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時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「アミカナの朝」

アンドロイドヒロイン・アミカナの土曜日の朝:きっと治らない

作者: 刹那メシ
掲載日:2025/12/12

これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本編の第11話「夜の露天風呂で」と第12話「神の子宮を潰せ」の間の出来事です。未来から来た女性タイムトラベラーであるアミカナは、自身がアンドロイドであることを隠して、大学生の志音と行動を共にしています。本編では描き切れなかった、互いに惹かれていく二人の心の触れ合いやすれ違いを描いています。本編未読でも、少しは楽しんで頂ける……ことを願っています。なお、前夜、何があったかについては、番外編「甘美ではない夢」も読んでみて下さい。

挿絵(By みてみん)


<土曜日>

 二人は、朝日の中、旅館の廊下にある共同の流し台に並んで歯を磨いていた。アミカナはちらりと志音を見る。ひどい寝癖の彼は、明らかに寝不足の顔をしていた。

 ……何か、ごめんね……

 彼女のせいではなかったが、結果的に眠れない状況を作り出したことを、彼女は何となく申し訳なく感じた。結局、昨夜は何もなかった。ただ、お互いの息遣いを気にするだけの数時間だった。

 昨夜は幻惑的だった庭の露天風呂も、眩い朝日に照らされると、その狭さと古さに驚かされる。あの中で、私は一人悶々としていたのか。夜の魔力は恐ろしい。

 そう。昨夜、彼が言った通りであった。朝日は、『そんなことで悩んでんじゃねぇよ、バ~カ』って、明るい感じで言ってくれる気がする……。昨夜の彼女の期待や戸惑いや苛立ちや切なさも、この目の眩む光で、全て笑い飛ばされたような気がした。

「……露天風呂、どうだった?……」

 彼が聞いていた。

「ああ、気持ちよかった! 星空の下でのお風呂って最高ね! ほら、お肌もツルツル。触ってみる?」

 努めて無邪気に答えた彼女は、袖をまくって左腕を出した。彼はちらりと彼女を見たが、すぐに正面を向いた。

「……いや、遠慮しとく……」

 予想通りのリアクションに、彼女は内心ホッとしていた。触られても困る……

「……そう言えば……」

 開いているのかいないのか分からない目で、彼は天井を見上げた。

「ここの温泉、冷え性にも効くらしいよ……」

 何気なく彼は言った。聞き流しかけて、彼女はハッとした。

 ……木曜日の神社で、やっぱり気付いてたのね……

 彼女のボディは戦闘特化型だった。そのため、戦闘に必要のない機能は極限まで省略されていた。食べることも、眠ることも、体温を維持することも……そして泣くことも。彼女の肌が冷たいのはそれが理由だった。彼がそれを知るはずはない。だから、私が冷え性だと思って、それでも気付かないふりをしてくれた?……

 ……もしかして、昨日、ラキシス憲章まで持ち出して温泉を勧めていたのは、そのため?……

 ……何なの、もう……

 感情がこみ上げる。ただ、それは複雑な感情だった。甘さと苦さが入り交じった、近寄りたいのに近寄って欲しくない感情。自分のひねくれた心に、心底うんざりする。涙を流すことができれば、少しは気が晴れたりするのだろうか……

 思わず自身の浴衣の胸元を掴んでいることに、彼女は気付いていなかった。

「……どうした?……」

 彼に聞かれて、我に返った彼女は焦った。

「……ああ、私、歯を磨くと、この辺が痒くなるの……」

 咄嗟に言ってしまってから、彼女は酷く後悔した。そんな馬鹿な言い訳ある?!……彼女は彼の方を向くことができなかった。本当の気持ちに気付かれた気がした。

「ああ、分かる分かる。僕も、耳掃除をすると咳が出るから。しかも右耳だけ」

 彼は歯を磨き続けていた。

「……は?」

 ……そんな納得の仕方ある?……

「掻いてあげようか?」

 彼は軽口を叩いた。内心の焦りを馬鹿にされた気がして、彼女は苛立った。

「変態!……って言うと思った?」

 微笑みながら、彼女は彼を睨んだ。

「お願い……って、私が胸をはだけたらどうする?」

 浴衣の襟に手をかける。突然のことに、彼の歯を磨く手は完全に止まっていた。

 急に心が痛んだ。彼は私のことを気遣ってくれているのに、私は一体何をしているの?

「……な~んてね! 鼻の下伸びてるわよ!」

 そう言って彼女は流し台を離れた。もう彼の傍にいることができなかった。泣き出したい。しかし、それも彼女には許されなかった。

<本当に言いたかったこと、言わなくていいの? 思ったことは口にする主義なんでしょ?>

 彼女の中の一部が囁く。

 ……もういいの……

<ふ~ん。日本的なのね>

 彼女は苦笑した。

 ……私のルーツは関係ない。ただ、臆病なだけ……

 流し台に取り残された彼をちらりと振り返る。

 ……彼が強い私を望むなら……

<彼が、強いあなたを望んでいるって、どうして分かるの?>

 ……分かるわ。だって……ずっとそれを見せてきたんだもの……

 彼女は震える息をついた。

 ……だから、彼がそう望むなら、この胸の痛みは……きっと治らない……

お読み頂きましてありがとうございます。1000PVへの感謝も込めて、こちらも公開致します。昼の三部作的なものになります。まだまだ色々なシーンが思い浮かぶのですが、ちょっとマンネリになってきているかも知れませんね。反省です。少なくとも、もう一つは描きたいシーンがあるので、それまでお付き合い頂けると幸いです。

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