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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第四十二話:粛清!王家の権威は紙切れ同然!?

 

 ハルトマン邸の豪奢な鉄柵の向こう側に積み上げられた、第一聖騎士団という名の不燃ゴミの山。

 カレンが「お肉三倍」という極めて現実的かつ野性的な報酬のために、彼らの誇りも鎧も物理的に再起不能なレベルまで粉砕したのを見届けた後、私は静かに純白の日傘を回しました。


 冬の冷たい風が、血と鉄の匂いを微かに運んできます。しかし、私の周囲に展開された絶対的な浄化結界により、その不浄な空気がハルトマン邸の敷地内に侵入することは一ミリたりとも許されていません。

 背後の寝室では、私の愛しき弟であるテオが、完全なる防音と快適な温度調節が施された空間で、スヤスヤと天使のような寝息を立てているはずです。


「……さて。お父様、お母様。そして兄様たち。どうやら、私たちのささやかな警告は、王宮の奥深くでふんぞり返っている愚か者たちの耳には届いていなかったようですわね。お掃除の時間です。準備はよろしいかしら?」


 私の声は、どこまでも低く、そして冬の湖面のように澄み渡っておりました。しかし、その言葉の裏に渦巻いている元剣聖としての濃密な殺気は、周囲の空間そのものを歪ませ、空を不吉な暗雲で覆い尽くすほどの質量を持っています。


「準備だと? リリアたん、愚問だな! パパの筋肉は、テオ君の安眠を妨げた王宮の柱を一本残らずへし折るために、今この瞬間のためにパンプアップされているのだ! さあ、王宮を更地にして、そこにテオ君専用の巨大な遊園地を建設しようではないか!」


 お父様が、着ている最高級のスーツを内側から引き裂きそうなほどの闘気を放ちながら咆哮しました。

 その隣では、シオン兄様が既に愛剣を引き抜き、瞳孔を開ききった状態で「斬る……テオの耳を汚した不敬な輩の鼓膜を、すべて物理的に削ぎ落としてやる……」と、呪詛のように呟きながら虚空を切り刻んでいます。


「リリア。王宮の魔導防衛システムの解析は既に完了しているよ。僕の計算によると、王宮の魔力供給源となっている地下の霊脈に特定の波長の魔力を流し込めば、お城全体を傷つけることなく、中にいる人間だけを綺麗に気絶させることができる。……まあ、少しだけ脳の血管が切れるかもしれないけど、誤差の範囲だよね?」


 カイル兄様が、眼鏡の奥で冷酷な光を瞬かせながら、王国の歴史を終わらせかねない恐ろしい魔法理論を平然と語りました。

 お母様も「あらあら、それなら私も、王家の宝物庫の封印を解くための古代魔法を準備しておきますわ。テオちゃんの新しいおもちゃが、きっとたくさん眠っているはずですもの」と、優雅な微笑みを浮かべながら国家の財産を略奪する気満々です。


 これが、王国最強と謳われるハルトマン家の真の姿。一人の赤ん坊の睡眠を守るためだけに、国家を滅ぼすレベルの戦力が惜しげもなく投入されようとしているのです。


「行きましょうか。馬車などという悠長なものは必要ありませんわ。私たちの足音で、王都中の空気を震わせて差し上げましょう」


 私たちは、ハルトマン家の全戦力を引き連れ、ただ歩いて王都の目抜き通りを突き進むという進軍を開始しました。

 一歩踏み出すごとに、私たちが無意識に放つ尋常ではないプレッシャーが地面を伝わり、王都全体が微かに震動します。道ゆく人々や露店の商人たちは、私たちの姿を視界に収めた瞬間、本能的な恐怖で悲鳴を上げることも忘れ、次々とその場に膝をついて祈りを捧げ始めました。

 それはもはや貴族の散歩などではなく、歩く天災の移動に他なりません。


 やがて、私たちの目の前に、王宮の正門がその威容を現しました。

 数代前の国王が「絶対に不落である」と豪語して建造させたという、純度百パーセントの魔法銀でコーティングされた巨大な門です。

 門の上では、私たちの接近に気付いた近衛騎士たちが、震える手で弓矢や魔導銃を構え、絶望的な声を張り上げていました。


「と、止まれぇぇっ! ハルトマン公爵! ならびにリリア・ハルトマン! これ以上近づけば、国家反逆罪とみなし、王家の名において迎撃する!」


「リリア様。あの門、リリア様の通行を拒むかのように無様に閉じられております。あまりにも不敬ですわ、私がこの手で粉砕してもよろしいかしら?」


 アイリスが、手にした暗殺用の短剣を舐めながら狂気に満ちた眼差しで進言しましたが、私は静かに扇を広げてそれを制止しました。


「アイリス、あのような粗大ゴミに、貴女の美しい手を汚させる必要はありませんわ。それに、大きな音を立てては、いくら防音結界を張っているとはいえ、テオの夢見が悪くなるかもしれませんもの」


 私は日傘を傾け、巨大な魔法銀の門の前に一人で歩み出ました。

 上空から降り注ぐ矢や魔法の気配を完全に無視し、私はただ、腰に差した練習用の木剣にすら手をかけることなく、右手の指先を門へ向かって軽く振るいました。


 物理法則の崩壊。そして、絶対的な理の切断。


 爆発音すらありませんでした。ただ、強固な魔法銀を構成していた原子同士の結合が、私の「邪魔だから断ち切る」という意志一つによって、一瞬にして強制終了させられたのです。

 巨大な門は、中央に一筋の光の線が走った直後、音もなくサラサラと塵になって霧散し、冬の風に乗って消え去っていきました。


「……え?」


 門の上で迎撃の構えをとっていた騎士たちが、自分たちの足場と絶対の防壁が消滅したことを理解できず、間抜けな声を漏らしながら次々と地面に落下していきます。


「通りますわよ。掃除の邪魔をしないでくださる?」


 私は、塵となった門の跡地を悠然と通り抜け、王宮の敷地内へと足を踏み入れました。

 王宮の最深部、国王陛下が震えているであろう謁見の間へと続く大階段を一気に駆け上がります。迎撃に現れた王宮魔導師団やエリート近衛兵たちは、私たちが近づいてプレッシャーを放つだけで、次々と白目を剥いて失神し、豪華な絨毯の一部と化していきました。


 そして、ついに重厚な謁見の間の扉の前に到着しました。私はカレンに視線で合図を送ります。


「……開けゴマ」


 カレンが、報酬のお肉を思い浮かべながら、手にした木の枝で軽く扉を突きました。

 その瞬間、凄まじい衝撃波が走り、数十人がかりでなければ開かないはずの巨大な扉が、蝶番ごと吹き飛んで謁見の間の中へと転がっていきました。


 舞い散る埃と静寂の中、私はゆっくりと中へ入ります。玉座に座り、震える手で王笏を握りしめている国王陛下と、その側で青ざめている大臣たち。そして、部屋の隅でガタガタと震えているジュリアン王子の姿がありました。


「リ、リリア・ハルトマン……! 貴様、これがいかなる暴挙か分かっているのか! 王家への反逆だぞ!」


 国王陛下が、枯れた声で必死に威厳を取り繕おうと叫びました。

 私は、その滑稽な姿を冷たい紫の瞳で見下ろし、手にした扇をパチンと静かに閉じました。


「暴挙、ですか。陛下。ご自分の身の程をわきまえない発言は、寿命を縮めますわよ」


 私が一歩、玉座へと近づいた瞬間。謁見の間の中の空気が質量を持ったかのように重くなり、玉座を支える大理石の石柱に無数の亀裂が走りました。

 国王陛下の顔から、一瞬にして血の気が引いていくのがわかります。


「私の愛しき弟、テオドール。この世界で最も尊く、最も守られるべきあの子の健やかな午睡を妨げ、あろうことか我が家に不潔な刺客を送り込んだのは、貴方たちかしら?」


「そ、それは……ジュリアンが学園で貴様に害されたという報告が上がり……王家の威信を示すために……っ!」


「威信? 鏡を見せてあげただけですわ。鏡に映った自分自身の矮小さに耐えられないほど、貴方たちの王家のプライドとやらは、脆くて薄汚れたものだったのでしょう。それに、王家の威信など、テオの抜け落ちた産毛一本ほどの価値もありませんわ」


 私は、さらに一歩踏み出しました。陛下を守ろうと前に躍り出た近衛騎士団長が、背後に立つお父様の一瞥と鼻息だけで壁まで吹き飛び、めり込んで沈黙しました。


「陛下。今日、私は貴方たちを本格的にお掃除しに来ました。殺すわけではありませんわ、それではテオへの読み聞かせの絵本が血生臭くなってしまいますから。ただ、ハルトマン家の絶対的自治、そしてテオに対する一切の干渉の禁止を、この国の『絶対の理』として、貴方たちの魂に直接刻み込みに来たのです」


 私の紫の瞳が、剣聖としての輝きを最大出力まで増幅させました。王宮全体が、私の怒りに共鳴するように激しく震え、天井からシャンデリアのガラスがパラパラと崩れ落ちてきます。


(テオ、お姉様は今、世界で一番大きなゴミ捨て場に来ていますよ。ここでしっかりと害虫駆除を済ませれば、もう二度とあなたの眠りを妨げる音は鳴りませんからね)


 私は心の中で愛しい弟へと語りかけながら、恐怖のあまり玉座の上で失禁寸前まで追い詰められている国王陛下を見下ろし、極寒の、しかし同時に燃え盛るような狂気を孕んだ微笑みを浮かべるのでした。


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