表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第一章:「最強の家族」と「秘密の修行」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/41

第二十六話:迎撃!エリナの魔法が火を噴く!


 正面玄関の、重厚なオークの扉が音もなく崩れ落ちた。

 それは力任せの破壊ではなく、幾重にも張り巡らされていた防衛術式を瞬時に「解体」された結果だった。ハルトマン邸に仕掛けられた結界は、王宮魔導師団の団長クラスでなければ突破不能なはず。それをこれほど鮮やかに無効化するとは、侵入者たちの背後にいる存在の底知れなさを物語っていた。


「……侵入を確認。……庭園から玄関ホールへ、第一陣、十二名。全員が魔力抑制の外套を纏っていますわね。……ふふ、随分と舐められたものですわ」


 吹き抜けになった二階の回廊から、母エリナが静かに階下を見下ろしていた。

 その手には、先ほどまで俺をあやすために使っていた、あの大きなピンクのリボンがついた「マジカル・ベビー・ロッド」が握られている。普段なら滑稽に見えるその杖も、今の彼女が持つと、伝説の魔王を屠るための神具のような威圧感を放っていた。


「殺せ。……ハルトマンの血筋は、一人として生かして帰すな」


 黒装束の男たちが、影の中から染み出すように現れた。

 彼らが手にするのは、光を反射しない特殊な加工が施された双剣。その刃には、微かな紫色の光――神経を麻痺させ、魔力回路を焼き切る猛毒が塗布されている。


 男たちが一斉に跳躍した。

 重力を無視したようなその跳躍は、身体強化の魔法によるものだ。十二の影が、蜘蛛のように壁や天井を蹴り、一気に二階のエリナへと殺到する。


「――無礼者が。私の庭で、誰に口を利いているのかしら?」


 エリナが、優雅に杖を振るった。

 瞬間、玄関ホールの空気が「凍りついた」。

 比喩ではない。物理的に、大気中の水分が一瞬で結晶化し、零下百度を超える極低温の渦がホールを埋め尽くしたのだ。


「『氷蓮華ひょうれんげ』」


 虚空に咲いたのは、美しくも残酷な、氷の散弾。

 空中で回避不能となった暗殺者たちに対し、数千、数万の氷の針が、音速を超えて叩きつけられた。


「ぎゃあああああっ!?」

「が、はっ……!?」


 悲鳴は一瞬で途絶えた。

 肉体を貫かれた者、四肢を凍結させられ重力に従って床に叩きつけられた者。先頭にいた六人が、一瞬で物言わぬ氷の彫像へと変えられ、砕け散った。


(……流石だな、ママ。術式の展開速度、マナの収束率、どれをとっても現役の宮廷魔術師を凌駕している。……だが、敵も二枚腰だ)


 俺は一階の食堂の影、天井の梁の上に潜み、状況を冷静に観察していた。

 砕け散った仲間の屍を顧みず、残りの六人が懐から「それ」を取り出した。


 どす黒い、嫌な光を放つ鉱石。

 魔力を無差別に吸い込み、空間の理を捻じ曲げる禁忌の道具――『魔封石』。

 それも、一つや二つではない。男たちは一人で複数の石を掲げ、エリナの周囲に投げ込んだ。


「――『吸魔のアンチ・マナ・ケージ』、発動!」


 投げ込まれた魔封石が、エリナを中心とした三角形の陣を形成した。

 そこから放たれた黒い雷が、エリナの周囲に展開されていた防御障壁を、猛り狂う獣のように喰らい始める。


「……っ!? 魔封石の複数共鳴……。随分と高価なものを用意してきたわね」


 エリナの表情に、初めて険しさが混じった。

 魔術師にとって、魔力を吸い取られる空間は、水中にあるのと同義だ。呼吸をするようにマナを練ることができず、放った魔法は霧散し、魔力回路には激痛が走る。


「ガハハ! 『氷炎の魔女』も、この檻の中ではただの女だ! さあ、首を差し出せ!」


 魔封石の影響を受けない物理的な暗器が、死角からエリナを狙う。

 敵は、魔法が封じられるこの瞬間こそが最大の勝機だと確信していた。


(……フン。甘いな。……ママを、ただの魔術師だと思っているのか?)


 俺は指先を弾いた。

 魔法として放つのではない。俺の『重圧』を、目に見えないほどの魔力のつぶてとして、エリナを狙う暗器の軌道上に置いただけだ。


 カキンッ!


 何もない空間で、暗殺者の放った針が弾かれた。

 エリナは、その一瞬の隙を見逃さなかった。

 彼女は杖を逆手に持ち直し、魔封石による干渉を受ける『外部のマナ』ではなく、自身の『体内にある魔力』を爆発させた。


「――魔力が足りないなら、私の命を燃やせばいいだけの話よ」


 エリナの全身から、紅蓮の炎が噴き出した。

 魔封石の吸引能力を遥かに上回る、圧倒的な熱量。

 それは彼女自身の生命力の一部を魔力に変換する、文字通りの禁忌術――『魂の燃焼』。


「『紅蓮の回廊』」


 エリナが床を強く踏みしめると、二階の廊下から一階のホールにかけて、巨大な火柱が奔流となって駆け抜けた。

 魔封石そのものが熱で溶け、吸魔の結界が内側から吹き飛ばされる。

 逃げ場を失った暗殺者たちは、声もなく灰へと変わっていった。


 静寂が、再び屋敷を支配する。

 炎の残滓が、パチパチと壁を焼く音だけが響く。


 エリナは荒い息をつきながら、膝に手を置いた。

 その肩は激しく上下し、美しかった金色の髪は汗で張り付いている。

 今の一撃で、彼女の魔力の七割が削られたはずだ。


「……はぁ、……はぁ……。ふぅ、……これで、全部かしら……」


(……いいえ、ママ。……まだよ。……これは、ただの『先遣隊』に過ぎない)


 俺の感知網は、さらに絶望的な事実を捉えていた。

 正面の激闘は、陽動に過ぎない。

 敵の本当の本命――精鋭中の精鋭二十人が、裏口と二階のテラス、そして俺が寝室から繋がる隠し通路として使っていたダストシュートの排出口から、すでに内部へと潜入していた。


 そしてその先には。

 シオンとカイルがいる、子供部屋のエリアがある。


(……ママを、これ以上戦わせるわけにはいかないな。……彼女の魔力回路は、今の過負荷で悲鳴を上げている)


 俺は梁の上で、静かに立ち上がった。

 手の中の木の杖が、俺の魔力に共鳴して微かに震える。


(……シオン。カイル。……待っていろ……今、俺が行く)


 俺は闇に溶け込むように、音もなく梁から飛び降りた。

 

 廊下の向こうから、兄たちの怯える気配と、無機質な殺気を放つ足音が聞こえてくる。

 ハルトマン邸の戦いは、これからが本当の「地獄」の始まりだった。

 そしてその地獄の門番は、八歳の少女という姿をした、古の剣聖が務めることになる。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ