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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第十七話:失望!現代魔術は退屈の極み!?



 午後の陽光が、歴史ある教棟のステンドグラスを透かして廊下に色鮮やかな影を落としています。

 本来であれば、多くの生徒が期待に胸を膨らませて向かうはずの『初等魔導理論』の講義。しかし、私の足取りは、領地でテオの離乳食の準備を手伝う時よりもずっと重いものでした。


「……はぁ。まさか、一から『魔力の練り方』を教わらねばならないとは。時間の浪費も極まれり、ですわね」


 私は誰にも聞こえない溜息を飲み込み、教室の重厚な扉を開けました。

 案の定、室内は私が入った瞬間に「氷点下」まで冷え込みました。談笑していた生徒たちは、一瞬にして借りてきた猫のように静まり返り、それぞれの席で直立不動の姿勢をとります。

 

「お、おはようございます、リリア様……」

「ええ、ごきげんよう」


 私が優雅に会釈を返すと、数名が過呼吸気味に胸を押さえましたが、気にせず中央の特等席――兄様たちが事前に「最適」として確保し、周囲に不可視の防御結界まで張り巡らせた席に腰を下ろしました。

 やがて、仰々しく足音を鳴らしながら、本日の講師であるローランド教授が入ってきました。彼はこの学園でも指折りの魔導士らしく、そのローブには数多の勲章が揺れています。


「諸君、静粛に。今日から君たちは、世界を形作る理――魔導の深淵に触れることになる。心してかかるように」


 教授は自信満々に語り始めました。しかし、その言葉の一つひとつが、私にとっては欠伸を噛み殺すのに必死なほど退屈なものでした。

 彼が黒板に書き殴る「魔力循環の基本数式」。それは、母エリナが台所で「お茶を適温に保つ」ために無意識に使っている生活魔法の、さらに百分の一ほども効率の悪い代物でした。


(……非効率。あまりにも無駄が多すぎますわ)


 現代の魔術体系は、長い年月をかけて「誰にでも使えるように」と簡略化されすぎたのでしょう。その結果、本来あるべき「世界の根源への干渉」という本質を失い、ただあらかじめ用意された型に魔力を流し込むだけの作業に成り下がっています。


 母エリナの魔法は、もっと自由で、苛烈でした。

 彼女が怒った時に放つ氷の礫は、空気中の水分を強引に結集させるのではなく、空間そのものの「熱」を奪い取り、存在の連続性を断ち切ることで生まれます。

 そして、前世の私の宿敵、ゼフ・ハルトマン。あの男の『盾』は、物理的な装甲などではなく、彼自身の強固な意志が空間そのものを「硬質化」させることで成立していました。


「――では、実際にデモンストレーションを見せよう。対象は、あの演習用ゴーレムだ」


 教授が杖を構えました。

 彼は三十秒近くもかけて、長く、そして意味のない詠唱を紡ぎ始めました。

 『大気よ、我が呼び声に応え、炎の礫となりて……』。

 

 ……長いですわ。

 戦場であれば、その詠唱が終わる前に、私は彼の首を十回は飛ばしていたでしょう。

 ようやく放たれた炎の弾丸が、鈍重な音を立ててゴーレムの胸に当たりました。小さな爆発と共に、ゴーレムの表面に微かな焦げ跡がつきます。


「見たまえ。これこそが、研鑽の末に辿り着く『火炎弾』の威力だ」


 教授は誇らしげに胸を張りました。

 教室内からは「おお……!」「流石は教授だ!」と、称賛の声(と、私の顔色を伺う怯えた視線)が上がります。

 しかし、私の内なる剣聖は、激しい苛立ちに震えていました。


(あの程度の火力に、これほどの時間と魔力を費やすなど……。テオがクシャミをした時の衝撃波の方が、よほど建設的ですわ)


 テオ。ああ、私の可愛いテオ。

 あの子が一度「あうー!」と叫べば、ハルトマン邸の強化ガラスさえ粉砕するほどの純粋な魔力圧が放たれます。それを思えば、目の前の光景は、子供の火遊びにさえ劣る茶番にしか見えません。


「……リリア・ハルトマン君。君は先程から、ずいぶんと退屈そうにしているようだが? 伝説の『盾』と『魔女』の令嬢であれば、今の術式に何か注文でもあるのかな?」


 教授が、嫌味たらしい笑みを浮かべて私を指名しました。

 おそらく、入学式での私の「威圧」を、若さゆえのハッタリだとでも思っているのでしょう。魔導士としてのプライドが、年若い少女に主導権を握られることを許さないようです。


「注文、ですか。……いえ、ただ。あまりに手順が多すぎるのではないかと、少々驚いていただけですわ」


 私は優雅に立ち上がり、教壇へと歩み寄りました。

 教室内の空気が、ピリリと帯電します。


「手順が多い? 君、魔術とは緻密な数式の積み重ねなのだよ。それを『多い』などと切り捨てるのは、基礎を軽んじている証拠だ」


「基礎、ですか。……では、失礼して。私の考える『基礎』を、少しだけお見せしてもよろしいかしら?」


 私は杖など使いません。

 そんな媒体を通せば、私の意志が濁ってしまう。


 私は、演習用ゴーレムの前に立ちました。

 詠唱もしない。魔方陣も描かない。

 ただ、指先をそっと、対象に向けました。


(火を『作る』必要はありません。ただ、そこに在る大気の粒子に、私の意志を伝えれば良いだけ……)


 私は、ゴーレムの周囲数センチメートルの空間だけを、「極端な高圧」へと叩き落としました。

 

 ――ッ。


 音すら発生しませんでした。

 ただ、ゴーレムの輪郭が、目に見えない巨大な透明のプレス機で押し潰されたかのように、一瞬で「消失」しました。

 爆発も、焦げ跡もありません。

 そこにあったはずの、数トンの重量を持つ魔導合金の塊が、ただの「原子の塵」へと還元され、無音のまま空間から消え去ったのです。


「…………え?」


 教授の杖が、カラン、と床に落ちました。

 教室内は、先程までの沈黙をさらに深めた、死のような静寂に支配されました。


「……あら、失礼いたしました。少々、圧力をかけすぎてしまったようですわ。……これが私の家での『基礎』ですので。数式などという煩わしいものを使うよりも、直接世界の理に『お願い』をする方が、ずっと効率的でしょう?」


 私は、塵一つ残っていない更地を指差し、完璧な微笑みを教授に向けました。

 

 教授は、もはや言葉を発することもできず、ただガタガタと膝を震わせていました。彼の目には、私が魔法を使っているのではなく、ただ「言葉一つで世界を壊した」魔神のように映っていたに違いありません。


「リリア・ハルトマン……。君、君は今、何をした……? 詠唱も、変換もなしに、物質の結合を……っ!?」


「ただの、日常的な力加減ですわ。母からは、これでも『繊細さが足りない』と叱られておりますの。……テオのオムツを替える時などは、もっと慎重に魔力を制御しなければなりませんから」


 私はそう言い残すと、腰が抜けて座り込んだ教授と、もはや失神することも忘れて石化している生徒たちを放置し、自分の席へと戻りました。


 失望しましたわ。

 現代魔術。これが学問としての最高峰だと言うのなら、私がここで学ぶべきことなど何一つありません。

 

 窓の外を見れば、午後の柔らかな光が庭園を照らしています。

 

(……テオ。お姉様、今日はとても疲れましたわ。あなたのあの、理不尽なまでの破壊力に満ちた笑顔が、今すぐに見たいです……)


 私は、教科書を一瞥もすることなく、ただ愛しき弟への三通目の手紙の内容を構成することに、午後のすべての時間を捧げるのでした。

 

 ハルトマンの絶対序列。

 それは魔術の講義においても、一瞬にして、そして残酷なまでの「実力差」となって刻まれたのでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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