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【2部完結】かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第十一話:対面!ルームメイトは震えてる!?

学園編です!リリアの語り方口調にも変化があります!



「あら、ここが私の向こう数年を過ごす仮初めの城、というわけですわね」


王立アカデミー。王国中から選りすぐりの貴族子女が集う、歴史と伝統という名の古臭い格式が詰まった場所。その寄宿舎である『薔薇の宮』の重厚な扉を前に、私は小さく息を吐き出しました。


ハルトマン家を出発してから、馬車に揺られること数日。ようやくたどり着いたその部屋は、確かに一般的な貴族から見れば豪華極まりないのでしょうけれど――私にとっては、あまりにも広く、そして冷たく感じられました。


「……何より、テオの匂いがしませんわ。これは由々しき事態です」


脳裏をよぎるのは、出発の際、私のドレスを握りしめて「あうー! ねえね、いかないでぇー!」と全力で泣き叫んでいた愛しき末弟、テオドールの姿。あの子が放つ無邪気な魔力。周囲の石畳をバキバキに砕き、音速を超えるハイハイで私を追いかけようとしていた、あの愛くるしい暴虐の化身。あの子のふんわりとしたミルクの香りと、無邪気に私の髪を引っ張る温もりがない生活。それはかつて戦場で死を待っていた瞬間よりも、ずっと孤独なものでした。


いけませんわ、リリア。あなたはハルトマン家の長女。あの子に「お姉様はすごかった」と語り継がれるための基盤を、この学園で築かねばならないのですから。


私が内なる剣聖としての冷静さを取り戻そうと背筋を伸ばし、一歩部屋へ踏み出した、その時。


「ひっ……!?」


部屋の奥から、短い、そして喉の奥が引き攣ったような悲鳴が聞こえました。

視線を向ければ、そこには二人の少女が固まっていました。一人は銀髪を几帳面な夜会巻きにした、線の細い少女。もう一人は、栗色の髪を華やかにカールさせた、いかにも「私はお嬢様です」と言わんばかりの派手な顔立ちの少女。


どうやら、彼女たちが私のルームメイトになる方のようですわね。


「初めまして。今日から同室となります、リリア・ハルトマンですわ。至らぬ点も多いかと存じますが、どうぞよろしくお願いいたしますわね?」


私はこれ以上ないほど完璧な淑女の微笑みを浮かべ、スカートの端をつまんで優雅にカーテシーを披露しました。かつての私――伝説の剣聖アルスであれば、殺気を隠すために無表情を貫いたものでしたが、今の私はハルトマン家の看板を背負っています。愛する家族に、特に我が家の天使テオに恥をかかせるような不作法は、万に一つも許されません。


しかし、私の淑女としての努力は、どうやらあらぬ方向へ作用したようです。


「は、ハルトマン……。あの、王国最強の『盾』の……」

「ひ、氷炎の魔女様の愛娘……。それに、あの『紫の瞳』……」


二人の顔色は、見る間に土気色へと変わっていきました。

なぜでしょうか。私の挨拶に何か不備があったかしら? それとも、少しばかり立ち居振る舞いが洗練されすぎていて、彼女たちを萎縮させてしまったのでしょうか。


「……あ、あの、私はセレスティア・フォン・ヴァレンティ。こちらは、ベアトリス・ド・クロムウェルですわ……」


銀髪の少女、セレスティア様が、震える声で名乗ってくださいました。

ヴァレンティ家といえば、歴史ある外交官の家系。クロムウェル家は王都の物流を牛耳る新興貴族。どちらも名家ですが、私に向けられるその視線は、まるで空腹の巨大な竜を目の前にした子羊のそれです。


「セレスティア様にベアトリス様。素敵な名前ですわね。皆様と仲良く過ごせることを心から楽しみにしていますの。……何か困ったことがあれば、遠慮なく仰ってくださいね? 私、こう見えて『掃除』や『害虫駆除』は得意な方ですから」


「ひいっ!?」「ご、ごめんなさい、何もしていませんわ!!」


なぜ謝るのでしょうか。私はただ、寮生活で不測の事態――例えば、テオを侮辱する不届き者や、私の安眠を妨げる無礼な連中が現れた際、それらを物理的に排除する準備があると言っただけなのですが。


困りましたわね。やはり、ハルトマンという名が持つ威圧感は、凡夫たる彼女たちには毒が強すぎたようです。かつての宿敵、ゼフ・ハルトマン。今の私の父上ですが、あの男が戦場で見せていた、空気を物理的に押し潰すような闘気が、血筋として私に色濃く受け継がれているのかもしれません。


私がどうにか彼女たちの緊張を解こうと歩み寄った、その瞬間でした。


「――そこまでだ!! リリア、下がっていろ!!」


爆音と共に、部屋の扉が乱暴に蹴破られました。

そこに立っていたのは、ハルトマン家の誇る、暑苦しいまでの守護者たち。


「リリア! この部屋、死角が多いぞ! 窓の外に潜伏可能な影が三つ、床下には不審な振動! 俺が今すぐ結界を張り直してやる!」

「シオン兄様……」


「リリア。僕が調べたところによると、この女子寮の壁は薄すぎる。君のプライバシーと安全を確保するために、隣の部屋まで買い取って空室にしておいたよ。それと、アイリスが『リリア様のシーツの匂いがハルトマン家仕様でないのは大罪です』と泣き喚きながら、今廊下で特製の寝具を広げている」

「カイル兄様まで……」


騎士科高等部の制服に身を包んだ長兄シオンと、魔導科中等部の次兄カイル。

二人はまるで戦場に突撃するかのような形相で室内へ雪崩れ込むと、私のルームメイトたちを「背景の石ころ」程度にしか認識していない様子で、部屋中の点検を始めました。


「ちょっと、兄様たち。ここは女子寮ですわよ? 男子の立ち入りは制限されているはずですが」


「ハッ! 誰に言っているんだリリア。この学園の警備を統括しているのは親父ゼフだぞ? 『娘の部屋に隙があってはならん。少しでも不審者がいれば、その場で斬り伏せて構わん。責任は俺が持つ』という書面一枚で、俺たちの特権通行証は発行された!」


シオン兄様が、王国最強の盾たる父上直筆の――おそらくは力みすぎて紙が破れかけているであろう――許可証を掲げました。

お父様、あなたは王国の治安を守る最高責任者であって、娘のストーカーを公的に支援する機関ではありませんのよ。それに、かつての宿敵としての貴方はどこへ行ったのですか。あの、私と三日三晩斬り合い、笑いながら剣を振っていた狂犬のような威厳を、少しは思い出してください。


「リリア様ぁーーー!!」


さらに廊下からは、私の筆頭信者であるアイリス・バルガスが、ハルトマン家の家紋入りの最高級絹シーツを抱えて突っ込んできました。


「リリア様の御髪が、このような安物の布に触れるなどあってはなりません! さあ、皆様どいてください! ここは私がリリア様の聖域へと作り替えますわ!」


「……はぁ。もう勝手になさい」


私は額を押さえ、深いため息をつきました。

振り返れば、ルームメイトの二人は完全に腰が抜けたようで、抱き合いながらガタガタと震えています。彼女たちの目には、我が家の兄たちやアイリスが、学園を侵略しに来た魔王軍の幹部か何かに見えているのでしょう。……まあ、否定できないのが辛いところですが。


仕方ありませんわね。

私は、カイル兄様が持ち込んだ「テオの等身大魔法肖像画(時折、あうあうと可愛らしく声が出る、一家の家宝級の逸品)」を壁の特等席に飾るのを見届けながら、机に向かいました。


手元には、まだ一枚も汚れていない真っ白な便箋。


(テオ、元気ですか。お姉様は今、とても素敵(?)な仲間たちに囲まれて、賑やかな学園生活をスタートさせましたわ。安心して、早く大きくなってくださいね。あなたの居場所は、お姉様がこの学園の頂点に刻みつけておきますから)


ペンを走らせる私の指先に、無意識のうちに魔力が籠もったのでしょう。

カチリ、と。

部屋の窓ガラスに、微かな亀裂が入りました。


「……あら、失礼。少々、愛が溢れてしまいましたわ」


背後でセレスティア様たちが白目を剥いて倒れたような音がしましたが、私は気にせず、優しい微笑みを浮かべながら愛する弟への一通目の手紙を書き続けるのでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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