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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第一章

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第6話 一週間で培ったもの

フィア視点

 カイトが召喚されてから一週間が経った。

 彼が現れてから、フィアの日常は劇的に変化した。

 彼は元の世界から持ち込んだ道具――コンパスやノート、ペンなどを使い、ダンジョン内を地図で書き起こすと、すぐに二つの目標を定めた。

 一つは魔力の獲得。もう一つはダンジョンの要塞化。

 後者はカイトとフィアしかいない現状では、人手が足りずに難しい。他の魔獣を召喚するためにも、前者の魔力の獲得が急務だとカイトは判断していた。

 そのために彼が執った手段は、合理的だった。


 それすなわち――狩り、である。


   ◇


 がさ、がさと茂みが動く気配に、フィアは慎重に歩みを進める。

 手にした木の棒――先端に先端が尖った石が取りつけられた槍を握りしめ、茂みの向こうを窺う。見ると、そこには一匹の獣がもがいていた。狼に似た魔獣だ。

 その後ろ脚には紐が巻き付き、逃げ出せなくなっている。


(――よし)


 フィアは一つ頷いて後ろから回り込む。近づいてきた気配に獣が暴れ始めるが、紐はがっちりと脚を固定しており、前脚を振り回すしかできない。

 それに疲弊して動きが止まった瞬間を狙い、フィアは魔獣の首筋に槍を突き立てた。

 急所を貫き、びくんと跳ねた身体――だが、すぐにぐったりと力が失われる。

 絶命したのを確認してから、フィアは後ろ脚を縛っていた罠を解き、よいしょ、と獣の死骸を担ぐ。かなりの重量だが、火竜であるフィアからすれば運ぶのは容易い。

 そのまま、フィアは鬱蒼と茂る密林を慣れた足取りで横断する。


 洞窟の入り口に戻っていくと、そこではカイトが地面に座り込み、黙々と蔦で縄を編んでいる姿が目に入った。その周りには木で作られた籠や、土を焼き固めた器などがある。全てそれらはこの一週間、カイトが作り上げたものだ。

 その後ろには土を掘って作られた簡単な竈――彼曰く、ダコタファイアーホールという竈もあり、生活するための設備が最低限整えられている。


(一週間で、よくぞここまで――)


 フィアも自慢の腕力で手伝ったものの、未だに信じられない光景だ。そこに彼女は近づいていくと、カイトが顔を上げて目を丸く下。


「――すごいな。フィア。大物だ」

「カイト様の罠の仕掛け方が上手かったからですよ」


 フィアは小さく笑いながら彼の前に魔獣の遺骸を降ろす。

 カイトは一つ頷くと、それに掌を向けた。魔獣の死骸が縮んでいき、骨が軋む音と白煙を立てながら土に包まれていく――魔力の吸収だ。


(魔力は日々の営みからも吸収できますが、供物の方が一度に獲得できる量は多い)


 また、その割合は森が生み出す果実や作物よりも、動物の方が圧倒的に魔力量を多く獲得できる。そう判断したカイトは手早く森の中から蔦や木の皮を採集すると、手慣れた手つきで縄を編み始め、それで簡単な罠を作り上げたのだ。

 そして、彼はダンジョン外の森の中を歩くと、点々とそれらを設置する。ただランダムに置いているかと思えば、そういうわけではないらしい。

 事実、彼の仕掛けた罠には毎日、何らかの獲物が掛かっているのだ。

 それらをフィアが回収し、カイトがそれを魔力に変換する。そのルーティンで効率よく魔力を増やしつつあった。


(最悪、私が直接狩ることも考えていましたが、罠の方が効率いいですね)


 主の采配に感心しながら、フィアはカイトに視線を向ける。魔力の吸収を終えた彼は一息ついているが、あまり顔色は芳しくない。

 その理由はすぐに分かった――死体を間近で見たからだろう。


「――カイト様、ご気分はいかがですか?」

「……うん、正直まだ慣れないかな。ただ、少しは適応しないと」


 カイトは小さく笑みを見せるが、それは強張っている。


(……無理もないですね。彼の世界では、殺生があまりなかったようですし)


 この数日、フィアはカイトと積極的に言葉を交わし合い、彼のいた世界について聞いていた。その世界は魔術もなく、魔獣もいない平和な世界であり、彼はその世界で歴史研究をしていたらしい。

 そのため、いろんなことに詳しいが、あまり血を見るのが得意ではないという。


(昨日も悪夢で飛び起きていたみたいだし……)


 この前で初めて死体を見た、と白状したカイト。

 それには繊細過ぎるものだと少しだけ内心では呆れたものの、それ以外では頼もしく迷いのない采配を見せてくれる。


(なら、血生臭いことは私が支えればいいこと――)


 そう思うと、俄然やる気が出てくる。フィアは腰にぶら下げていた竹筒を取り出し、彼に差し出した。


「お水をどうぞ。カイト様」

「ああ、助かる」


 彼は小さく笑って竹筒を受け取り、栓を抜いて中の水を口に運ぶ。

 罠だけでなく、竹筒の水筒も彼のお手製だ。持ち込んだナイフで小器用に加工しているのだ。彼は水で一息ついてから、穏やかな笑顔を見せてくれる。


「ありがとう。少し落ち着いたよ」

「良かったです。罠は全部見てきましたが、他に何かやることはありますか?」

「ん――燃料の泥炭はまだあったよね」

「はい、確か」

「じゃあ、川の方の罠を見てくれるか?」

「了解しました」


 罠は森にだけでなく、川にも仕掛けてある。

 これもカイトのお手製であり、竹の枝を縛って加工した筒状の罠だ。それで獲った魚は魔力の吸収ではなく、カイトとフィアの食料として用いられる。


(ごはん――今日はどんな料理を作って下さるのでしょうか……)


 彼は簡易な環境ながらに、持ち前の知識を活かし、様々な料理を作ってくれるのだ。

 先日食べた川魚の香草焼きも、見たこともない料理だった。川魚の内臓を取り、代わりにツルや刻んだ芋を入れられていたのだ。美味しいのか、疑問だったが――口に入れて、びっくりした。

 川魚の、独特の臭みがなくなり、その代わり、さっぱりとした味わいが広がる。

 その上で、中の野菜は、川魚の油を吸い込み、旨味が増していたのだ。


 思わず、三匹もおかわりしてしまったけど――カイトは、嬉しそうに目を細めて、もっと食べるか? と言ってくれて。

 それを思い出すだけでお腹が空きそうになる。そのフィアの様子を見て取ったのか、カイトは小さく笑って悪戯っぽく続ける。


「その後に、美味しいものをたくさん作ってあげるよ。頑張ってくれ。フィア」

「――はいっ」


 フィアは力強く頷くと、近くに置いてある蔦の籠を手に取って向かう。

 その足取りは自然と軽くなる――何しろ、彼の料理は美味しいことが確約されているのだから。


(すごい人ですね、カイト様は)


 知識だけでなく、料理も上手。それにフィアを気遣ってくれることが充分伝わってくるのだ。まさに主として相応しい人物だと感じられる。

 その僥倖を噛みしめながら、フィアは彼の期待に応えるべく動く。


 この一週間で、フィアはすでにカイトに信頼を寄せつつあった。

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