表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつての剣聖、死んだら宿敵の娘に転生してしまった 〜パパが世界最強の親バカすぎて復讐どころか修行もままなりません〜  作者: ぱすた屋さん
第一章:「最強の家族」と「秘密の修行」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/41

第十一話:撃沈!重すぎる宿敵の剣!?


 昨夜の失態は、剣聖としての俺のプライドに深い傷を残した。

 道場の中央で独楽こまのように回転し、壁に激突するという屈辱。一歳児の肉体という『物理的な限界』は、俺が想像していたよりも遥かに高く、そして分厚い壁だった。

 夜が明け、ハルトマン邸の庭園には爽やかな朝の空気が満ちている。だが、俺の心境は泥のように濁っていた。


(……質量だ。圧倒的な質量が足りん。どれだけ魔力で出力を上げようとも、支点となるこの体が軽すぎては、剣の慣性に振り回されるだけだ)


 俺は縁側に座り、短すぎる足を投げ出して庭を眺めていた。

 庭の中央では、パパことゼフ・ハルトマンが朝の素振りを始めている。

 彼が手にしているのは、昨夜俺が手に取った長剣ではない。さらに一回り大きく、厚みのある訓練用の『素振りすぶりとう』だ。鉄の芯が入ったその重厚な得物は、成人男性でも持ち上げることすら苦労する代物だろう。


 ブン……。

 ブン……。


 ゼフが剣を振るたび、空気が重く振動し、地面から微かな震動が伝わってくる。

 かつての宿敵が見せるその動き。それは俺が得意とした『神速』とは対極にある、地響きを伴う『剛』の剣筋だった。


(……チッ。相変わらず、岩石のような男だ。ただ振るだけで、周囲の空間を威圧してやがる)


 ゼフの足元を見れば、一歩踏み込むたびに芝生が深く沈み込み、彼がどれほどの重圧を地面に逃がしているかが分かる。

 俺に必要なのは、ただの筋力ではない。あのゼフのように、大地と一体化し、剣の重さを己の力へと変換する『土台』の作り方だ。


「おや、リリア。今日もパパの格好いい姿を見に来てくれたのかい?」


 素振りを終えたゼフが、汗を拭いながら俺の方へ歩み寄ってきた。

 その顔は、先ほどまでの冷徹な武人のそれではなく、デレデレに溶けきった親バカの顔に戻っている。この男、切り替えの速さだけは一流だ。


「リリア、この剣が気になるのかい? ははは、これはパパでも重い特注品なんだよ。お前にはまだ……いや、一生早いかな。お前は重い剣なんて持たなくていい、パパが一生守ってあげるからね!」


 ゼフはそう言って、巨大な素振り刀を俺の目の前の縁側に、ドスンと置いた。

 床板がミシリと悲鳴を上げる。相当な重さだ。


(……一生早いだと? 言わせておけば……。今ここで、俺がその言葉を撤回させてやる)


 俺の心に火がついた。

 昨夜の失敗は、あくまで『振り回そうとした』からだ。ならば、振らなければいい。

 ただ、この場でこの剣を『御して』見せれば、それで俺の勝ちだ。


 俺はヨチヨチと立ち上がり、素振り刀の柄へと手を伸ばした。


「あ、危ないよリリア! それは指を挟んだら大変だ……」


 ゼフが手を差し伸べるが、俺はその前に柄をガッチリと掴んだ。

 

(纏え……。俺の意志を、大地へと繋ぐ杭に変えろ。……一歳児の体重を、魔力の加重によって十倍、百倍へと擬似的に引き上げるんだ!)


 俺は体内の魔力を、足裏から床下へと突き刺すイメージで展開した。

 放出はできないが、内側で『指向性』を持たせることは可能だ。

 重力。俺は自らの肉体を、一点に留まる巨大な質量体として定義し直した。


(上がる……。上がるぞ。昨夜とは違う。今の俺は、大地そのものだ……!)


 俺は、巨大な素振り刀をゆっくりと、だが確実に持ち上げ始めた。

 

 ミシミシ、ミシリ。

 

 俺の小さな腕が魔力によって膨れ上がり(見た目は変わらないが、内側の密度は爆発している)、巨剣が床から浮いていく。


「……なっ!? り、リリア……!? それを、持ち上げるというのか……!?」


 ゼフの目が驚愕に見開かれる。

 そうだ、見ろ。これが貴様が守ろうとしている『ひ弱な娘』の真実だ。

 俺はさらに魔力を練った。剣を水平に保ち、そのまま正眼に構えようとし――。


(……ぬっ!?)


 異変は、俺の肉体ではなく、俺の足元で起きた。

 魔力によって擬似的に重さを増した俺の肉体。そして、その俺が抱える巨大な素振り刀。

 その合計重量は、もはや縁側の床板が耐えられる限界を遥かに超えていた。


 バキィィィィィィン!!


 乾いた破壊音が響き渡る。

 次の瞬間、俺の視界がガクンと下がった。


(……あ、あれ?)


 俺は、床を突き破っていた。

 正確には、俺が踏みしめていた床板が粉々に砕け散り、俺はそのまま縁側の下の土壌へと、文字通り『撃沈』したのである。

 

「リ、リリアーーーーーッ!!」


 ゼフの悲鳴が庭園を揺らす。

 俺は床下に開いた穴の中に、素振り刀を抱えたままスッポリと埋まっていた。

 幸い、魔力の鎧を纏っていたため怪我はない。だが、頭から床下の埃を被り、完全に身動きが取れなくなっていた。


「大丈夫かい!? 今助けるからね! ああ、なんてことだ! 床が抜けるなんて……リリア、お前、パパの剣を上げようとして、そんなに気合を……!」


 ゼフは慌てて俺を穴から引き抜こうとするが、俺がまだ素振り刀をガッチリと掴んでいるため、なかなか持ち上がらない。

 結局、ゼフが必死の形相で床下の柱を支えつつ、ようやく俺を救出した。


「ふぅ……ふぅ……。怖かったね、リリア。もう大丈夫だよ。……それにしても、どうして急に床が抜けたんだろう。昨日の点検では異常なかったはずなのに……」


 ゼフは首を傾げながら、穴の開いた縁側を見つめる。

 俺はゼフの腕の中で、埃を「ぺっ」と吐き出し、深く、深く絶望していた。


(……重すぎた。剣ではなく、俺の『気合(魔力加重)』が……)


 一歳児が重い剣を持つ。その物理的な矛盾を解消しようとした結果、家を破壊してしまった。

 これでは剣聖どころか、ただの『お騒がせ幼女』ではないか。

 

「あらあら、まあ……。随分と派手なことになったわね」


 縁側の惨状を見て、エリナがリビングから顔を出した。

 彼女は俺と、穴の開いた床を交互に見て、ふっと意味深な笑みを浮かべた。


「あなた、リリアちゃんにはその剣、やっぱり早すぎたみたいね。……でも、床を突き抜けるほどの『重み』を持とうとするなんて、面白い子」


「エリナ、笑い事じゃないよ! リリアが怪我をしていたらどうするんだ! よし、明日から縁側は全部、鉄板で補強しよう。……いや、リリアを近づけないようにするのが先か」


(……鉄板補強はやめてくれ。さらに足場が硬くなったら、俺の膝が保たん)


 俺はゼフの胸元で、情けなさにバブバブと呪詛を呟いた。

 

 撃沈。物理的にも、精神的にも。

 俺の『重み』への挑戦は、ハルトマン邸の床に風穴を開けるという、何とも締まらない結果に終わった。


 だが、俺は穴の中から見上げたあの瞬間に、一つだけ理解したことがある。

 ゼフの剣の重さは、ただの魔力加重ではない。それは、足腰の粘りと、重心の移動によって生み出される『流動的な重み』なのだ。

 俺がやろうとしたのは、ただの石像になること。だがゼフがやっているのは、流れる大河のような圧力。


(……負けた。……だが、次はこうはいかんぞ)


 俺はゼフの首筋をペチペチと叩き、床の修理代を(心の中で)謝罪しつつ、次なる修行のステップを見据えた。

 

 重すぎる宿敵の剣。

 それを本当の意味で使いこなす日はまだ遠いが、俺の中に宿った『重み』への渇望は、砕けた床板のように鋭く、俺の魂を突き動かし続けるのだった。


「だぁー、ばぶ!(修理代はパパのお小遣いから出しておけ!)」


「ははは! リリアが慰めてくれているよ! やっぱりリリアは天使だなぁ!」


 全く噛み合わないまま、ハルトマン家の朝はまた一つ、賑やかな(破壊的な)思い出を刻んでいくのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ