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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第三十一話:傲慢!第一王子の勧誘は不敬すぎ!?



 王都の市場で手に入れた、テオのための最高級羊毛。

 私は、カイル兄様が施した幾重もの防御術式に加えて、私自身の「不壊」の意志を魔力として編み込む作業に没頭しておりました。一針通すごとに、空間が微かに歪み、マフラーという名の「特級防具」が形を成していく過程は、かつて名剣を研ぎ澄ませていた頃のような、静かな愉悦を私に与えてくれます。


「……ふふ。テオ、待っていてくださいね。これを巻けば、たとえ火竜の息吹を正面から浴びても、貴方の産毛一本たりとも焦がさせはしませんわ」


 そんな至福の時間を過ごしていた私を現実に引き戻したのは、寄宿舎のサロンに響く、ひどく耳障りで、尊大さに満ちた足音でした。


「――リリア・ハルトマン。ここにいたか」


 顔を上げれば、そこには数人の取り巻きを引き連れた、一人の少年が立っておりました。

 この学園の第一王子、ジュリアン・フォン・アルカディア。

 黄金の髪をなびかせ、自身を太陽か何かと勘違いしているような傲慢な光を瞳に宿した、王国の次期後継者候補。


 私は、編み物とテオへの想いを中断された不快感を、完璧な淑女の微笑の下に隠しました。


「これは、ジュリアン殿下。……このような場所まで、どのような御用かしら?」


「単刀直入に言おう。リリア、お前を僕の『側近』に加えてやることにした。光栄に思うがいい」


 ……一瞬、私の耳が腐ったのかと思いましたわ。

 あるいは、この少年は、私が「ハルトマンの絶対序列」を刻んだ入学式や演習場の件を、すべて夢か何かだと思っているのでしょうか。


「……側近、ですか? 申し訳ありませんが、私には既に、この命を捧げるべき尊きあるじがおりますの。殿下の誘いをお受けする余地はございませんわ」


「ふん、どうせ弟のテオドールのことだろう? 騎士団長から聞いたよ。お前が異常なまでに弟を溺愛しているとな。だが、公的な序列は別だ。ハルトマン家の力、そしてお前のその規格外の魔力……。それを王家の、つまり僕の所有物とすることは、王国の安定に繋がるのだよ」


 所有物。

 その言葉が彼の唇から零れ落ちた瞬間、私の周囲の空気が、絶対零度まで凍りつきました。


(……やれやれ。かつての私、アルスが仕えた王たちは、少なくとも己の器の小ささを自覚し、強者への敬意を忘れない賢明さを持っていましたわ。……目の前のこの『雛鳥』は、自分の命がどれほど細い糸で繋がっているかも理解できていないようですわね)


 私はゆっくりと立ち上がりました。

 一歩。私が踏み出しただけで、サロンの重厚な石床がミシミシと悲鳴を上げ、ジュリアンの背後にいた取り巻きたちが、本能的な恐怖に駆られて一斉に後退しました。


「殿下。……一つだけ、教えて差し上げますわ」


 私は、ジュリアンの瞳を真っ向から見据えました。

 私の紫の瞳には、かつて数多の戦場を支配した「剣聖」としての冷徹な輝きと、愛しき弟を侮辱されたことへの、底なしの殺意が混ざり合っておりました。


「貴方のその瞳。……テオの、あの朝露のように清らかな瞳に比べれば、あまりにも浅ましく、よどんでおりますわね。……そんな濁った視線で、私やハルトマン家を『所有』できるとお考えかしら?」


「な……っ!? き、貴様、王子である僕に向かって不敬な……っ!」


 ジュリアンが激昂し、自身の腰の剣に手をかけようとした、その刹那。

 

 ――ッ!!


 サロン全体を、物理的な「質量」を伴った絶望的なプレッシャーが押し潰しました。

 重力が増幅したわけではありません。ただ、私が「不快だ」と念じただけで、世界そのものが彼を排除しようと牙を剥いたのです。


 ガクンッ、と。

 ジュリアンは、自分の意志とは無関係に、その場に膝をつかされました。

 床板には彼の膝の形に亀裂が走り、彼の周囲の空気は、あたかも巨大な鉄槌で叩かれたかのように圧縮されています。


「ひ……っ、あ、あが……っ!?」


「殿下。……鏡をご覧になってから、お話しになって? 貴方がどれほど高貴な血を引こうとも、私にとっては、テオがこぼした離乳食の一粒よりも価値のない存在ですわ」


 私は、跪いた王子の耳元で、甘く、そして死を予感させる冷たさで囁きました。


「もし……次があれば。貴方のその傲慢な首を、私の編み物の『糸』の代わりにさせていただきますわよ? ……お分かりいただけて?」


「…………っ、……っ!!」


 ジュリアンは、恐怖のあまり喉を鳴らすことさえできず、ただガタガタと震えながら私を見上げていました。彼の取り巻きたちは、既に腰を抜かしてその場に崩れ落ち、失禁している者さえおります。


 私は、彼を一瞥いちべつもすることなく、再び椅子に腰を下ろし、編みかけのマフラーを手に取りました。


「アイリス。……お掃除をお願い。不快な『汚れ』が残っていると、テオへの手紙が書けませんわ」


「御意にございます、リリア様!! ああ、不敬な王子を物理的に黙らせるその神々しきお姿……! 後の処置は、このアイリス・バルガスが、ハルトマン家の名に懸けて完遂いたしますわ!」


 影から現れたアイリスが、狂気に満ちた微笑みを浮かべてジュリアンたちを「収穫」し始めるのを見届け、私は再び、穏やかな(周囲を威圧する)時間へと戻りました。


 学園での生活。

 それは、私の愛するテオを脅かす可能性のある、あらゆる「傲慢」を叩き潰すための聖域。

 王家であろうと、神であろうと。

 私の序列を乱す者は、容赦なくその塵へと還元して差し上げますわ。


(テオ。……今日もお姉様は、少しだけ悪い子を教育してあげましたよ。……早く、このマフラーをあなたの首に巻いて、あなたのあの天使のような笑顔を独占したいものですわね)


 私は、再びペンを走り始めます。

 

 ハルトマンの絶対序列。

 それは、王族の権威さえも、一人の少女の「姉バカ」という名の執念によって、無慈悲に粉砕されることで、より確固たるものとなったのでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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