表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第一章:「最強の家族」と「秘密の修行」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/41

第六話:決意!この家で生き残れ!?


 転生してから半年あまり。

 俺ことリリア・ハルトマンは、揺り籠の中から天井を見上げ、深く、重い吐息を漏らしていた。……もちろん、乳児の肺活量では「ぷしゅー」という情けない音にしかならないが、その内実は、かつての戦場をいくつも越えてきた剣聖の苦渋に満ちている。


(……考えが甘かった。この家族、一人一人が強すぎる。……物理的にも、情緒的にもだ)


 これまでの人生、俺は孤独だった。

 剣聖アルスという名は、畏怖と羨望の代名詞であり、誰も俺の隣を歩こうとはしなかった。俺自身もそれを望まず、ただ己の剣先だけを信じてきたのだ。

 だが、今の俺を取り巻く環境はどうだ。


 まず、パパことゼフ・ハルトマン。

 王国最強の盾という異名は伊達ではなく、その腕力は俺の赤ん坊としての生存本能を常に脅かしている。彼に「高い高い」をされるたび、俺は死の淵から帰還した戦士のような顔をせざるを得ない。しかも、あの親バカフィルターのせいで、俺の引きつった表情は「パパに遊んでもらえて喜んでいる顔」に変換されてしまう。


 次に、ママことエリナ。

 元宮廷魔術師。彼女の魔力操作は神の領域に近い。俺が隠密に修行しようとしても、彼女の張り巡らせた「防犯用(という名の見守り用)」の魔力感知網にすぐ引っかかる。俺が少しでも魔力を練れば、すぐに「あら、お熱かしら?」と飛んできて、額にひんやりとした、だが逃れられない慈愛の術を叩き込んでくるのだ。


 そして、二人の兄貴たち。

 猪突猛進のシオンと、知略の塊であるカイル。彼らの愛情という名の猛攻は、前世の俺が対峙してきたどんな軍勢よりも厄介だった。


(……このままでは、俺はただの『可愛い末娘』として一生を終えてしまう。それだけは、絶対に避けねばならん)


 俺は心の中で、自分自身に強く言い聞かせた。

 俺の目的は、この最強の血筋と環境を最大限に利用し、前世で辿り着けなかった「剣の極地」に至ることだ。そのためには、まずこの「ハルトマン家」という名の巨大な要塞の中で、確固たる地位を築く必要がある。


(利用してやる。パパの強固な盾を、ママの高度な魔道知識を、兄貴たちの忠誠を……。俺が再び剣を持つその日まで、この家は俺の最高の『修練場』であり、最強の『陣地』だ)


 そう。俺は決意した。

 この家族に懐くのではない。この家族を、俺の再起のための最強の駒として「育て、利用する」のだ。

 そう思えば、ゼフの鬱陶しい頬ずりも、エリナの過剰な世話も、全ては俺の力を蓄えるための必要なコストとして許容できる。


(……よし、まずは肉体の掌握だ。いつまでも寝かされているだけでは始まらん。俺は……自分の足で立つ!)


 俺は意識を集中させた。

 全身を巡る、放出不可能な、内に籠もる魔力。

 それを、背筋から腰、そして足の裏へと一本の太い「芯」のように通していく。

 通常、生後半年程度の赤ん坊が自力で立ち上がるのは不可能だ。筋肉も骨格も、その自重を支えるようにはできていない。


 だが、俺には魔力がある。

 纏う魔力。これを骨格の代わりの支柱として、肉体の内側から強度を補強する。


(支えろ。俺の意志を。……剣聖の矜持を!)


 プルプルと、小さな体が震える。

 俺は揺り籠の柵をギュッと掴んだ。

 内側から爆発しそうな魔力を、緻密な制御で全身に定着させる。

 一ミリ、また一ミリと、俺の視界が上がっていく。


(……ぐ、ぬぅっ……! 重い、重すぎるぞ、自分の体が!)


 前世では意識すらしなかった重力。それが今の俺には、万雷の如き重圧となってのしかかる。

 だが、俺は諦めない。

 一度目の人生で、俺は誰の助けも借りずに頂点まで登り詰めたのだ。

 二度目の人生の第一歩を、誰かに支えられて踏み出すなど、剣聖の名が泣く。


 バキリ、と揺り籠の木枠が微かな悲鳴を上げた。

 俺の指先に魔力が集中し、赤ん坊の力ではあり得ない握力を発揮している。


 そして。

 ガタッ、と音がして、俺の足裏がしっかりと床を踏みしめた。


(立った……! 俺は今、己の力だけで……!)


 視界が高い。

 揺り籠の外に広がる、大きな世界。

 俺は満足感に浸り、声にならない快哉を叫ぼうとした。


 だが、その瞬間。


「……えっ?」


 聞き覚えのある、呆然とした声が部屋の入り口から響いた。

 そこに立っていたのは、洗濯物のカゴを抱えたエリナだった。

 彼女は目を見開き、カゴを床に落とした。……バサリと、シオンの泥だらけの練習着が散らばる。


「リ、リリア……? あなた、今……立っているの……?」


(……しまっ、た……!?)


 修行に没頭するあまり、気配を察知するのが遅れた。

 俺は反射的に腰を落とし、座り込もうとしたが、今の俺の肉体は一度「立ってしまう」ほどの過負荷な魔力運用を行っている最中だ。急に力を抜けば、反動で骨が砕けかねない。


 俺は、立ったまま固まった。

 仁王立ち。赤ん坊にあるまじき、堂々たる構え。


「ゼ、ゼフーーーッ! 来て! 大変よ! リリアが……リリアが立っているわ!!」


 エリナの悲鳴に近い叫び声が屋敷中に響き渡る。

 数秒後、地響きを立てて階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。


「なんだって!? リリアが!? まさか、まだ半年だぞ……うわああああああああっ!!」


 飛び込んできたゼフ。彼は、俺の姿を見るなり、その場に膝をついた。

 シオンとカイルも、その背後から顔を出す。


「リリアが……立ってる……。かっこいい……!」


「……信じられない。平均的な発達段階を完全に無視している。……いや、それ以上にあの立ち姿。重心の置き方が、まるで完成された武人のそれだ……」


 家族全員の視線が、俺に集中する。

 ゼフは、目から滝のような涙を流しながら、俺に歩み寄った。


「リリア……! お前はなんて誇り高い娘なんだ! パパに甘えず、自らの足で立とうとするなんて! ああ、神よ! ハルトマン家に、伝説の聖女が舞い降りた!」


(……いや、違う。聖女じゃない。剣聖だと言っているだろうが)


 ゼフは俺を抱き上げようとしたが、今の俺は「魔力による肉体強化」の真っ最中だ。

 彼が俺の脇に手を入れた瞬間、その「硬さ」に、一瞬だけゼフの目が騎士のそれに変わった。


「……っ!?(この硬度……筋肉ではない。内側から充填された、圧倒的な密度の魔力……?)」


 流石は宿敵。

 親バカの皮が一枚剥がれれば、彼は超一流の戦士だ。俺が何を行ったか、その断片を、彼は確実に感じ取った。


 だが、次の瞬間には、彼の顔は再びデレデレの父親に戻っていた。


「ははは! リリア、パパを驚かせるのがそんなに楽しいのかい? よしよし、今日は立てた記念日だ! お祝いにご馳走を食べようね!」


(……フン。気づかれたか。……まあいい。どうせ、貴様の脳内では『天才的な娘の快挙』として処理されるのだろうからな)


 俺はゼフの腕の中で、密かに溜息をついた。

 正体は明かさない。だが、隠し通すつもりもない。

 俺はこの家族の中で、誰よりも早く、誰よりも強く成長してみせる。


(……決めたぞ。俺はこの家で、最強の『聖女』を演じ切ってやる。そして、貴様ら全員を、俺が理想とする『最強の家族』に仕立て上げてやる)


 利用してやる、と心では思いつつ。

 俺を囲んで大騒ぎする四人の熱量を浴びながら、俺は少しだけ、本当に少しだけ、この騒がしい居場所が悪くないと感じていた。


(……おい、ゼフ。次は歩いてやる。……腰を抜かして驚く準備をしておけ)


 俺は父の髭面に、ニヤリと(本人には微笑みにしか見えない角度で)笑いかけてやった。

 元剣聖の、二度目の人生の本格的な攻略が、ここから始まる。

 ハルトマン家の平穏な日々は、俺という怪物の「決意」によって、さらなる混乱と熱狂へと突き進んでいくのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ