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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第23話 カイトの危惧

 その日、ダンジョンの地上部分では盛んにエルフたちが行き交っていた。

 いつになく真剣な表情で彼らは作業をし、檄を飛ばし合っている。

 カイトはローラを連れ、その様子を視察しながら目を細める。


(皆、やる気に満ち溢れているな――)


 それも当然だろう。人間の大軍が攻めてくる――その情報が舞い込んだのだから。

 情報源は当然、シズクだ。輸送部隊襲撃を終えた彼女はすぐさま、リースリングに戻り、ミストール商会に潜入して動向を窺っていた。

 そして、彼らの動きを確かめると、すぐに情報を持ってきてくれたのだ。


『次の襲撃では数がおよそ五百名になります。ご用心を』


 攻め手の大半は闇ギルドに所属する者たちで、そのほとんどは冒険者崩れという。中にはそれなりに腕が立つ者もいるので注意が必要だ。

 そして、誘拐などを得意とする商会の構成員も多く参入しているらしい。

 その情報をエルフたちに共有すると、ソフィーティアはすぐに防衛陣地の構築を急がせた。すでに地上部分の開拓は進んでいるので、その総仕上げを行っているのである。


「お、カイト様、ローラ殿、視察に来てくれたのか」


 第二区画――開拓の指揮所に足を運ぶと、ソフィーティアがすぐに顔を上げて表情を緩めた。傍にいるミレーヌも軽く頭を下げて挨拶してくれる。


「ああ、作業は順調かな」

「無論だ。これまでの開拓で大体の準備は整っている」


 そう言いながらソフィーティアは手で周りを示し、カイトは視線で辺りを見る。

 第二区画はエルフの棲む建物が並び、適度な間隔で木が植えられている。建物の高さは絶妙に異なり、本丸の方が高くなっている。


「木々は櫓として機能するように設計されている上に、建物も中心の方が高くなっている。万が一、敵に建物を抑えられても、中央から打ち崩せるようにな」

「そのようだね。となると、今やっている作業は――?」

「柵の強化と、空堀をもう少し深くしている。フィア殿やゴーレムたちがよく働いているよ」


 そう言いながら、こっちだ、とソフィーティアは手招きし、作業している場所に案内してくれる。

 第三区画の方に向かうと、そこには木の柵がずらりと並んでいる。その柵を強化するようにゴーレムたちがせっせと横木を入れている。その外側ではエルフたちに交じり、フィアが火竜の爪で豪快に土を掘っている。

 その様子にローラも、おお、と目を丸くしている傍で、ソフィーティアが説明してくれる。


「第二区画、本丸を囲む柵はすでに完成しているが、念のため、強化をお願いした。空堀も深さを出し、侵入されるまでは掘り進めておこうと思う」

「ああ、それで大丈夫だと思う。見事な采配だな、ソフィーティア」

「なんの。カイト様と相談したことを進めているだけだとも」

「とはいえ、これだけの普請を進め切るとはな」


 難民の受け入れや住民間トラブルなど、いろいろと問題があったはずだが、彼女はこの地上部分の開拓を押し進め切った。

 もはや第二区画と本丸に限っては、防御拠点化がしっかり進んでいる。

 ちょっとした城下町、あるいは城砦といっても過言ではないだろう。

 本気で感心するカイトに対し、ソフィーティアはすまなそうに眉を寄せる。


「本来ならば、第三区画も防御陣地として機能するようにしたかったが、そこは力が及ばなかった。申し訳ない、カイト様」

「いや、足りなかったのは時間だ。限られた時間でよくここまでやってくれたよ」


 カイトはソフィーティアを労うと、彼女は首を振って微笑んだ。


「貸してくれたこの地を守るためだとも。カイト様、心配しないでくれ。我々、エルフ衆はこのダンジョンをきちんと守り抜いてみせる」


 その言葉は非常に頼もしい――だが、どこか重い覚悟を感じさせる。

 まるで命を懸けるような雰囲気に、カイトは眉を寄せる。


「気持ちはありがたいが――あまり無茶はしてくれるなよ。最悪の場合は、洞窟内に逃げ込めばいい。中の土塁は健在だからな」

「無論、理解はしている。だが、我々が開拓した場所なのだ。ここが我らの森である以上、荒らされることは辛抱ならん」

「……ソフィーティア」


 エルフたちは森――自分の居住する場所に対してのこだわりが強い。ダンジョンに愛着を持ってくれるのはありがたいが、それで犠牲が出たら本末転倒だ。

 カイトが少し困っていると、ソフィーティアは励ますように笑みを見せる。


「カイト様が気にすることではない。これは我々の覚悟の問題だとも。もちろん、カイト様の気持ちも充分分かる。今回は無茶な白兵戦はさせないつもりだ」

「頼むぞ。ソフィーティア。これ以上の犠牲は、誰も望んでいない」


 カイトが念押しすると、ソフィーティアは真剣な表情で頷いた。


「それはもちろん、私自身も同じ気持ちだ。犠牲はできるだけ出さずに、我々の森を守ってみせる」

(――できれば森よりも命を優先して欲しいんだが)


 わずかに行き違いを感じるのがもどかしい。だが、エルフとしてもそこは譲れない一線なのだろう。カイトはわずかに逡巡してから、一つ頷いた。


「……ああ、頼んだよ。ソフィーティア」

「任せてくれ――ああ、フィア殿、もうそこは大丈夫だ。カイト様とローラ殿が来ているから、一緒に屋敷に戻るといい」


 ソフィーティアがフィアに声をかけるのを見ながら、カイトは小さくため息をつくと、傍で控えていたローラは小声で告げる。


「エルフたち、少し気負い過ぎかもね。このままだと、犠牲は出るかも」

「ああ、何か対策を考えるべきか――」


 この状況だときっと彼らはまた無茶をするはずだから。

 彼らの命を守るための工夫が必要になってくる。少し考えていると、泥まみれになったフィアが駆け足でカイトの方に向かってきた。


「カイト様、視察に来られていたんですね」

「ああ、フィア、お疲れ様――相変わらず穴掘りで大活躍だな」

「こういう形でないと、私の力は充分に発揮できませんからね」


 彼女はそう言いながら鱗に覆われた逞しい前腕を見せてくれる。土に汚れた竜の前脚は傷一つなく綺麗なものだ。


「さすが姉さま――私の鱗だと柔らかくて、傷つきやすいから羨ましいかも」

「ローラは翼竜ですからね。とはいえ、そちらも鱗が綺麗で羨ましいですよ」

(鱗、か)


 彼女たちはそれで身を守っているが、エルフたちにはそれがない。

 つまり必要になってくるのは――。


「装備、か」

 カイトが思わず呟けば、フィアとローラはきょとんと首を傾げた。それを見つめ返し、彼は軽く声をかける。


「屋敷に戻ろうか――少し相談に乗って欲しい」

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