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かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第二章:「最強の姉弟愛」と「勘違いだらけの学園生活編」

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第一話:降臨!ハルトマン家・第三の爆弾!?

2章開始です!!


 八歳のあの冬。襲撃してきた刺客を「転んだついで」に一掃し、屋敷の北半分を物理的に消失させた伝説の夜から、二年の月日が流れた。

 俺ことリリア・ハルトマンは、ついに十歳という二桁の大台に乗っていた。


(……ふむ。十歳か。前世の俺であれば、そろそろ地方の武術大会で大人をなぎ倒して優勝を総なめにし、『神童』の名を不動のものにしていた頃だな)


 姿見の鏡に映る自分を、俺は客観的に観察する。

 燃えるような深紅の髪は、腰のあたりまでたおやかに伸び、母エリナ譲りの透き通るような白磁の肌には、十歳児とは思えないほどの「気品」が宿っている。大きく潤んだ瞳は、時に聖母のような慈愛を湛え、時に深淵を見つめる剣聖の鋭さを垣間見せる。

 外見はまさに、王都の社交界に放り出せば一瞬で貴公子たちを虜にするであろう「完璧な美幼女」だ。だが、その華奢な肢体の中身は、二年にわたるさらなる修練を経て、もはや人の器を維持しているのが不思議なほどの超高密度な魔力の塊であった。


 今の俺の「纏う魔力」は、単なる肉体強化の域を越えている。

 放出できない魔力を内側に圧縮し続けることで、俺の周囲数センチの空間は、常に目に見えないほどの超重圧グラビティが層を成しているのだ。羽虫が近づけばその圧力で塵となり、悪意ある視線を向ければその威圧感で精神を病む。……いや、流石にそれは言い過ぎか。だが、それほどの自衛本能が、十歳の肉体にはすでに備わっていた。




 そんな俺の十歳の誕生日の直後。

 ハルトマン邸は、かつてない緊張感と、ある種の「狂気」に包まれていた。

 理由は、ハルトマン家の真の支配者である母エリナが、今まさに三人目の……いや、俺を含めれば四人目の子供を産み落とそうとしているからである。


「あああああ! エリナ! 頑張れ! 僕が、僕が代わってあげられたらいいのにぃぃぃっ!! あああ、痛いのか!? 苦しいのか!? 誰か、誰か僕を斬ってくれ! この痛みを分かち合わせてくれぇぇぇっ!!」


 産室の前の廊下で、地響きのような叫び声を上げ、壁に頭を打ち付けているのは、王国騎士団長にして王国最強の盾、ゼフ・ハルトマンである。

 戦場では数万の軍勢を前にしても眉一つ動かさない鋼の男が、今は涙と鼻水を撒き散らし、床板をミシミシと鳴らしながら悶絶している。


「父上、見苦しいですよ。母上なら大丈夫です。最高級の治癒魔導師三名と、王宮直属の産婆が五名、さらには緊急時の魔力供給用に僕も待機しています。僕の計算では、母上の生存確率は九十九・九九八パーセント……」


「その、残り零・零零二パーセントが怖いんだよ、カイル! あああ、もしもしも万が一のことがあったら、僕はどうすればいいんだ! 盾など、盾などいらん! 僕はただの無力な夫だぁぁっ!!」


 十二歳になった次男カイルが、眼鏡をクイッと上げながら冷静に分析するが、ゼフの暴走は止まらない。カイル自身も、手にした魔導書を逆さまに持っているあたり、相当に動揺しているのが見て取れる。

 その隣では、十三歳になり、背がゼフの肩まで届くほどに成長した長男シオンが、なぜか全裸にマント一枚という奇行(修行の一環らしい)で、激しい素振りを繰り返していた。


「……ふんッ! はッ! ……大丈夫だ、父上! 僕がこの廊下で素振りを一万回終える頃には、きっと元気な弟が生まれてくるさ! 筋肉の神に、僕は祈りを捧げる!!」


(……どいつもこいつも、相変わらずだな。……シオン、廊下で素振りをするな。風圧で壁の絵画が浮いているぞ。カイル、魔導書が逆さだ。……そしてパパ、貴様は少し落ち着け。床に穴が開きかけているぞ)


 俺はガゼボから持ち込んだお気に入りのアールグレイを一口啜り、落ち着いた動作で椅子に腰掛けていた。

 十歳の誕生日プレゼントとしてゼフから贈られた、特注のドレス。そのスカートの裾を優雅に整え、俺は閉ざされた産室の扉をじっと見つめる。




 前世で数多の生死の境を潜り抜けてきた俺にとって、「誕生」という神聖な戦場は、畏怖すべきものではあるが、取り乱すべきものではない。……はずだった。


 だが、その時。

 産室の奥から、今までの陣痛の叫びとは違う、異質な「音」が響いた。


 ――キィィィィィィィン!!


 それは、空気そのものが震えるような高周波。

 同時に、屋敷全体を循環していた自然界のマナが、磁石に吸い寄せられる鉄屑のように、一点に向かって猛烈な勢いで収束し始めたのだ。


(……っ!? なんだ、この魔力の引き込みは! 自然界のマナが、一箇所に強制収束されている!?)


 俺は即座に椅子から立ち上がった。

 カイルも眼鏡を光らせ、周囲のマナの濃度が異常な数値を示していることを察知し、顔色を変える。


「……父上! 異常事態です! 屋敷内のマナが全て産室へ向かっています! まるで、巨大な魔力溜まり(マナ・ポット)が生まれたような……!」


 産室の扉が、内側からの圧力でガタガタと鳴り始める。

 この現象は知っている。生まれてくる赤ん坊が、その小さな器に見合わないほどの膨大な魔力を持って生まれてくる際に見せる、『魔力溢出マナ・オーバーフロー』だ。このままでは、赤ん坊が産声を上げる前に、その魔力の暴走によって産室ごと吹き飛ぶ可能性がある。


(マズい。ママは今、出産の痛みで魔力制御どころではない。産婆たちではこの嵐に耐えられん!)


 俺は、スカートを翻して産室の扉へと駆け寄った。


「リリア!? 入っちゃダメだ、中はまだ神聖な儀式の最中で……!」


「――おどきなさい、パパ!」


 俺は十歳相応の可憐な声を出しつつも、その奥に『剣聖』としての絶対的な、抗い難い威圧を込めた。

 ゼフが、最強の騎士としての本能で俺の「底知れなさ」に気圧され、反射的に道を空ける。

 俺は扉を蹴破るようにして(実際には魔力で音もなく開けて)室内へと踏み込んだ。




 室内は、荒れ狂う純白の魔力の光で満ちていた。

 ベッドの上で苦しむエリナ。その周囲で、制御を失ったマナが物理的な衝撃波となって、カーテンを裂き、花瓶を粉砕し、産婆たちを壁際へと押しやっている。


「……あ……リリア……? 来ちゃ……ダメ……っ!」


 エリナが、朦朧とした意識の中で俺を制止しようとする。

 俺は、ベッドの傍らに歩み寄り、両手を広げた。

 

(纏え……。俺の『重圧グラビティ』を、この部屋全体のことわりとして定義しろ。……荒れ狂うマナの全てを、赤ん坊という未完成の器の中へ、一滴の無駄なく『圧縮』して押し込め!)


 俺の全身から、漆黒に近い、光すら吸い込むような高密度の魔力が溢れ出した。

 それはエリナの放つ純白の光を包み込み、狂ったように暴れるマナの奔流を、物理的な圧力で上から力ずくで押さえつけていく。


 ドォォォォォォォォォォ……!!


 産室内の空気が、一瞬で「重く」なる。

 リリアの『重圧』が、暴走する赤ん坊のマナを、まるで猛獣使いが獅子を屈服させるかのように調教し、正しい魔力回路へと誘導していく。

 

 数秒。

 激しい閃光が収まり、室内に――静寂を切り裂くような、力強い産声が響き渡った。


「――オギャァァァッ!! オギャァァァッ!!」


 その声は、屋敷の残された半分の窓ガラスをも震わせるほど力強いものだった。

 俺は、額に浮かんだ微かな汗を指先で拭い、展開していた魔力の障壁を静かに解いた。

 

 嵐は去った。

 そこには、疲れ果てて眠りについたエリナの傍らで、産婆に抱かれた、元気すぎるほど元気な赤ん坊の姿があった。


「……おめでとうございます! 元気な、本当に、信じられないほど元気な男の子ですよ!」


 扉の外から、ゼフたちが雪崩れ込んできた。


「エリナ! エリナァァァッ!! ああ、生きてる! よかった! 良かったぁぁっ!!」

「母上! ……そして、これが、僕の弟……」

「デカいな! さすがハルトマンの男だ!」


 家族全員がベッドを囲み、感動の涙を流す中、俺は一歩下がって、その赤ん坊をじっと見つめた。

 赤ん坊は、ゼフに抱かれながらも、なぜか俺の方をじっと見つめ、小さな、だが力強い手を伸ばしてきた。


(……フン。生まれた瞬間から、俺の魔力に反応するか。……どうやら、ハルトマン家の日常は、これまで以上に騒がしく、そして「重く」なりそうだな)


 赤ん坊の瞳の奥に、かつての俺と同じような、底知れない『可能性』を感じ、俺は口角をわずかに上げた。




 さて、ここからがハルトマン家の本番である。

 一息ついたゼフが、鼻を啜りながら、事前に用意していた「名前候補リスト」を広げた。


「さて! 最高の息子に相応しい名前を付けなければな! エリナ、僕は考えたんだ。ハルトマン流を継ぐ者として、『ゼフ・ジュニア』。あるいは、鉄壁の守護を願って『グレート・シールド』。それとも、無敵を誇る『インビンシブル』……!」


「……あなた、全部却下よ」


 目を覚ましたエリナが、冷たく一蹴した。

 シオンとカイルも、父の壊滅的なネーミングセンスに頭を抱えている。


「『ゼフ・ジュニア』は紛らわしいし、『グレート・シールド』は名前じゃなくて道具です、父上」

「『インビンシブル』なんて、友達ができなそうだぞ、パパ!」


「うっ……。じゃあ、リリア。お前はどう思う? お前が選ぶ名前なら、パパはそれが世界で一番いい名前だと確信できるんだ!」


 ゼフが、期待に満ちた目で俺を見つめる。

 俺は、赤ん坊の顔を覗き込み、その澄んだ瞳の色と、力強いマナの輝きを反芻した。

 この子は、守るだけの盾でも、放つだけの光でもない。自らの意志で道を切り拓き、周囲を照らす存在になるだろう。


「……テオドール。……『テオ』、というのはいかがかしら?」


 俺が、古い言葉で「神の贈り物」を意味する名を口にすると、赤ん坊が「うー!」と、まるで賛成するかのように元気に声を上げた。


「テオドール……。テオ、か。……いいじゃないか! 格好いいし、気品もある! 流石はリリアだ!」

「テオ。……うん、呼びやすくていい名前だね」

「テオ! よし、テオ! お兄ちゃんが今日から稽古をつけてやるからな!」


 こうして、末弟の名前は『テオ』に決まった。

 

 ハルトマン邸、第二章。

 最強の末弟テオの降臨。

 元剣聖リリアの、今度は「お姉ちゃん」として、そして「最強の教育者」としての新たな戦いが、今ここに幕を開けたのである。


「リリア! 見てくれ、テオが君の指を握って離さないよ! やっぱりリリアは天使だ、聖女なんだぁぁぁっ!!」


(……いや、パパ。こいつ、俺の指から漏れる魔力を食おうとしているだけだと思うぞ)


 俺は、パパの肩越しにテオと視線を合わせ、これから始まる「スパルタ教育」を予感させながら、優雅に、そして邪悪に微笑み返すのであった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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