表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第一章:「最強の家族」と「秘密の修行」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/41

第十八話:崇拝!私のファンが熱すぎる!


 二歳になった俺、リリア・ハルトマンに、新たな試練が訪れようとしていた。

 それは「社交」という名の、貴族社会における面倒な義務である。


「リリア、じっとしていてね。今日は大切なお客様がいらっしゃるのよ」


 母エリナの手によって、俺はまたしてもフリフリのドレス(今回は淡いブルーだ)に包まれていた。

 鏡に映る自分を見る。……完璧な美幼女だ。中身が五十過ぎの剣聖だとは、神でも気づくまい。


(……フン。客だと? ゼフの知人なら、どうせ筋肉達磨の騎士か、腹の出た貴族だろう。適当に愛想笑い(バブバブ)でもしておけばいい)


 俺は高を括っていた。だが、リビングに現れた人物を見て、俺の心臓は一瞬だけ止まった。


「やあ、よく来てくれたね、バルガス卿! 久しぶりじゃないか!」


 ゼフが出迎えたのは、白髪の老騎士だった。

 背筋は槍のように伸び、その眼光は老いてなお鋭い。


(……バルガス!? 生きていたのか、古狸め!)


 バルガス。かつて俺、剣聖アルスが率いた部隊の副官を務めていた男だ。真面目で、融通が利かず、俺の無茶な突撃のたびに胃薬を飲んでいた苦労人。

 まさか、こんな形で再会することになるとは。


「ハルトマン殿、お招き感謝する。……今日は孫娘を連れてきたのだ。挨拶しなさい、アイリス」


 バルガスの後ろから、一人の少女が姿を現した。

 四、五歳くらいだろうか。燃えるような赤髪をポニーテールにし、意志の強そうな吊り目をしている。ドレスよりも稽古着が似合いそうな、活発そうな少女だ。


「初めまして! バルガス家のアイリスです! 将来の夢は、伝説の剣聖アルス様のような、最強の騎士になることです!」


 ビシッ! と音が鳴りそうな直立不動の敬礼。そして、開口一番飛び出したその名前に、俺は盛大に噴き出しそうになった。


(……ブフォッ!? ……おいおい、嘘だろう。こんなところに俺の熱狂的な信者がいるとは)


 アイリスの目は、キラキラと輝いている。それは純粋な憧れと、少しの狂気を孕んだ「オタク」の目だった。


 大人たちが談笑を始めると、俺とアイリスは子供部屋で遊ぶことになった。

 二人きりになった途端、アイリスの熱量はさらに上がった。


「ねえねえ、リリアちゃん! あなたのお父様、最強の盾ゼフ様なんでしょう!? すごいね! でもね、私はやっぱり剣聖アルス様派なの!」


 アイリスは持参した絵本――『英雄譚・剣聖アルスの伝説』という、事実が五割増しで脚色された代物――を俺に見せつけてきた。


「見て! この『神速の一撃』! アルス様はね、雷よりも速く剣を振れたんだって! あとね、目にも止まらぬ速さで敵のパンツの紐だけを切断した逸話とか、最高にクールだと思わない!?」


(……やめろ。その逸話は捏造だ。俺はそんなセクハラじみた技は使わん。……誰だ、こんな本を書いた奴は)


 俺は心の中で頭を抱えた。自分の死後、まさかこんな形で神格化(一部歪曲)されているとは。恥ずかしさでドレスの下から火が出そうだ。


「私ね、アルス様の技を研究しているの! 見ててね、リリアちゃん! これが私の『アイリス流・神速剣』よ!」


 アイリスは部屋にあったおもちゃの杖を手に取ると、いきなり素振りを始めた。


 ブン! ブン!


 ……酷い。

 気合はいいが、フォームがめちゃくちゃだ。肩に力が入りすぎているし、手首のスナップが死んでいる。あれでは「神速」どころか「鈍足」だ。剣聖の名を語るには、あまりにお粗末すぎる。


(……見ていられん。俺の名を語るなら、最低限の基礎くらいは身につけておけ、小娘)


 俺の中の指導者魂が、恥ずかしさを超えて着火した。

 俺はヨチヨチとアイリスに近づいた。


「とぉーっ! ……あれ? リリアちゃん、危ないよ?」


 アイリスが杖を振り下ろした瞬間、俺はその懐に入り込んだ。

 そして、彼女の右肘を、小さな掌で「クィッ」と押し上げた。


「……えっ?」


 アイリスの動きが止まる。

 俺が修正したのは、肘の角度だ。そこをほんの数ミリ上げるだけで、肩の余計な力が抜け、手首の可動域が劇的に広がる。


「あうー。……ここ、すっ(力を抜け)」


 俺は幼児語で精一杯のアドバイスを送った。

 アイリスは狐につままれたような顔で、もう一度、俺が修正したフォームで杖を振ってみた。


 ――ヒュッ。


 先ほどまでとは違う、鋭い風切り音。

 杖の先端が走る速度が、明らかに上がった。


「……うそ。……すごい。今、すっごく軽く振れた……!」


 アイリスが自分の手と、持っている杖を見比べる。

 そして、次に俺の顔を凝視した。その目の中の「キラキラ」が、先ほどとは違う種類の熱を帯び始めた。


「……リリアちゃん。あなた、もしかして……天才?」


(……ギクリ)


「私、何百回振ってもできなかったのに。あなたがちょっと触っただけで……。……そうか! ハルトマン家は剣の家門! あなたも、ゼフ様から英才教育を受けているのね!?」


 アイリスの中で、勝手な解釈が爆速で進んでいく。


「すごい! やっぱり本物の騎士の家は違うんだ! 二歳で剣のことわりを理解しているなんて! ……リリアちゃん、いや、リリア姉様あねさま! 私を弟子にしてください!」


(……は? 姉様? お前の方が三つも上だろうが!)


 アイリスは俺の前で、ビシッと片膝をついて騎士の礼をとった。


「お願いします、姉様! 私のこの、アルス様へのほとばしる情熱を、本物の剣技に変えてください!」


(……断る。面倒くさい。俺は静かに暮らしたいんだ)


 俺はプイッと顔を背け、ぬいぐるみの山へと避難しようとした。

 だが、アイリスは逃がさない。俺の後を金魚のフンのようについてくる。


「待ってよ姉様! まずはその歩法から教えて! そのヨチヨチ歩き、実は重心移動の極意なんでしょう!?」


(……違う。ただの幼児体型なだけだ!)


 その時、部屋の扉が開き、ゼフとバルガスが入ってきた。


「おや、二人とも仲良く遊んでいるかい? ……ん? アイリスちゃん、なぜリリアに跪いているんだ?」


 ゼフが不思議そうに尋ねる。

 アイリスは顔を上げ、熱っぽい口調で宣言した。


「ゼフ様! リリア様は素晴らしいです! 彼女は、剣の天才です! 私は今日から、リリア様を『剣の姉』としてお慕い申し上げます!」


 バルガスが目を丸くし、ゼフは――。


「おおお! そうだろう、そうだろう! リリアの可愛さとカリスマ性は、初対面の相手すら虜にしてしまうんだね! いやぁ、我が娘ながら恐ろしい才能だ!」


 ゼフはいつもの調子で親バカ全開だ。

 だが、バルガスは違った。老騎士の鋭い眼光が、一瞬だけ俺を捉えた。


「……ふむ。アイリスがここまで懐くとは珍しい。……ハルトマン殿の娘御、ただ愛らしいだけではない、何か『芯』のようなものを感じるな」


(……チッ。流石は元副官。耄碌もうろくしてはいないようだな)


 俺はバルガスの視線を、無邪気な「あうー」という笑顔で受け流した。

 

 こうして、俺の平穏な生活に、新たな騒音源が加わった。

「剣聖オタクの弟子(自称)」。

 かつての部下の孫娘は、俺の正体を知らぬまま、リリアを通してアルスの影を追いかけるという、奇妙な二重構造の崇拝者となったのだ。


「姉様! 次はこの絵本に載っている『回転斬り』をやりたいんですけど!」


「だぁー! めっ!(やめろ、それは腰を痛める!)」


 俺はアイリスが差し出すデタラメな絵本をペチペチと叩きながら、自分の過去の清算(イメージ修正)という、予期せぬ仕事に追われることになりそうだと予感していた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ