耐性なしは向かずして
3日目もまたここへ来てしまった。そして今日も昨日と同じようにあの男が立っている。そのまま私に話しかけ、気が付いたら手元には手引書があった。男の手には5分間のタイマーが、つまり5分暗記タイムである。
突然なる理不尽ではあったものの、私の心に抵抗の文字はなく、ただひたすらに渡された手引書を読み込んだ。集中していたので5分程度の時間はあっという間に過ぎ去った。彼は私を先導して動き、エレベーターに乗った。エレベーターは4階で止まり、扉が開いた途端、アーモンドの香りが襲い掛かってきた。
その匂いは別に嫌ではなかったのだが、なんとなくで鼻をふさいだ。一方のこの男はこの香りを何等気にしていない様子だ。
手引書には部署内の壁は少ないですと書かれていたが、まさか見渡しても仕切りがほとんどない、つまり物理的な壁の話だったとは。なんなら仕切りどころか部屋が全く分かれておらず階の向かい端まで見えるほどではないか。
ここは回生部署、送られてきた死人を元に戻すことが仕事だ。心停止だろうが、肉片だろうが、どんな状態だとしても例外なく死ぬ原因が取り除かれた状態で元に戻す。そのうえで今日の私の仕事は蘇った体を修復部署と協力して元の場所へ還すことだ。そして私はこの部署の職員とは話さない、いや話せない。何せ今の時点で既に忙しそうだからだ、かくいう私も当然忙しい。それこそ、蘇生の様子を見に行く時間がない程だ。
私に課された仕事。
まず、修復部署の仕事1つ1つが終わり次第に連絡を受け取り、その旨を伝達。次に過去の行動を確認し、位置を見る。最後に座標を打ち込み、転送する。
それだけでなく、倒壊した建物にいたわけではない人間の対応もしなくてはならない。そのうえ、連絡が来るタイミングはこちらが作業中であっても関係ない。
それぞれの作業がいくら単純であってもなかなかに難しい、今日の仕事はこの3日間で最難関と言っても差し支えなかった。
この日、人との会話はなかった。あっても私が一方的に連絡について話していただけだった。雑談などなく、食事の時間さえ、一口サイズの携帯食を渡されて作業の手を止めることはなかった。
あまりの忙しさとグロテスクさに平和なんて言葉を考えている暇はなかった。やっとのことで仕事が終わり、帰りにラーメンを3杯食べた。
読んでいただきありがとうございます、
年末年始なのでサボり率高めですが
御堪忍くださいな
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