第25話 シエラのたたら場
たたら場は、すぐにできた。
屋敷の近くに丁度空いている建物があったのである。そこへエルフに手伝ってもらって簡単な窯や設備を整えていく。
それをシエラに見せると、彼女は鼻を鳴らして小さく告げた。
『ま、悪くはないかも』
それから黙って作業の準備を整えていくのを、カイトは苦笑しながら見守った。
そして三日後にはたたら場は本格的に稼働を始めていた。
むわっと熱い空気が満ちるたたら場。
そこでは絶えず金属を打ち鳴らす音が響き渡っていた。シエラは巧みに槌を振るい、灼熱した鉄を鍛えていく。見る間に鉄が姿を変えていく様子にカイトは目を丸くする。
「見事な腕前だな――こんなに容易く金属が変化するのか」
「それがドウェルグの腕の見せ所」
彼女は端的に答えながら、鍛え上げた金属を眺めて加工を繰り返す。
「金属は魔力の流し方で柔軟に変化する。魔力と熱のバランスが重要」
「なるほど、ドウェルグ流の鍛冶、ということかな」
「そう解釈してもらって構わない」
シエラはそう言いながら再び鉄を炎で熱し始める。その傍らで作業をしていた一人のドウェルグが顔を上げ、シエラに声を掛ける。
「姐さん、こんなんでいかがでしょう」
「ん――悪くない」
ドウェルグが見せた品を片目で確認し、それを受け取ってカイトに差し出す。
「はい、一つ目の防具。胸当て」
「早いな。もう一つ目か」
「鋼鉄がすでにあるなら、簡単。変形させるだけ」
そう言いながらシエラは視線を横に向ける。そこには山積みになっている鉄の棒がある。正しくは切り取られた鉄格子、というべきだろうか。
(フィアとローラがせっせと切り出してくれたからな)
檻車はやはりというべきか、そのままで放置されていた。それを二人はせっせと炎で溶かして分解し、持ち帰ってきてくれたのだ。
その運搬にはゴーレムたちも一役買っている。そのおかげで今は潤沢に金属がある状態だ。
「場合によっては農機具も作ってもらうかもな」
「別にいいけど。その分、もっとたたら場は広げて欲しい」
「ああ、もちろん。働きには報いるつもりだよ」
さりげなく要求を重ねるシエラに、カイトは小さく笑いながら頷いてみせる。それに彼女は、ふん、と短く鼻を鳴らして肩を竦めた。
「ちなみに、たたら場以外に要求はあるか」
「別に。もっとやり甲斐のある仕事をくれれば嬉しいけど」
「やり甲斐のある?」
「ん。こんなただの量産作業は、つまらない。半分寝ていてもできる」
そう言いながらシエラは無造作に熱せられた鉄を火ばさみで取り出し、軽く槌で叩いていく。その一打、一打で的確に形が変わっていく。
気が付けば、目の前の鉄の塊はいつの間にか胸当ての形に変わっていた。
(――すごい。ただ槌で叩いただけで)
型などは使っていない。恐らく魔力などを流し込み、形を整えていたのだろうが。
彼女はそれを傍らのドウェルグに火ばさみで渡し、欠伸交じりに言う。
「まぁ、一日で百は余裕で作れる――こんな鍛冶では満足できない」
「じゃあ、武器も作ってくれるか? 貫通力の高い鏃があるといいが」
現在、エルフで使っている鏃はその辺の鉄くずを溶かし、鋳型で固めたものだ。軽く石で研いでいるものの、あまり質がいいとは言えない。
シエラはそれを察しているのだろう、ふん、と鼻を鳴らす。
「それも楽勝。あと、剣とか槍も作っておくべき?」
「ああ、そういったものもあると助かるな。正直、人間の装備を貫ける武器が少なくて」
「見せてもらった。まぁ、今の武器だと一撃で致命打を加えるのは難しい」
「――だろうな」
エルフたちの視界を借りて見たところ、人間たちはきちんとした金属製の鎧を身に着けていた。見たところ、量産品ではあるものの、矢や剣では弾かれてしまう。
それだけに仕留めるのを手間取り、犠牲を出してしまった。
奇襲を効果的に決めるならば、やはりそれなりの打撃力が必要だろう。
今のダンジョンには防具だけではなく、火力も必要になってきた。
それも、エルフたちが簡単に使えるような火力が。
(とはいえ、歴史的に思いつくのは、あれしかないんだが――)
ちら、とシエラを見ながら思考を重ねる。あれはどちらかというと工業製品であり、単純な冶金で作れるようなものではない。
だが、彼の視線の意図を感じたのか、シエラは目を細める。
「なに、作って欲しいものがあるの?」
「ああ、難しいものかもしれない」
「――ふむ」
わずかにシエラは目を細め、興味がそそられたように身を乗り出した。
「言ってみて。やってみる」
「そうか。なら丁度現物があるから、持ってこよう」
「……期待していいわけ?」
「それなりに再現は難しいと思うぞ。何せ、工業製品だから」
その言葉にシエラはふんと鼻を鳴らす。だが、その口角はわずかに緩んでいる――どうやらモチベーションが上がったようだ。
「なら、待っている。さっさとそれを寄越しなさい」
「了解。ま、ひとまず作業を進めておいてくれ」
カイトはそう言いながら彼女の傍から離れると、シエラはひらひらと手を振りながら無言で作業に戻る。たたら場では槌の音が楽しそうに響き続けていた。




