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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第二十五話:納得!王国最強は伊達ではない!?



 粉々に砕け散った第一訓練場。

 天井のステンドグラスは一枚残らず消失し、そこからは皮肉なほどに清々しい午後の陽光が、土煙の舞う床を照らしておりました。


 私は、手にした木剣――もはや私の魔力と衝撃に耐えきれず、目に見えない無数の亀裂が入ったそれを、静かに武器ラックへと戻しました。指先に残る、あの重厚で、かつ一切の揺るぎがない「鉄壁」の感触。それは、私の研ぎ澄まされた刃を、ただ「硬さ」だけで弾き返した、この世界で唯一の異能の証明でした。


「……ふぅ。少々、汗をかいてしまいましたわね」


 私は懐から、テオの産着と同じ最高級の綿で仕立てられたハンカチを取り出し、額をそっと押さえました。

 周囲を見渡せば、そこにあるのは阿鼻叫喚の図――ではなく、音さえ失われた「絶望的な沈黙」でした。生徒たちは壁際に積み重なるようにして倒れ、教官たちは震える膝を隠すこともできず、ただ中央で向かい合っていた「怪物親子」を、言葉を失って見つめていました。


 無理もありませんわ。

 今の交錯は、現代の魔導理論や剣術体系では説明のつかない、いわば「神話の再現」に近いものでしたから。


「リリア……。ああ、リリア、俺のリリアたん……っ! 今の最後の一閃、あの軌道、あの踏み込み……! ああ、俺の魂は今、お前の愛によって一度粉砕され、再構築されたぞ……っ!」


 お父様は、私の足元に膝をつき、鼻水を垂らしたまま、震える手で私の靴を拝むようにして仰ぎ見ておりました。

 先程までの、空間を物理的に圧迫していたあの「王国の盾」としての覇気はどこへ行ったのか。そこにいるのは、ただの「重度の親バカ」へと成り下がった、巨体の男でした。


 しかし。

 私はその醜態を見下ろしながら、内なる剣聖としての笑みを、わずかに深くいたしました。


(……認めざるを得ませんわね。ゼフ・ハルトマン。貴方はやはり、本物ですわ)


 今の私が放った一撃は、たとえ練習用の木剣であっても、並の騎士ならば鎧ごと存在を抹消するに足るものでした。それを、あの男は「ただ剣を置く」という動作一つで、相殺してみせた。

 彼が纏っていたのは、単なる防御の魔力ではありません。それは、彼自身の「家族を守る」という狂気的なまでの意志が、周囲の物理法則を書き換え、絶対的な不落の領域を構築していたのです。


 かつての宿敵としてのアルスが、死力を尽くしても抜けなかったあの守り。

 それが今、私を慈しむための「過保護な障壁」として存在している。

 ……なんとも、皮肉で、そして少しばかり誇らしいお話ですわ。


「お父様。……立ち上がってください。皆様が、王国最強の騎士団長が発狂したのではないかと、本気で心配しておりますわよ」


「発狂などしていない! これは歓喜だ! リリア、お前はやはり俺の娘だ……。俺がかつて戦場で見た、あの伝説の剣聖アルスの気配さえ霞むほどの、至高の輝きをお前は持っている……!」


 お父様の言葉に、私は一瞬、心臓が跳ねるのを感じました。

 流石は、私と幾度も死線を潜り抜けた男。その本能は、私の中に眠る「かつての影」を、無意識のうちに嗅ぎ取っているのでしょう。


「何を仰るのですか、お父様。私はただの、か弱い令嬢ですわ。……さあ、授業を続けてください。皆様、貴方の指導を(恐怖で)心待ちにしていらっしゃいますわよ」


「おおっ、そうだったな! よし、諸君! 今のリリアの一撃を見たか! ……いや、お前たち凡夫の目には捉えられなかっただろうな! だが、それでいい! お前たちはただ、リリアという神性がこの世に存在することに感謝し、その背中を守るための『盾の欠片』にでもなればいいのだ!」


 お父様は再び立ち上がり、訓練場全体を揺らすほどの声で吠えました。

 その瞬間、彼から放たれた「熱」が、冷え切っていた生徒たちの心(と恐怖)を無理やり再起動させました。


「いいか! 守るべきものがある男は強い! 俺にはエリナがいて、シオンがいて、カイルがいて……そして何より、天使のリリアたんがいる! この愛がある限り、俺の守りは神にさえ穿てん!! ……さて、まずは貴様だ! 構えろ、リリアたんの爪の垢でも煎じて飲ませてやる!!」


「ひ、ひいいいいいっ!!」


 指名された哀れな騎士科の生徒が、お父様の「愛の説教(物理)」によって訓練場の端まで吹き飛ばされるのを見届け、私は優雅に訓練場を後にしました。


「リリア様! お疲れ様でございましたわ! ああ、あのお父様との交錯……。私、あまりの尊さに、鼻血で失血死するかと思いましたわ!」


 影から現れたアイリスが、真っ白な手袋で私のマントの埃を払いました。彼女の瞳は、もはや信仰という言葉では足りないほどの「狂熱」を帯びております。


「ええ、アイリス。……お父様も、たまには役に立ちますわね。私の体が、少しばかり『鈍り』を解消できたようですわ」


「流石はリリア様! 王国最強を相手にして『準備運動』と仰るとは! ああ、その高慢でいて慈悲深いお姿、今すぐ全世界に配信したいほどですわ!」


 私は、アイリスの騒がしい追従を受け流しながら、中庭を歩きました。

 

 一歩踏み出すごとに、私の周囲の大気が、穏やかに、しかし確実に「再構成」されていきます。

 お父様のあの圧倒的な守り。

 それがあるからこそ、私はこうして安心して学園生活(という名のお掃除)に専念できる。

 あの男が「王国最強」であることは、ハルトマン家の長女として、非常に好ましい事実であると認めざるを得ませんわ。


 私は自室に戻り、すぐさま机に向かいました。

 手元には、既に九通目となるテオへの便箋。


(テオ。元気ですか。今日はお父様と少しだけ、本気のお遊びをいたしました。……あの人は、相変わらず暑苦しくて、鼻水を垂らしている困ったパパですが、その腕っ節だけは、お姉様が少しだけ認めてあげてもいいと思う程度には、しっかりしていましたよ。……でも、心配しないで。あの方がいくら『盾』を構えようとも、お姉様はあなたの心へ、いつでも真っ直ぐに愛を届けて差し上げますからね)


 私がペンを走らせると、インクに混じった魔力が、テオへの慈愛を乗せて優しく発光しました。

 窓の外では、夕刻の鐘が鳴り響いています。

 

 王国最強の父。

 氷炎の魔女の母。

 そして、過保護が過ぎる兄たち。

 そんな家族に守られ、あるいは彼らを支配する「序列」の頂点に立つ私。


 学園という狭い鳥籠の中で、私は改めて確信しました。

 ハルトマンの絶対序列。

 それは、世界最強の武人が、私の微笑み一つで膝を折るという、揺るぎない「事実」の上に成り立っているのだと。


(……ふふ。お父様。貴方のあの硬い守り、いつかテオが成長した時、良いサンドバッグになってくれそうですわね)


 私は、未来のテオが父を圧倒する光景を想像し、淑女らしい(しかし極めて不穏な)微笑みを浮かべながら、手紙に最後の一筆を加えるのでした。


 学園生活は、まだ始まったばかり。

 ですが、私の「道普請」は、これ以上ないほど順調に、そして苛烈に進んでいくのでした。


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