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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第27話 五百人の侵入者

侵入者視点

 その日、木々をかき分けて進む無数の人影があった。

 装束は実に様々。鎧に身を包んだ者たちもいれば、黒ずくめの者、マント姿の者などがおり、彼らは粛々と迷いの森を進んでいく。

 唯一共通していることは、彼らは金に目が眩んでいること。

 爛々とした目つきで一攫千金を狙う彼らは隠密行動もしない。いち早く先に金を手にしようと彼らは木々をへし折り、茂みを踏みにじって歩いていく。

 ザイードもまた、その一人。だが、比較的落ち着いた彼は黒いマントに身を包んだ手下たちを連れ、先頭を行く者たちの後ろをついていた。


「兄貴、こんな後ろでいいんですかい? 出遅れますぜ」


 小声で告げる手下の一人にザイードは視線をくれると、鼻を鳴らした。


「気にするな。連中はエルフの一人も狩れん」

「あれだけ数がいるのに、ですか?」

「ああ。聞いた話だと、この森の奥にはダンジョンがあり、そこに連中は住んでいるらしい。柵なんかを立てて、かなり守りは固いとか」

「へぇ――村みたいなもんですか」

「さぁな。ただ、俺の勘だと、砦に近いんじゃないかと踏んでいるぜ」


 ザイードたちはリースリングの南にある街から出張してきた。

 それだけに今回の話は美味すぎると感じ、いろいろと下調べしてみたのだ。そうすると、ダンジョンの話や、生きて帰った者が少ないことなども確認できた。

 明らかにヤバいネタであるのは確かだった。


「一応、今回の作戦に参加しているのは五百人以上だ。それでもダンジョンは踏破できないだろうし、恐らく二割、三割まで減らされるだろうぜ」

「ま、マジっすか……そんなやべえところに行くんすね、俺たち」


 手下の一人が身震いし、他の手下たちも不安そうな顔を隠そうとしない。

 だが、ザイードは軽く鼻で笑い、鼓舞するように告げる。


「ビビんなよ。俺たちは何もダンジョンに潜ってくる必要はねえ。そんなことをすれば命がいくつあっても足りねえしな」

「……そうっすね、エルフを攫ってくればいいだけっすよね」

「ああ、だから目的は一番乗りじゃなくていい」


 ザイードはそう言いながら、先頭に行く連中を見る。

 彼らは基本的に金に飢えた者たちで、頼りない連中ばかりだ。だが、どれも裏社会で食ってきただけに、多少なりは戦える。それに中には異様に腕が立つ連中も見える。

 そいつらはどちらかというと、ダンジョン狙いだろう。このどさくさに紛れてダンジョンに入り込み、お宝か、あわよくばダンジョンコアを手にしようとしている。

 その連中が思う存分、ダンジョン内を引っ掻き回してくれるはずだ。


「俺たちはあいつらの動きに乗じ、炙れたエルフを見つけ出してとっ捕まえることだ。それで一人、二人捕まえればおさらばすりゃいいのよ」


 何せ、一人でも大金が掛けられているのだ。ザイードは一番後ろからついてくる一団を見やり、後ろ指で差しながら告げる。


「捕まえたら、あいつらに引き渡すだけ。そうすれば後で金に換えてくれる札をくれる寸法だ。いいか、お前たち、前に突っ込むなよ。冷静に人の動きを見るんだ」


 その言葉に手下たちは神妙な顔つきで頷く。不安は吹き飛び、冷静な動きが期待できそうだった。


(ま、本当にヤバそうならずらかるけどな)


 内心でそう続けながら前に進み続けると、不意に先頭集団の動きが変わった。眉を寄せていると、ふと肌で空気の変化を感じる。


「お前たち、気を引き締めろ。ダンジョンに入った」


 低い声でザイードが告げた瞬間、先頭の方から悲鳴が響き渡る。

 すでに戦いが始まったのか、と身構えるが、そちらの方に歩いていくうちに声の正体が分かる。地面に空いた穴に落ちた、間抜けの悲鳴だ。


(よく見りゃ罠がたくさんあるな――)


 前を行く連中は慣れているのか、見え見えの罠は避けて歩く。だが、数が多いだけに時折、踏み抜いて悲鳴や断末魔の声を響かせる。

 ザイードも罠を避けながら進んでいけば、先頭集団が立ち止まり、様子を伺い始めた。


「――到着、か」


 ザイードたちもそこに辿り着く。そこから先は拓けており、畑や建物が立ち並んでいるのが分かる。そして、情報通り柵や空堀が掘られ、立ち入るのはかなり難しそうだ。


(さて、こいつらはどう動くつもりか――?)


 周りの出方を窺っていると、ふと数人の一団が何かを用意し始めた。何かを括りつけた矢を弓につがえ、次々に撃ち出す。

 真っ直ぐに村へ飛んでいく矢。それが建物の間で消え――。

 ぼん、と弾ける音を立てた。


(火矢か何か――)


 どうやら炎でいぶり出そうという魂胆らしい。次々に火矢が放たれ、村中のあちこちで破裂音が響き渡る。だが、それに対して村は静寂そのものだ。

 だが、声が聞こえる辺り、中にエルフたちはいるらしい。

 黒煙は少しだけ立ち上っていたが、やがてそれは上がらなくなる。


(ま、この程度でエルフをあぶりだせたら苦労はしないな)


 だが、その攻撃は他の連中を刺激したらしい。負けじと数人の男たちが先頭を切って村の方へ駆け寄っていく。張り巡らされた罠を慎重に避けつつ、村を取り囲む空堀と柵に接近。そして、彼らが空堀を登り、柵に手をかけた瞬間、エルフが動いた。

 建物の屋上から空を切り、次々と降り注ぐ矢――それに悲鳴が木霊する。


「おー、おー、訓練されているねぇ」


 敢えて充分引きつけてから矢を射ている辺り、統制が取れている。それに感心していると、手下がびくびくした様子で告げる。


「だ、大丈夫なんすかね、このままで――」

「ああ、大丈夫だろう。これでも闇ギルドの人間たちだぜ」


 そう言いながら顎でしゃくり、一角を示す。そこでは戦士が矢を防ぐ一方で、その後ろに立つ魔術師が意識を集中させる。直後、轟音と共に火柱が立った。

 業火が柵の一部を吹き飛ばし、侵入する隙を作っている。

 そこに雄叫びを上げて我先にと飛び込む男たち――だが、そこに容赦なく矢が撃ち込まれ、悲鳴を上げることになる。

 同じような轟音が数か所から響き渡り、黒煙が立ち上る――。


「ほらな。柵を突破するだけなら難しくねぇよ」


 とはいえ、その中にいるエルフたちの抵抗は激しい。ここから生け捕りにする方が困難だろう。男たちが壊れた柵から攻め立てるのを見つつ、ザイードは吐息をこぼす。


「そんじゃ、俺たちも行くか」

「うっす、俺たちもあの柵の隙間から入るんすね」

「馬鹿野郎、んなわけあるか」


 ザイードは鼻で一蹴し、足を別の方向に向ける。そこは柵が無傷で建っている方――それを見て、ああ、と手下たちは納得した。


「そうでしたね。俺たちならあれくらいは余裕ですから」

「そういうこった。遅れずについてこいよ」


 ザイードはそう告げると、身体を低くして滑るように疾駆する。瞬く間に彼は空堀に至ると、軽く跳躍して飛び越える。

 そして両手で短刀を構えると、柵の木に突き立てるようにして、するすると登っていく。エルフたちがそれに気づいて矢をつがえるが、その前にはすでにザイードは柵を飛び越え、中へと侵入していた。物陰に隠れ、矢を避けながらあざ笑う。


(はは、この程度、ちょろいもんだ)


 彼らは軽業に秀でて、いろんなところに侵入しては物を盗んでいた。人を攫ったことも一度や二度じゃない。柵を飛び越えることも朝飯前だ。

 それでもすぐに行動しなかったのは、他の連中がエルフの気を引くのを待つためだ。さすがに行動中を狙い撃ちされていたら、彼らもひとたまりもない。

 だが――侵入できてしまえば、後はこちらのものだ。

 手下たちも柵を次々に身軽に突破。そして最後の一人も飛び越え――。


 瞬間、何かが爆ぜる音と共に、その手下の頭が弾け飛んだ。


「――は」


 思わず目を見開いた瞬間、殺気が身体を貫いた。咄嗟にザイードは別の物陰に飛び込む。直後、彼の隠れていた場所を何かが駆け抜けていった。


「……っ、全員、散れっ!」


 ザイードが叫ぶと、手下たちは慌ててばらばらに分かれて行動を始める。だが、慌てるあまり、数人は物陰から出てしまう。

 直後、矢が空を切り、身を晒した手下たちは断末魔の叫びを上げる。


(馬鹿野郎……っ!)


 その中でザイードは物陰から物陰に身を移し、建物の屋上から狙えない場所に移る。そうしながら直前の攻撃を振り返り、冷や汗を滲ませる。


(なんだ、さっきのは――矢じゃなかったぞ……っ)


 しかも目視で確認できないくらい早かった。そんな何かが彼らを襲ったのだ。

 想定外の攻撃にザイードは唇を噛みしめ、それでも冷静に気配を殺す。

 周りでは手下たちも物陰に隠れ、必死に息を殺している。ザイードはそれに頷きながら、エルフたちの注意が逸れるのを待つ。


(大丈夫だ。俺たちの数までは把握できていない)


 そして、他が攻められている以上、ここにいつまでも掛かりきりになっているわけにはいかない。どこかで必ず隙が出るはず――。


「ぐぁあっ!」

「うぁああっ!」


 だが、その予想は裏切るかのように、至る所から手下の悲鳴が響き渡る。ぞくり、と背筋に悪寒が走って振り返った瞬間、こちらを狙うエルフと目が合った。


「――っ!」


 居場所が、割れている。そう直感したザイードは物陰から飛び出し、両手の短刀を目の前で交差させる。直後、放たれた矢が短刀に直撃し、火花を散らした。

 その間にザイードは脱兎の如く逃げ出す。手下のことが頭にちらつくが、もはや彼らについて構っている暇はない。

 今は生き残れるかどうかすら、怪しいものだ。


(とにかく今はこの死地から逃げ出すしかない――)


 一縷の望みをかけ、ザイードは柵の方へと駆け出し――。

 ぞくり、とまた悪寒が走り、視線を走らせる。

 その視界に入ったのは、小さな人影。三人一組になった彼らは何かをこちらの方に向けていた。それは黒光りする鉄の筒。


(あれはまさか――)


 銃。それに思い至った瞬間。

 破裂音が響き渡ると同時に、頭に灼熱の衝撃が迸っていた。

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