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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第19話 輸送部隊襲撃計画

「奴隷商人の輸送部隊を、襲撃する」


 数日後、カイトは屋敷内の食堂に主だった面々を集め、会議を開いていた。

 フィア、ローラはもちろん、ソフィーティアに族長のキリシェ、キキーモラのキキ――そして、戻ったばかりのシズク。

 面々を見渡し、カイトはゆっくりと言葉を続けた。


「昨今、侵入してきている者たちはミストール商会という奴隷商人に雇われていることが判明した。その商会の輸送を襲撃し、妨害しようと考えている」


 その言葉に予め相談した面々以外は驚きの表情を見せていた。一方でフィアやローラは難しい顔、シズクはぴくりとも表情を動かさない。

 カイトはフィアに視線を向けると、彼女は困惑を滲ませながら告げる。


「カイト様から相談されていましたが――改めて申し上げれば、反対です。襲撃する場所はこのダンジョン外であるため、我々は充分なパフォーマンスを発揮できません」

「うん……兄さまの考えは承知しているけど、それでも私たちは反対を唱えるかな」


 火竜姉妹のフィアとローラは異を唱える一方で、ソフィーティアは視線を伏せさせて無言。族長は少し考えるように机を指先で叩いている。

 その二人の様子にフィアは気づき、眉を吊り上げた。


「――お二人とも、即座に反対しないところを見ると、何か考えが?」

「う、む……いや、確かに危険なのは私も考えた。だが、な……」


 言葉尻を濁すソフィーティアに対し、族長は視線を上げるとカイトに切り出す。


「もしや、その奴隷商人の輸送――奴隷を運んでいるのでは?」

「ああ」

「そして、その奴隷たちは」

「無論、エルフたちだ」


 その言葉にローラは、あー、と納得の声をこぼした。ソフィーティアはその声に苦笑を返してから視線をフィアに向ける。


「フィア殿、そういうことだ。我が同胞を助ける機会であるならば、ある程度危険を承知してでも、賛成したいところなのだ」

「――なるほど。気持ちは察しますが……」


 フィアは少し複雑そうな表情を浮かべる。その一方でシズクが手を挙げ、静かに告げる。


「我が主、発言しても」

「構わないよ。シズク」

「はっ――今回、情報を集めた結果、輸送経路は割り出せています。それであれば、予め罠を張り、策を巡らせることも可能です。何より彼らは狙われるとは思っていないでしょう。付け入る隙は十二分にあります」

「――そうは言いますが、シズク……ダンジョンを手薄にしても、やる価値はあるとは思えません。我々の役目はダンジョンを守ることです」

「これも回り回ってダンジョンのためになる、と我が主は考えているのです。であれば、我々はその確度を上げるべく、支援する――それが仕える者の役目では?」

「……っ、確かにそうでしょう。ですが、主を戒めるのもまた従者の役目です」


 フィアとシズクが机を挟んで視線で火花を散らす。まぁまぁ、とローラは慌てて仲介に乗り出しながら救いを求めるようにカイトを見てくる。

 カイトは一つ苦笑すると、手を挙げてその言い争いを制する。


「二人とも、僕のことを想ってくれていることは感謝する――ただ、今回はフィア、折れてもらえるか。一応、考えがあってのことなのだ」

「――かしこまりました。カイト様」


 不服そうではあったが引き下がるフィア。それに代わり、ローラが首を傾げながら不思議そうに訊ねる。


「でも兄さま、それなら考えって?」

「ああ、今回の襲撃だけど我々、ダンジョンの仕業であることを分からせる手段を執ろうと考えている。正体を隠さず、といったところだな」


 具体的には、エルフの姿を見せつけるつもりだ。そうすれば、襲われた奴隷商人たちはこのダンジョンから来たと考えるだろう。


「奴隷商人としては、ダンジョンに送り込んだ刺客はエルフを攫うことができず、それどころか、必死にかき集めたエルフたちを横取りされるわけだ。そうなるとどうなる?」

「えっと、まぁ、普通は腹立てて反撃するよね」

「ただ、反撃しようにも送り込んでいる刺客は全滅している。となれば」


 カイトの言葉にいち早く理解を示したのは、ソフィーティアだった。彼女は目を細めると腕組みしながら呟いた。


「総力をかけて潰しに来る――それを迎え撃つのが狙いか」

「そういうことだ。相手の総力を受け止め、捻り潰せばいい。このダンジョンを生かして」


 我が意得たり、とばかりにカイトは一つ頷くと、全員を見渡して続ける。


「これはフィアの言う通り、やる必要がないことだ。危険も伴う。だが、直にまたリースリングの領邦軍が攻め寄せてくる。今度は子爵家嫡男直々に、総力を以て」


 今は北の平定に力を注いでいる。だが、それが終われば豊富な兵力を以て、このダンジョンを叩き潰すのは自明の理だ。

 ならば、その時間に準備を整える。そのためならば賭けも已む無しだろう。


「このダンジョンを計画通り、最終段階まで進化させるには、まだまだ大量の魔力が必要になる。それを補うには、ミストール商会を挑発し、敵を引き込むしかない。そして」


 カイトは言葉を切り、拳を握りしめてはっきりと告げる。


「その侵入者の血と肉を以て、魔力を補充する」


(無論、連中がこれ以上、手出しができないほど叩くことも目的だが)


 魔力を確保すること――これもまた、カイトが求める目標の一つだった。

 今までですでにミストール商会の侵入者を百人近くは葬った。だが、それでも足りない。あと三百人以上分の魔力は、必要としているのだ。

 その言葉にフィアとローラは気圧されたように押し黙り、やがて視線を交わし合った。


「……確かに、それはそうですね。あの計画には大量の魔力が必要です」

「それに、商会程度の兵力で苦戦しているようなら、貴族に叶うはずないよね」


 二人はすでに計画を知っている。それだけにカイトの言葉を理解してくれたようだ。それでもまだ迷いがあるようだったが、彼女たちは頷き合うと視線をカイトに戻す。


「分かりました。カイト様。そうであるならば、もはや反対はしません」

「その代わり、完膚なきまでに叩かないとね。計画に粗がないようにしないと」

「ああ、ありがとう。二人とも」


 最高戦力の火竜姉妹の同意を得られたことに安堵しつつ、カイトは視線をシズクに向けた。彼女が一つ頷いたのを見て、カイトは視線を全員に戻す。


「今回の作戦はシズクに立ててもらった。彼女は密偵としての本分を果たし、大いに情報を集めてくれている。無論、僕も意見出ししたが、みんなの意見も聞きたい――シズク、説明を頼む」


 カイトの言葉にシズクは咳払いをして立ち上がった。悠々とした動作で面々を見渡し、はきはきとした言葉で告げる。


「では、ここからは私が計画を説明します――」


 それからしばらくシズクは地図を広げ、事細かに計画について語った。

 それにはソフィーティアはもちろん、フィアやローラも真剣に耳を傾け、気になることがあれば逐一指摘する。それに対してシズクは淀みなく受け答えした。

 彼女たちの意見も一部容れ、シズクは計画をブラッシュアップしていき。

 やがて意見が出尽くしたところを見計らい、カイトは口を開いた。


「――計画の実行は今日から五日後。それまでに準備を進めることになる。主力はソフィーティアを主軸にしたエルフ隊だ。手抜かりはないように」

「ああ、人員の調整から作戦の徹底、訓練までしっかりやってみせよう」


 ソフィーティアは頼もしく頷いてくれる。カイトは頷き返すと、フィアとローラに視線を向けた。


「二人も、それぞれの役目を全うして欲しい。期待している」

「無論、カイト様のためならば」

「シズクにだけ美味しいところをあげないんだからっ」


 フィアとローラも対抗心を燃やしつつ、意気を露にする。それに対してシズクは平然としたもので、落ち着いて地図を畳んでいる。

 その彼女に対して言うこともなく、カイトは軽く頷いてから全員に改めて告げる。


「では各々、準備に移ってくれ――エルフたちの恨みを晴らすためにも」


 そのカイトの言葉に全員が力強い声で応じてくれた。

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