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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第29話 フィアの奮戦

フィア視点

(どうにか間に合いましたね――)


 駆けつけたフィアは炎の息を引っ込めながら、目の前に侵入してきた男たちを見下ろす。彼らは油断なくフィアを見据え、陣形を組み直している。

 どうやらこの男たちだけは練度がかなり違う上に、統制も取れている。

 前衛には剣士や戦士が数人、中衛に弓手が数人、後衛に魔術師が少し。まるで隙がなく、いつしか戦ったジェシカたちを彷彿させる。

 それを睨みながら傷ついたゴーレムたちに告げる。


「貴方たちは退きなさい。ここは私が討って出ます」


 その言葉にゴーレムたちはすぐに地面に姿を隠していく。侵入者たちはフィアを警戒してそれを追撃しない――目的の一つは達成できそうだ。


(数体犠牲を出してしまったのは、胸が痛みますが――)


 怒りや恨みを押し殺し、フィアは冷静に思考する。すなわち退くか、戦うか。

 ゴーレムたちは撤退させることができた。であれば、退いても問題はない。再び、第二区画を防衛陣地として作戦は続行可能だ。

 だが、問題は彼らが陣地を破壊できる能力を持つこと。

 野放しにしておけば、確実にまた柵が壊され、第二区画も脅かされる。


(――ここで、叩くべきか)


 思わず唾を呑み込んだ瞬間、カイトの念話が静かに頭に響く。


『フィア、無理はするなよ』

『……やはり、退きますか』

『……いや……』


 苦渋を感じさせる念話。それで彼の意図を察すると、フィアは思わず表情を緩める。

 心配しつつも、彼女を信じて任せようとしている。その心遣いに感謝を捧げながら、フィアはカイトに念話を返す。


『無理はしません。が――ここで、彼らを叩きます』

『……ああ、任せる。こちらも作戦は考えている。頭に入れてくれ』


 瞬間、彼の思い描く作戦が頭に伝わってくる。フィアは了解の意図を返しながら、深呼吸を一つし、魔力を身体の中に循環させる。


(火竜化はしない。それでもこの身体で最大限の力を引き出せるように――)


 淡い炎が身体を包む。手足に鱗が生えていき、手は大きく爪が伸びていく。顔の半分も鱗に覆われ、自身の瞳の瞳孔が縦に割れるのを感じながら、フィアは構えを取った。

 その変化を前に、侵入者たちも警戒心を露にする。瞬間、その後衛にいた魔術師が魔力を迸らせた。


「――っ!」


 何かを叫ぶと同時に、炎と電撃が迸る。それを前にしてフィアは避けることなく、むしろ前に向かって地を蹴った。

 衝撃が身体に迸る。だが、あまりに軽い。

 フィアは炎と電撃を突き抜けると、目の前の侵入者に向かって飛び掛かる。前衛の戦士たちはすぐに剣や斧を抜き、猛然と立ちはだかった。

 迎え撃つように真っ直ぐに放たれる刃。フィアはそれに腕を上げて防ぐ。衝撃が腕に走り、鱗が砕け散る。だが、その刃は完全に弾かれ、彼女は無傷だ。


(効くはず、ないでしょう……っ!)


 フィアは人間体を保っているとはいえ、火竜の鱗で身を覆っているのだ。

 しかも何回も戦いを経て力を増してきている。ちょっとやそっとの魔術や剣では文字通り、刃が立たない。その光景に剣士は一瞬、硬直する。

 その攻撃の隙に、フィアは空いた片手を一閃させた。

 鋭い爪が剣士の胴体にめり込む。固い鎧の感触があるが、構わずに振り抜くと、鉄がひしゃげる感触と共に剣士は吹き飛んだ。


(よし――)


 まずは一人。フィアが目を細めた瞬間、横から殺気が迸って咄嗟に顔を背けた。直後、空を切って矢が頬を掠める。

 無防備な顔を狙った射撃だ。フィアが体勢を崩した隙に前衛の戦士たちが体勢を整え、斧を構えた戦士が踏み込んでくる。

 振り下ろされる斧。フィアは後ろに飛びずさると、振り下ろされた斧が轟音と共に地面にめり込んだ。その威力にはさすがに彼女も冷や汗をこぼす。


(鱗があるとはいえ、これは危険ですね――)


 刃を防いだとはいえ、打撃力は防ぎきれないのだ。フィアは後退って距離を取るが、戦士たちは斧遣いを軸に間断なく攻め立て、彼女をぐいぐい追い詰めていく。


「――っ!」


 牽制の剣を躱した瞬間、横に薙ぎ払われる斧。顔を背けるが、危うく頬を掠めて鱗が飛び散る。鋭い痛みに顔を顰めながら、フィアは頬を拭った。

 その手には血がべったりついている――鱗を貫通して、斬られたらしい。


(まずいですね、このままだと――)


 さらに斧使いが踏み込み、大きく斧を振りかぶる。隙だらけに見えるが、その脇を剣士たちが固めていて踏み込めない。

 このままではじり貧――後ろに退き続けるしかない。


(けど、それでいい――)


 目を細めながら、フィアはさらに前衛が踏み込んでくるのを見据え。


 瞬間、その背後で轟音が響き渡った。次いで、悲鳴と断末魔の叫び声。


「――っ!」


 前衛の戦士の一部が振り返り、目を見開く。そこでは後衛の魔術師たちが地面から突き出た掌に鷲掴みにされていた。中衛の弓手たちが助けようとするが、岩の手は矢を受け付けない。


(さすがカイト様――)


 ゴーレムたちを撤退した、と見せかけて、密かに地面の下を移動させて、後衛を奇襲させたのだ。前衛はフィアに集中してしまい、背後の防御が疎かになっていた。

 魔術師たちは為す術もなく、ゴーレムたちに握りつぶされ、叩き殺される。

 その状況に侵入者たちは動揺する。その隙に真上から濃厚な気配が降り注ぐ。


『フィア、ローラが来る。防御だ――!』


 カイトの指示にフィアは瞬時に魔力を体内に巡らせ、鱗で全身を覆う。直後、轟音と共に真上から飛来したローラが火炎を吐き出していた。

 前衛の戦士たちは盾や鎧で必死に身体を守るが、弓手はそうもいかない。

 火炎で身体を焼かれ、断末魔の叫び声を上げる――その光景に鱗で火炎から身を守ったフィアは吐息をこぼし、カイトの指示を聞く。


『フィア、もういい。ローラ、撤退だ』

『うん、姉さま、手を――!』


 火炎を吐くのを切り上げた人間体のローラが翼をはためかせ、フィアの方に滑空してくる。フィアは手を伸ばし、妹の手をしっかり掴んだ。

 頼もしい力でフィアは上空に引き上げられ、瞬く間に第二区画に至る。

 視界を巡らせればと、火炎から立ち直った戦士たちが陣形を立て直すところだった。

 だが、そこには周りを包囲するようにエルフやキキーモラたちが忍び寄っている。彼らは建物の上を陣取ると、弓矢や銃を構えて戦士たちを狙う。

 その一斉射撃を防ぐことはできない――もはや、詰みだ。


 数瞬後、銃声と共に断末魔の叫び声が響き渡っていた。


「姉さま、大丈夫? 頬が――」

「大丈夫です。ローラ。浅手ですよ」


 ローラに心配されながら、フィアは第二区画の建物に着地。それからカイトに指示を仰ぐ――まだこの程度で襲撃は終わっていないはずだ。


『撃退に成功しました。次はどうしますか』

『ありがとう。フィア――そろそろ二人には本気を出してもらう』

『――了解です』


 今までフィアとローラは火竜の姿を発揮しなかったのは、侵入者たちを逃がさず、できるだけ仕留めるためだ。だが、見てみれば侵入者たちの圧は弱まり、中には森の中に逃げ込んでいる者もいる。

 ならば、もう遠慮する必要はないだろう。


『フィア、ローラ――火竜になって蹂躙しろ。敵を逃がしてやる道理は、ない』


 その言葉にフィアとローラは頷き合い、魔力を体内に巡らせていく。


「ローラ、私は西の退路を塞ぎます。飛んで送ってくれますか」

「了解。姉さま。じゃあ私は森に逃げ込みそうなのを適宜倒す感じで」


 ローラが素早くフィアの両脇に手を差し込み、上空へと飛ぶ。矢も魔術も届かない高い位置から一気に西の地点に到達すると、高度を低くした。

 フィアはローラの肩を叩いて落とすように指示。

 真下には丁度、逃げようとしている冒険者たちがいる――ローラが手を離し、フィアは自由落下。侵入者を見据えてフィアは魔力を解き放ち。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 火竜の咆吼を、轟かせた。

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