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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第四十三話:屈服!王宮の守護はゴミ箱行き!?


 静寂。先程まで絢爛豪華な装飾と、この国の頂点たる権威に満ちていたはずの王宮の謁見の間。現在そこを支配していたのは、厳かな空気などではありませんでした。


 それはまるで、光の届かない極寒の深海に無理やり沈められたかのような、あるいは巨大な古代竜の顎の間に放り込まれたかのような、息を吸うことすら躊躇われる絶対的な死の予感でした。


 玉座に座る国王陛下は、もはや国を統べる王としての威厳を保つことすらできていません。黄金の王笏を握る手は老木のようにガタガタと震え、豪華なマントの下の膝は小刻みに痙攣を繰り返しています。


「リ、リリア・ハルトマン……。貴様、ハルトマン家は……この王国を、歴史ある我が国を滅ぼすつもりか……っ!」


 血の気を失った唇から絞り出すように放たれた陛下の問いに、私は純白の扇で口元を隠しながら、心底呆れたように小さく溜息を吐きました。


「滅ぼす? 陛下、随分とご自身の価値を高く見積もっておいでですのね。自意識が過剰でいらっしゃいますわ。道端に落ちているゴミを掃き溜めにまとめる日常的な清掃活動の引力を、貴方は『世界の滅亡』と呼ぶのかしら?」


 私は、塵となって吹き飛んだ大扉の残滓が舞う中を、一歩、また一歩と玉座へ向かって歩みを進めました。私が足を下ろすたびに、最高級のふかふかとした赤い絨毯が、目に見えないプレッシャーによって押し潰され、硬い岩盤のような音を立てます。


 周囲を見渡せば、私やハルトマン家の面々が無意識に放つ威圧感に耐えきれず、白目を剥いて転がっている近衛騎士や魔導師たちの肉の絨毯が広がっておりました。


「そうだぞ、陛下! 我々が求めているのは滅びなどではない、真の平和だ! テオ君の純粋無垢な魂の前では、その頭に乗っている王冠など、俺の毎日鍛え上げている大胸筋以下の価値しかないと知るがいい!」


 背後でお父様が、両腕をクロスさせて筋肉を誇示しながら、暑苦しくも物理的な威圧感を放っています。その言葉の意味は全くわかりませんが、気迫だけは王宮の石組みを揺るがすほどでした。


「リリア、計算は完了しているよ。今この場で国王と第一王子が『不慮の事故』で消滅した場合、王国の経済が被る損失よりも、僕たちがテオドールに買い与えるおもちゃの予算の方が、市場への経済効果が高いという結果が出た。つまり、彼らはお掃除した方が国のためになる」


 カイル兄様が、眼鏡を青白く光らせながら、狂気に満ちた経済理論を淡々と述べています。ジュリアン王子は、その言葉を聞いて「ひっ……」と情けない悲鳴を上げ、玉座の陰でさらに小さく丸まりました。


「陛下。勘違いしないでくださる? 私は、貴方がたが座っているその玉座など欲しくもありませんわ。テオの柔らかい肌が触れるには、あまりにも不潔で、薄汚れた冷たい石ころに過ぎませんもの」


 私は玉座へと続く階段の下で立ち止まり、震える国王の鼻先へ向けて、閉じた扇をスッと突きつけました。


「私が本日ここへ参りましたのは、いくつかの決定事項を貴方の魂に、そして王家の歴史に深く刻み込むためですわ。メモの用意はよろしいかしら?」


「け、決定事項だと……!? 貴様、一介の公爵令嬢の分際で、王に条件を突きつけると言うのか!」


「あら、聞こえませんでしたの? では、わかりやすく三つにまとめて差し上げますわ。一つ、本日をもってハルトマン領の完全なる自治を認めなさい。王家および中央政府による、我が領地への一切の干渉、法的な制約を未来永劫禁じます」


 国王だけでなく、壁際で震えていた大臣たちも、そのあまりにも強引な要求に息を呑みました。それは実質的な独立宣言に他なりません。


「二つ、我が愛しき弟、テオドール・ハルトマンを、この国の『絶対的不可侵の聖域』として指定すること。あの子の半径一キロ以内における不敬な発言、およびあの子の安眠を妨げるような不快な事象の発生は、国家反逆罪と同等とみなします。もし破られれば、私が即刻出向いて、その元凶を塵一つ残さずお掃除いたします」


 私はそこで言葉を切り、玉座の陰で震えているジュリアン王子へと、極寒の視線を向けました。


「そして三つ。身の程知らずにも私に付き纏い、あろうことか我が家に兵を差し向けたジュリアン王子の永久的な蟄居。最後に、テオの昼寝を邪魔したことによる多大な精神的苦痛への慰謝料として、王家の宝物庫にある最高級の魔導布地と、歴史的価値のある癒しのアーティファクトをすべて献上なさい。……お母様、よろしいですわね?」


「ええ、リリア。リストアップは既に済ませてありますわ。テオちゃんのおくるみを作るのに、王国の国宝級の布地はちょうどいい肌触りですもの」


 お母様が、空間魔法のゲートを展開しながら優雅に微笑みました。


「な、……舐めるな! そんな不当極まりない要求、通ると思っているのか……っ! いくら貴様らが規格外であろうと、我らには、建国よりこの王宮を守り続けてきた『絶対守護精霊の加護』があるのだ!」


 国王陛下が、最後の力を振り絞るように王笏を高く掲げました。その瞬間、謁見の間の床や壁に刻まれた古代の魔法陣が眩い黄金の光を放ち、王宮全体を包み込むような巨大な魔力の壁が出現しました。


「おお……! 見よ、これぞ王家の威信! 貴様らの暴力など、この絶対防御の前では――」


「加護? ああ、この薄皮のことかしら?」


 私が空中に向かって細い指を突き立て、ピンと軽く弾いた、その刹那。


 空間が、まるで薄い氷のように『パリン』と甲高い音を立てて砕け散りました。王宮を何百年も守り続けてきたという伝説の防衛結界が、私の「こんなものは不要だ」という断ち切る意志一つによって、ゴミ箱に丸めて捨てられた紙屑のように潰れ、瞬時に消滅したのです。


「え……?」


「ひ、ひいぃぃっ!? しゅ、守護障壁が……一瞬で、指先一つで……っ!」


 国王は、その理不尽なまでの深淵を直視した瞬間、完全に心が折れました。王笏を床に取り落とし、玉座から転げ落ちるようにして床に這いつくばると、額を絨毯に擦り付けました。


「陛下、いい加減に理解してくださいな。貴方が本日、首と胴体を繋げたまま息をしていられる唯一の理由は、私がここで殺戮を繰り広げると、後でテオに読み聞かせる今日の出来事が、少しばかり血生臭くなってしまうと判断したからに過ぎませんのよ」


「わ……わかった! わかったから! すべて貴様の、ハルトマン家の思い通りにする! 領地の自治も、テオドール殿下の不可侵も、宝物庫の鍵もすべて渡す! だから頼む、その……その恐ろしい力を、どうか収めてくれぇぇっ!」


 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした国王が、命乞いを発しました。ジュリアン王子に至っては、既に泡を吹いて気絶しております。


「物分かりがよろしくて助かりますわ。では、あとの細々とした事務手続きと宝物庫の整理は、お父様とお母様に任せます」


 私はクルリと踵を返し、倒れている近衛兵たちを避けながら歩き出しました。


「リリアたん、もう帰るのか!? パパはまだ、筋肉の強さを十分の一も語りきっていないぞ!」


「お父様、急ぎますわよ。もうすぐ、テオのおやつの時間です。それに、あの子が寝返りを打って私を探した時、私が傍にいなければ、あの子が寂しがってしまいますもの」


 私がそう告げると、ハルトマン家の面々の顔つきが「王家への怒り」から「テオへの奉仕」へと一瞬で切り替わりました。


「いかん! テオ君の寝返りを見逃すなど、父親として万死に値する! カイル、契約書に血印を押させろ! シオン、宝物庫の中身を空間魔法で根こそぎ袋詰めだ! 急ぐぞ!」


「……あ。おい、お前ら。王様の席の横にあった、お供え物の果物と肉、全部もらっていくからな。あいつとの約束だ」


 カレンが、気絶した王子の横から高級なフルーツの盛り合わせを両手いっぱいに抱え込みながら、モグモグと口を動かして続きました。


(ふふ。テオ。これでようやく、あなたとの平和な休日を邪魔する不愉快な羽虫は駆除されましたわ。王都のゴミも一通り片付きましたし、これで安心してあなたを甘やかすことができます)


 私は王宮を出る際、再び純白の日傘を広げました。冬の夕日に照らされた私の姿は、王国の破壊者などではなく、ただ一人の愛しき弟の平穏を守るためだけに、世界そのものを跪かせた最強の「お姉様」の輝きを放っておりました。


 ハルトマンの絶対序列。それは王家の権威さえも、一人の少女の『姉バカ』という名の果てしない執念によって再起不能なまでに踏み躙られたことで、この国の不変の真理となったのでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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