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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第20話 初めてのダンジョン外作戦

 静まり返った夜の森を、馬蹄と車輪の音が響き渡っていた。

 迷いの森南西の外周部――比較的、木々が薄い部分を騎馬が駆け抜けていく。それに守られるように進むのは、檻型の馬車だ。

 鉄製の重厚感ある鉄格子に覆われた檻車には、所狭しとエルフの女子供が身を寄せ合っていた。全員が暗い顔をし、やつれている。もはや、泣く気力すら彼女たちにはない。

 希望もなければ、絶望もない――何も、期待していない顔だ。

 その姿を茂みに潜む一人のエルフが心を痛めながら見ていた。今すぐにでも助けに行きたい気持ちを抑え込み、彼は主に対して指示を飛ばす。


『カイト様、輸送部隊が通過した』

『了解した。作戦の第一段階を開始する』


 主の淡々とした声にエルフ――ソフィーティアは焦る心をじっと押し殺し、視線を先に向ける。そこでは進んでいた車列がわずかに乱れる様子が見える。

 第一段階――エルフたちの襲撃が始まったのだろう。

 敵に気取られないように彼女は移動しながら聞き耳を立てる。


「くそっ、体勢を立て直せ――!」

「おい、あそこを見ろ、エルフだ!」


 エルフたちが上手く奇襲を仕掛けたらしい。だが、混乱は少なく、それどころか場所も割れてしまったようだ。エルフたちは算を乱し、森の中へ駆け去っていく。

 それを見て男たちは色めき立ち、鋭く声を張り上げる。


「おい、連中を捕まえるぞ……! お前たちは檻を守れ!」


 その言葉と共に、リーダー格の男が先頭を切って森に駆け始める。

 敵は二手に分かれた――カイトの予測通りに。


『カイト様、多数はエルフを追いかけている。もう一方は少数で檻の守りだ』

『よし。陽動は成功。作戦を第二段階へ。ソフィーティア、進路封鎖を開始』

『了解した』


 ソフィーティアはその言葉に速やかに動いた。木々の中をすり抜け、目印になる一本の大樹に近づく。一見すると普通の大木――だが、よく見れば幹には予め切れ込みが入れられ、少し傾いているのが分かる。

 その大木を固定している縄を素早くナイフで切る。直後、めきめきと音を立てて大木は倒れ、地響きを轟かせる。同じ音が道の先でももう一回。

 視線を道に向ければ、大木がしっかりと道を封鎖していた。


『進路封鎖完了』


 これでもう檻車は逃げられない。残された男たちは異変に気付き、慌てふためいているようだが、すでに時は遅い。

 森の方では遠吠えに交じり、悲鳴と断末魔が響き渡り始めた。

 あまりにもあっさりした展開。想定したパターンの一つを的確に辿っている。

 そのことにソフィーティアは空恐ろしさを感じつつ思う。


(こうも想定通りに行くとは――カイト様やシズク殿の考えは計り知れないな)


 釣り野伏、とカイトは語っていたが。

 囮を使って敵を引きつけ、罠に嵌める手口らしい。今頃、エルフに釣られて誘き出された男たちはシズクやシャドウウルフ、エルフたちによって殲滅されているはずだ。

 そして、残るは少数の檻を守る男たちだけ――。


『ソフィーティア、最終段階だ。残りを、殲滅しろ』

『了解』


 その声にソフィーティアは頷き、振り返って合図する。それに従い、木々の間から姿を現したのはエルフたち。そのぎらついた目つきを見ながら、彼女は頷いてみせた。


「徹底的に叩く。矢をありったけ浴びせた上で、殲滅だ」


 その合図にエルフたちは無言で頷き、殺気を滾らせながら動く。

 散々、煮え湯を吞まされてきた相手だけに、彼らの殺気は尋常ではない。

 静かに、だが的確にエルフたちは動き、人間たちを包囲。

 間もなく、そこから断末魔の悲鳴が再び響き渡った。


   ◇


『殲滅完了だ。カイト様。檻も確保した』

『こちらの任務完了です。我が主。計画通り、三名ほどは逃がしています』

『――よし、総員ご苦労だった』


 作戦が全て終わったのを確かめると、森の中に潜んでいたカイトは吐息をこぼした。

 そこは襲撃現場から少し離れた場所だ。前線からは遠いが、ダンジョンの外――普通ならば、ダンジョンの命脈を担うマスターがいていい場所ではない。

 だが、指揮を執るためには、少しでも近い距離にいる必要があった。

 そのため、ローラが傍には片時も離れずにいる。二人で狭い木の洞に身を隠しながら、ローラは神経を研ぎ澄ませて警戒を怠らない。

 まぁ、一方でちゃっかりと腕に抱きつき、いちゃいちゃと甘えてきているのだが。


(作戦も上手く行ったし、こういうのも悪くないか)


 それに夜気は身体に染みるので、この温もりは嬉しい。

 カイトは苦笑を一つこぼしながら、ローラの頬を撫でて顎をくすぐる。それだけで彼女は少し照れ臭そうにしながらも、心地よさそうに目を細めていた。

 彼はその反応と感触を楽しみつつ、念話を返す。


『檻を開錠し、速やかにエルフの子たちを保護してあげてくれ。そうしたら、みんなで撤退だ。家に帰ろう』

『もう取り掛かっているさ。カイト様は危ないから、もうダンジョンに戻ってくれ』

『なら、そうさせてもらうか』


 カイトは頷き、ローラに視線を向けて声をかける。


「ローラ、終わったよ。帰ろうか」

「え、もう? 随分と早いような」


 目をぱちくりさせるローラは少し名残惜しそうな表情を見せる。カイトは頭を軽く撫でながら小さく笑ってみせる。


「まぁ、奇襲が上手く嵌まれば呆気なく片付くよ」


 今回の作戦ではシズクが輸送経路と日時、人員などを詳しく割り出していた。だからこそ徹底して罠を張り巡らせ、対策を練っていた。

 その一方で特に相手方は襲われることすら予想していなかったのだろう。

 であれば、一方的な展開になることも無理はない。


「……なんだか拍子抜けだね。ダンジョン外に攻めるときは正直、怖かったけど」

「その気持ちも分かるよ。ローラ。正直なところ、こういう作戦は控えたいところだ」


 苦笑しながらカイトは立ち上がった。ローラもぴょこんと立ち上がりながら、軽く首を傾げる。


「そうなの? 兄さまが言い出した作戦だから、乗り気なのかと思っていたけど」

「得られるものが多いから、今回は強気に決断しただけだよ」


 今回の目的はミストール商会に叩くことがメインだが、捕らわれたエルフたちを助け出すことも魅力だった。今のダンジョンの人口の多くがエルフ――彼らの信頼を勝ち得ておくに越したことはない。


(こうすれば、ソフィーティアもエルフたちを束ねやすくなるだろうし)


 今後、人口がさらに増えればまた住民間の不和が生まれかねない。その前に、できるだけ芽を摘んでおくのも重要だ。


「エルフたちの忠誠心を高められたし、実戦経験も積めた。危険は多かったが、それだけに見合う価値はあったんじゃないかな」

「……なるほどね、危険に対してリターンが釣り合っていれば、危ない橋も渡る、と」


 ローラは的確に理解を示し、少しだけ困ったような表情をカイトに向けた。


「分かったけど、兄さまがリスクを負うような展開は断固反対だからね。姉さまもそれはきっと同じだと思うし」

「ありがとう。ローラ。心に留めておく」

「そうしてね。じゃあ――」


 ローラは背伸びと共に翼を生やした。カイトはそれに掴まろうと手を伸ばすと、とう、と彼女は正面から飛びついてくる。

 少し驚きながら、カイトはその身体を受け止める。


(――っと、この体勢は……)


 ローラがカイトの頭を抱きかかえるようにし、足は彼の脇の下を通してがっちり胴体をホールドしている。その結果、彼の顔はローラのお腹に埋める形になってしまった。

 その柔らかい感触に息を詰めていると、ローラが茶目っ気たっぷりに告げる。


「今日は無茶に付き合ってあげたから、私の無茶にも付き合ってもらおうかな?」

「――おいおい、まさか」


 思わず表情を引きつらせた瞬間、ばさっ、と翼がはためく音が響き渡った。それと同時にふわりと身体が浮く感触――。

 慌ててローラの腰に手を回し、しがみつくとそのまま足が地面から離れた。


「んふふっ、兄さまが抱きついてくれている……っ、役得……っ」

「……ローラぁ……」

「ふふ、くすぐったいよ、兄さま」


 抗議の声も彼女のお腹に顔を押し付けているだけに、くぐもってしまう。

 ローラの香りに包まれ、頭には彼女の柔らかい胸の感触――だけど、身体は今にも落ちそうにふらふらしていて、かなり怖い。


(素直に楽しめないな、これは……)


 ただ、飛行するローラは楽しそうに鼻歌を響かせているので、カイトは苦笑しながら我慢することにする。

 今回の飛行は、恐ろしく時間がかかったように感じられた。

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