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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第31話 リースリングの代官

ダニエル視点

 辺境都市リースリングの中央区。

 その一番中心に位置する立派な屋敷――代官屋敷では、一人の青年が黙々と仕事をしていた。上がって来た報告書に目を通し続け、必要に応じてペンを走らせる。

 彼こそ、今このリースリングを取り仕切っている子爵家の嫡男、ダニエルだった。


(――立て直しは随分と、進んだか)


 彼は書類をまとめ、小さく吐息をこぼす。その表情には色濃く疲労が滲んでいた。

 それもそのはず、彼は昼夜、リースリングの立て直しに追われていたからだ。何せ、前任の代官は利権に胡坐を掻き、かなりの汚職に手を染めていた。

 取引先はほとんどが賄賂塗れ。それにメスを入れるだけでも一苦労だ。


 それだけでなく、この街は二方面からの脅威に晒されている。

 北には吸血鬼が道を封鎖し、東はダンジョンが発生――どちらも放っておけない。特にダンジョンに至っては領邦軍三百が壊滅しているのだ。

 内部にも外部にも脅威がある。それにダニエルは睡眠時間を削って当たっていた。


(幸い、北方はすぐに型がつきそうだな)


 ダニエルは軍の報告書と作戦立案書に目を通し、小さく吐息をこぼす。

 そこには徹底した山狩りにより、吸血鬼の半数を退治した旨が書かれている。そして、廃砦に立てこもる吸血鬼を退治する作戦も立案されていた。

 それに加わるのは領都にいる領邦軍本隊の精鋭だ。退治は成功するだろう。

 作戦の承認の判を押し、書類を脇に置く。


(問題は、東の方か――)


 ダニエルはため息をこぼし、地図に視線を向ける。

 迷いの森に位置する東の森――そこにはいつの間にか、ダンジョンが発生している。ダンジョンは魔物を急速に成長させるため、放置すれば最悪のタネになる。

 本来ならば、鼻が利く冒険者たちがすぐに踏破するのだが、どうにもこのダンジョンは厄介らしく、生存者、帰還者が著しく少ない。ダニエルの弟も呑まれ、領邦軍三百すら壊滅させられている。

 これを放置すれば後の災厄になる――それは理解していたが、ダニエルは後回しにせざるを得なかった。何故なら現状、これらは実害がない一方で、北の吸血鬼たちは交易路を封鎖している。こちらの対応が最優先になったのだ。


(手をこまねいている間に、急激に成長していなければいいが――)


 目下の懸念点は、それであった。もし急拡大が遂げていれば子爵家の領内で魔物氾濫、あるいは魔境化などの歴史的な災害が発生することになる。

 そうなれば民間に犠牲が出る上に、子爵家に致命的なダメージとなる。

 それは子爵家の一員として避けねばならなかった。

 ダニエルは無言で思考を巡らせていると、廊下の方で気配がする。視線を上げれば、軽いノックと共に声がかかった。


「ダニエル様。ライガットです」

「――入れ」

「失礼します」


 静かに一人の騎士が入室してくる。年若い彼はダニエルの腹心の一人であり、情報収集を得意としている。ギルド関連の折衝は彼に任せていた。

 彼は一礼すると、静かな口調で告げる。


「先日、報告した件につきまして、動きがありましたのでご報告です」

「――ふむ、例の闇ギルドの動きか」


 先週から地下で活動している者たちの動きが慌ただしかった。

 探らせたところ、新興のミストール商会が大金を積み、商品になるエルフ狩りを大規模に開始することが分かっていた。

 ミストール商会は前任の代官とずぶずぶの仲であり、検挙しようと思えば可能だったが、彼は敢えて見逃して動きを伺った。そのエルフ狩りの行き先が、東のダンジョンだったからである。


(我々が手出ししづらい闇ギルドの戦力が削れるのは良いことだし、これでダンジョンがどのような実力を持っているかも測れるだろう)


 これで闇ギルドが充分な戦果を挙げていれば、ダニエルとしてはダンジョンを気にせずとも済む。じっくりと腰を据えて攻略すればいいだけだ。

 一番望ましいのは、互いに大きな損耗を負っていることだが――。

 ダニエルは頷いてライガットに報告を促す。彼は口を開き、淡々と告げる。


「結論から申しますと、闇ギルド勢五百名は壊滅しました」

「――壊滅、だと?」

「正しくは無事に戻ったのは百も満たない数です。ダンジョンは想像以上の戦力を蓄えていたようです」

「それは――確かに壊滅、だな」


 驚愕していたダニエルは深く吐息をこぼし、目を閉じる。


(――ダンジョンの脅威を、見誤っていたか)


 これはいち早く領邦軍を投入すべき事案だったかもしれない。だが、首を振ってその考えを振り払うと、今どうすべきか思考を巡らせる。


「確か、闇ギルド勢の中に密偵を混ぜていたな。奴らは無事に戻ったか?」

「はい、ダンジョンには立ち入りましたが、深入りせずにダンジョンの位置や構造、戦力などを観察させました。その結果ですが――」


 ライガットは壁に貼られた地図に歩み寄り、一点を指さして告げる。


「迷いの森に入って二日進んだ場所であり、これに関しては領邦軍の報告と一致しています。ただ、唯一異なるのは、そこが大規模な集落と化していたこと」

「――集落」

「はい、建物の周りを空堀や柵で固め、防衛拠点と化していた、と報告されています。死人で来た戦力はエルフが三百余り、ゴーレムが数体、そして」


 ライガットが言葉を切ってから、はっきりと続けた。


「火竜が、二体」

「――っ、そんな馬鹿な。火竜もいるのか。それも二体も」

「間違いない情報です。さらにはエルフの一部は銃で武装しているという情報もあり、これも確実視されています」

「……ライガット、それはダンジョンの報告だよな?」

「はい、間違いなく」

「聞いている限り、武装勢力の砦の話のように思えるが」


 ダニエルが知る限り、ダンジョンは自然の要害だ。

 洞窟、密林、沼地――その中で入り組んだ構造が発生する。それを構築するのはコアという鉱石であり、自衛のためにそういった構造を生み出し、魔物を育てると考えられている。その常識からはあまりにも掛け離れている。

 ライガットは頷き、慎重な口調で訊ねる。


「斥候を放ちますか? 危険ではありますが――」

「そう、だな。念のため、動かせ」

「承知しました」

「――まだ半信半疑だが、一応、その情報を真として動くことにしよう」


 ライガットが情報を持ってきた以上、信頼がおけるのは違いない。内容は信じられずとも、ひとまずはそれを前提に動くべきだ。


「領都に連絡を出し、増援を頼むことにする」

「どれほど用意しますか」


 一応、リースリングにはすでに五百の兵を入れ、北で行動させている。既存の兵とギルドの冒険者を合わせれば千にはなるだろう。


(普通のダンジョンならそれで十分だが――)


 目を閉じ、思考を巡らせてから言葉を押し出した。


「二千――合計、三千は用意すべきだろうな」


 闇ギルド勢とはいえ、五百がほとんど壊滅しているのだ。それを意識すれば、数は多いに越したことはない。ライガットはそれに黙り込み、やがて静かに告げる。


「そうなればもはや、ダンジョン攻略どころではありませんな」

「ああ。舐めて掛かるつもりはない」


 すでに領邦軍が全滅――累計すれば千以上が奴らに仕留められている。

 それを考えればダンジョンに挑むという認識は持たない方がいい。

 ダニエルはライガットを見据え、はっきりと告げた。


「攻城戦のつもりで、準備を整えさせろ」


 新たな軍勢が、またしてもダンジョンに迫ろうとしていた。

ここから決戦に話が移行しますが、一時休載させていただきます。

作品の流れを一度見直した上で投稿を再開しますので、今しばらくお待ちいただければ幸いです。

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