せそうな、思い出せなさそうな・・・。」


更に眉間に皺が寄るほどじ〜っと見つめられ・・・。

さすがに七海が顔を真っ赤に染め上げている。


「もー!春水君のえっち!」


記憶を失ってもムッツリスケベなんだから。

そう・・・春水君は春水君よね。

記憶があってもなくても、それはきっと変わらないんだわ。


「でも、本当に前にも見た気がするんです。」


「分かったわよ!好きなだけ見てちょうだい!」


ヤケクソになった七海が春水の方にお尻を突き出した。


「あ、ヤバい・・・。」


「え?」


「いや、これは生理現象で・・・。」


春水が布団の上から股間の部分を両手で押さえている。

見えないが、どうやら勃ってしまったらしい。


「それ、一人でなんとかできる?」


「できないと言ったら、手伝ってくれるんですか?」


「春水君のばか!いくらこの部屋に人がいなくたってさすがに無理よ!」


「だって、あなたが聞くから・・・。」


その時、看護師が入ってきた。


「あのー、病院内ではお静かに・・・。」


そう、この時私はまだ春水君にお尻を突き出していて、

更にズボンの裂け目から下着が見えてしまっていた。


私達が何か言う前に

何事もなかったかのように看護師さんがスッと扉を閉めて去っていった。


それからほどなくして、春水君は記憶を思い出したのだった。

初めての日のパンツ効果、かな?


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