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かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第一章:「最強の家族」と「秘密の修行」

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第十二話:初歩!パパの技術を盗め!


 これまでの俺は、己の『一撃』をこの肉体で再現することばかりに躍起になっていた。

 だが、二度にわたる自爆――道場での回転暴走と、縁側の撃沈――を経て、俺は認めざるを得なかった。今の俺に足りないのは、筋力でも魔力でもない。この矮小わいしょうな肉体という『器』を使いこなすための、全く新しい身体運用理論だ。


(……フン。前世では見向きもしなかったが、まさか宿敵の泥臭い技術に活路を見出すことになるとはな)


 一歳半。俺ことリリア・ハルトマンは、縁側(昨日のうちにゼフが泣きながら修理した)に腰掛け、庭で一人、盾を持たずに型を繰り返すゼフの姿を凝視していた。

 今日のゼフは、いつもとは違う『柔』の動きを見せている。

 かつての戦場で俺を苦しめた、あの不壊の防御。それは単に筋力で攻撃を止めているのではなく、受け流し、らし、衝撃のベクトルを大地へと逃がす、極めて緻密なエネルギー操作の結晶だったのだ。


(見ていろ……。元剣聖の眼力めぢからを侮るなよ、ゼフ。貴様のその、一見隙だらけに見えて鉄壁な重心移動……全て俺の血肉にしてやる)


 ゼフがゆっくりとてのひらを押し出す。

 空気の層が、彼の動きに合わせて僅かに歪むのが見える。俺は魔力を視神経に集中させ、彼の筋肉の収縮、重心の推移、そして足裏から地面へと流れる魔力の『道』を、スローモーションのように脳内へ焼き付けていった。


(……ほう。腰を落とすのではない、膝の力を抜くことで瞬間的に沈み込むのか。そして、敵の力を受ける瞬間に、肩から肘へ、肘から掌へと魔力を円環させる……)


 理解した。

 俺の剣技が『点の爆発』なら、ゼフの防御は『円の循環』だ。

 非力な俺が巨剣を御し、強敵の猛攻を凌ぐためには、この円の動きこそが不可欠。

 俺は脳内で、自分の小さな体を使い、ゼフの動きを完璧にトレースしてみる。


(纏え……。内に籠もる魔力を、一点に留めるな。全身を巡る、絶え間ない大河の流れに変えろ)


 じわり、と俺の小さな体に熱が宿る。

 これまでは鋼鉄のように固めていた魔力の鎧。それを今日は、流動的な『水の衣』へと変質させていく。

 俺が自己満足の極地(バブバブと頷く)に浸っていた、その時だ。


「おーい、リリア! 今日もパパを見守ってくれているのかい? 愛しの我が娘よ!」


 訓練を終えたゼフが、爽やかな汗を振りまきながら駆け寄ってきた。

 この男、切り替えの速さは天下一品だ。戦鬼の顔から一瞬で、鼻の下を伸ばした愚父の顔へと戻る。


「ははは! そんなに熱心に見つめられると、パパ照れちゃうなぁ。よしよし、今日はパパが特別に、お腹をこちょこちょしちゃうぞぉ〜! 『ハルトマン流・秘技・無慈悲な指先』だぁ!」


(……来たか。絶好の試験体め。……受けて立とうではないか、その軟弱な一撃を!)


 ゼフの大きな手が、俺の柔らかな腹部に向かって伸びてくる。

 通常の赤ん坊なら、その巨大な質量に圧倒され、なす術なく笑い転げるしかないだろう。

 だが、今の俺は違う。


 俺は魔力の『循環』を維持したまま、ゼフの手首が俺の肌に触れる刹那、小さな掌を添えた。


(……回れ! パパの力を、俺の円の中に引き込め!)


 ゼフの指先が俺の腹に触れる。その瞬間、俺は自らの重心を僅かにずらし、掌を螺旋らせん状に動かした。

 

 ――スッ。


「……えっ?」


 ゼフの驚愕の声。

 彼の大きな手は、俺の腹を捕らえることなく、まるで氷の上を滑るように外側へと逸れていった。

 

 受け流し。

 非力な幼児が、王国最強の騎士の指先を、完璧に無力化した瞬間である。


(クハハハ! どうだ、ゼフ! 貴様の技術は、すでにこの俺が盗み取った! 一歳児の掌一つで、貴様の攻撃は空を切るのみ!)


 俺は心の中で不敵に笑い、二撃目に備えた。

 ゼフは、信じられないものを見るかのように自分の手を見つめ、それから俺の顔を凝視した。


「い、今の……? 僕の手が滑ったのかい? それとも、リリア、君が今……?」


(そうだ。気づけ、宿敵よ。……いや、気づいても手遅れだがな!)


 ゼフはもう一度、今度は少し慎重に、ゆっくりと指先を伸ばしてきた。

 俺は再び、魔力の循環を掌に乗せる。

 ゼフの力のベクトルを読み、最小限の軌道でそれを外へと誘導する。

 

 ――シュルリ。


 またしても、ゼフの手は俺の横を空虚に通り抜けた。

 完璧だ。俺の魔力操作と、ゼフの『柔』の理合りあいが、一歳児の小さな体の中で一つになった。

 

 ゼフの顔が、驚愕に引きつり――。


「……はわわわわわっ! 見てくれ、エリナ! リリアが……リリアが、僕の手を握ろうとして、照れて逃げちゃってるよぉぉぉっ!! なんて、なんて奥ゆかしくて可愛いんだぁぁぁ!!」


(……は? 奥ゆかしい? 逃げてる?)


 ゼフは目から滝のような涙を流し、悶絶し始めた。


「僕が触ろうとすると、スルリと交わして恥ずかしがっている! あああ! 嫌がられているんじゃない、これは『好き避け』ってやつだね!? そうなんだね、リリア! パパ、もう胸がいっぱいだよぉぉぉっ!!」


(……正気か。どこをどう見れば、今の技術的防衛が『好き避け』に見えるんだ。……貴様、それでも王国騎士団長か!?)


 俺の完璧な技術実証は、親バカフィルターによって「恥ずかしがる健気な娘の仕草」へと無残に変換された。

 ゼフは再び、今度は強引に、俺を抱きかかえようと腕を広げる。


「おいで、リリア! パパが全身で受け止めてあげるよ! さあ、もう一度照れてごらん!」


(……うるさい! 抱きつくな! 修行の邪魔だ!)


 俺は必死に魔力を循環させ、ゼフの抱擁を受け流そうとした。

 だが。

 ――ベチャッ。


(……ぬぉっ!?)


 ゼフの「愛の力(という名の無差別な物理的圧迫)」は、一点への攻撃ではなく、広範囲の面による制圧だった。

 いくら指先を受け流したところで、丸太のような二本の腕で同時に囲い込まれれば、一歳児の掌では逃げ場がない。

 俺はゼフの厚い胸板に、無念にも顔を埋められることになった。


「ははは! 捕まえたぞぉ〜、リリア! ほらほら、パパの胸でお休み」


(……くっ、面制圧か。……防御に特化した男は、これだから厄介なんだ。……だが、技術の手応えはあった。……次は、負けん)


 俺はゼフの胸の中で、悔しさにバブバブと呪詛を呟きながら、今日の成果を反芻はんすうした。

 

 盗んだ技術、第一段階完了。

 俺は、ただ硬いだけの石から、受け流す水へと進化した。

 

 一歳児リリアの修行は、宿敵パパの無意識の教育(と過剰なスキンシップ)によって、着実に、そして極めて不本意な形で加速していくのだった。


「だぁー、ばぶ!(次は貴様の喉元を受け流してやるからな!)」


「おやおや、リリアがお喋りしているよ! パパのこと、大好きだって言ってるんだね! ははは、パパも大好きだよぉ〜!」


 ハルトマン家の庭園には、今日も勘違いに満ちた幸せな笑い声と、復讐に燃える赤ん坊の情熱が、奇妙な調和を保ちながら響き渡っていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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