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かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第一章:「最強の家族」と「秘密の修行」

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第二十二話:勃発!ハルトマン家・教育方針大戦争!


 二歳。それは将来の夢を語り、人生の進むべき道がうっすらと見え始める時期……であるはずがない。普通なら「大きくなったらお花屋さんになる」とか、その程度の可愛らしい寝言で済む話だ。

 だが、ここはハルトマン邸。王国最強の盾と、最強の魔女が住まう魔境である。


(……ふん。朝から空気がピリついていやがるな。ゼフとエリナ、互いの魔力がリビングで静かに火花を散らしているぞ。戦場なら今すぐ退避を勧告するレベルだ)


 俺ことリリア・ハルトマンは、特等席のベビーチェアに座り、事の成り行きを静観していた。

 発端は、先日の魔力鑑定事件だ。俺が「物理で魔法をねじ伏せた」結果、エリナは俺を「魔法界の至宝」と確信し、逆にゼフは俺の身体能力を「騎士団の未来」と信じ込んでしまった。


「――いいかい、エリナ。リリアのあの筋力、そして重心移動のセンス。あれは間違いなく我がハルトマン流・防御剣術の極致に至る才能だ。彼女は騎士になるべきだよ。僕が責任を持って、世界一硬い盾を授けてみせる!」


 ゼフがテーブルを叩いて熱弁する。彼の隣には、なぜか一歳児サイズに特注された、金色の輝きを放つ「ベビースクアトロシールド」が置かれていた。……趣味が悪い。


「あら、あなた。何をおっしゃるのかしら。リリアちゃんのあの魔力密度、そして無意識の術式構築力。あれを剣なんていう単純な道具で縛り付けるなんて、歴史的損失よ。彼女は魔導の深淵を歩むべきだわ。私が、最高峰の杖を用意するわ!」


 エリナも譲らない。彼女の手元には、伝説の霊木から削り出されたという、これまた一歳児サイズの「マジカル・ベビー・ロッド」が握られていた。……先端に大きなリボンがついている。


「魔法なんて、あんなひ弱なもの、リリアには似合わない! 彼女は大地を踏みしめ、敵の猛攻を正面から受け止める勇者になるんだ!」


「ひ弱? 聞き捨てならないわね。あの子の魔法は、山をも砕くわ。盾の後ろに隠れてコソコソするより、空を舞い、雷を落とす方がよっぽどリリアちゃんらしいわ!」


(……おいおい。どっちも極端なんだよ。……俺は、剣を持ちたいんだ。盾でも杖でもなく、ただ一振りの鋭い剣をな)


 俺は内心で溜息をついたが、二人のヒートアップは止まらない。

 リビングの室温が、ゼフの闘気で上がり、エリナの冷気で下がる。物理法則が迷子になっている。


「……父上、母上。一旦落ち着いてください。リリアが困っています」


 そこへ、知略派の次男カイルが助け舟を出した。彼は眼鏡をクイッと上げ、俺の方を鋭い目で見つめる。


「リリアには、選択の権利があります。……そうでしょう、リリア?」


「……え、……えん(えっ?)」


「こうしましょう。リリアの前に、父上の『盾』と、母上の『杖』を置きます。……そして、リリアが自分から手に取った方の道を、全力でサポートする。それが一番公平だと思いませんか?」


 カイルの提案に、ゼフとエリナは顔を見合わせた。


「……なるほど。リリアの意思を尊重する。……いいだろう。リリア、パパは信じてるよ!」


「ええ、いいわ。リリアちゃんなら、きっと正しい選択(魔法)ができるはずよ」


 俺の前に、重厚な金色の盾と、フリフリのリボンがついた杖が並べられた。

 家族全員の視線が、俺に集中する。

 ゼフは「こっちだよ、こっちにおいで」と手招きし、エリナは「リリアちゃん、こっちの綺麗な杖が欲しいわよね?」と呪文のような囁きを送ってくる。


(……地獄か、ここは。……盾を手に取れば、ゼフの暑苦しい熱血指導が待っている。杖を手に取れば、エリナのデタラメな理論教育に放り込まれる。……どちらも、俺が望む『剣の道』ではない)


 俺は周囲を見渡した。

 何かないか。俺の意思を、正しく伝えるための「第三の選択肢」が。

 ふと、部屋の隅の壁に、装飾として飾られていた一本の短剣が目に留まった。

 儀礼用のなまくらだが、形は立派な剣だ。


(……よし、あれだ!)


 俺はヨチヨチと歩き出した。

 ゼフが置いた盾を無視し、エリナが差し出した杖を華麗にスルーする。


「お、おい、リリア!? 盾はこっちだぞ!」

「あら、リリアちゃん? 杖はこっちよ?」


 両親の困惑を背に、俺は真っ直ぐ壁際へと向かった。

 そして、魔力を脚力に集中させ、ピョンと跳び上がった。

 空中で壁の装飾を掴み、目的の短剣を引き抜く。


 ――キィィィン。


 小さな、だが鋭い抜剣音。

 俺は短剣を正眼に構え、リビングの中央へと戻ってきた。


「……あ、……あう。……こ、……これ。……り、……りり、……しゅき(好き)」


 俺は短剣の切っ先を、自分自身の胸元に、誇らしげに掲げてみせた。

 ――俺の道は、これだ。

 誰の指示でもない。俺自身の魂が選んだ、唯一の得物。


 リビングに、沈黙が訪れた。

 ゼフは、あぐねたように口を開け、エリナは絶句している。

 カイルだけが、「……やはりか」と呟き、ノートに何かを書き込んだ。


「…………け、……剣……?」


 ゼフが震える声で漏らした。


「リリア……。お前は、守るための盾でも、導くための杖でもなく……。……切り拓くための『剣』を、選ぶというのか?」


(そうだ。ようやく分かったか、親父殿。……俺は、誰かに守られるだけの存在でも、後ろから支援するだけの存在でもない。……自ら最前線に立ち、全ての困難を一刀両断する者だ)


 俺の強い眼光が、ゼフを射抜く。

 ゼフは一瞬、騎士としての顔を見せたが、すぐに滝のような涙を流し始めた。


「……あああああ! なんて、なんて勇敢な娘なんだ! パパの盾を必要とせず、自らの力で戦おうとするなんて! リリア、お前はもう、パパを超えようとしているんだねぇぇぇっ!!」


(……は? 超える?)


「本当ね……。私の魔法で守られることさえ拒否して、己の刃だけで運命を斬り裂こうとするなんて。……なんて気高くて、……そして少しだけ寂しいわ、リリアちゃん……!」


 エリナまで感極まって、俺を抱きしめた。

 ……まただ。

 俺の明確な意思表示は、親バカたちの巨大な「物語ファンタジー」へと変換され、美化されていく。


「よし! 決めたぞ! リリアが剣を選ぶなら、僕は全力でお前を『最強の剣士』に育て上げる! ハルトマン流を改造し、盾を捨てた攻性剣術を、一から作り直してやるぞ!」


「いいえ、私がリリアちゃんの剣に、世界最高の付与魔術エンチャントを施すわ! 一振りで国を滅ぼす、究極の魔剣士を目指しましょう!」


「……やれやれ。教育方針大戦争は、休戦ではなく『全面協力によるリリア育成計画』に移行したみたいだね」


 カイルが呆れたように肩をすくめる。

 俺は、両親に挟まれて「うぎゅうぎゅ」と潰されながら、天を仰いだ。


(……静かに暮らす計画は、これにて完全終了か。……まあいい。これで堂々と、剣の稽古をさせてもらえるというものだ)


 俺は手の中のなまくらの短剣を、ギュッと握りしめた。

 これから始まる、最強の両親による「地獄の英才教育」。

 それは、元剣聖の魂にとっても、これ以上ないほど過酷で、そして――最高に面白いものになるに違いなかった。


「……ぱ、……ぱぱ。……ま、……まま。……が、……がん、……ば、……り(頑張り)」


「うわあああ! リリアがやる気満々だぁぁぁっ!!」

「リリアちゃん、大好きよぉぉぉっ!!」


 ハルトマン邸に響き渡る、これまで以上の大歓声。

 二歳児リリアの本格的な修行の幕開けは、親バカたちの愛という名の暴走と共に、華々しく(物理的に騒がしく)飾られることになった。


「だぁー、っ!(よし、二人とも。……俺を本気にさせたことを、後悔するなよ!)」


 俺は、未来の最強の自分を夢見て、小さな剣を高く掲げた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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