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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第16話 ジェシカとリリカ

ジェシカ視点

 辺境都市、リースリング。

 多くの冒険者によって支えられている街は多くの人が行き交っている。毎日会っていた人が急に姿を消したり、あるいは久々に顔を見せたり、ということは日常茶飯事。


(まさか、私がその一人になるとは思っていなかったけど)


 思わず吐息をこぼしながら、元冒険者のジェシカは自室でお茶を啜る。

 そこはかつてソロ時代に世話になっていた宿だった。街に戻ったジェシカはそこを訪ねて宿を求めると、何も詮索せずに部屋を用意してくれた。


(詮索されないのは、ありがたいわね――)


 仲間を失ったこともそうだが。

 新しい連れ合いについて触れられなかったも、だ。

 ジェシカは何気なく視線を脇のベッドに向ける。そこではウェーブかかった茶髪の美少女が足をぱたぱたしながら、ごろごろしているところだった。

 目が合うと、彼女は嬉しそうに笑い、ベッドを叩く。


「ジェシカ、一緒にお休みする?」

「まだ昼よ。リリス――貴方、今日は働かなくていいの?」

「ジェシカも休みっしょ? だから、一緒にいたいな、と思ってさ」


 にへら、と笑い、純粋な好意を向けてくるリリス。その可憐な笑顔に思わずジェシカはどきりと胸を高鳴らせ――それをごまかすようにそっぽを向いた。


「またおべんちゃら。貴方たち、本当に口が上手いというか……」


 アリスティア、シズク――そして、リリス。

 この三人はダンジョンマスターの頼みで、ジェシカが連れ帰って来た少女だ。本人たちが言うには、エルフたちに育てられた捨て子らしい。

 最初は半信半疑だが、見た目も魔力も人間そのものであり。

 そんな彼女たちをダンジョンで放っておくわけにもいかず、連れ帰ってしまった。

 本来ならば、連れ帰ってある程度、様子を見たら別れるつもりだったが――。


「ジェシカ」


 リリスの声にジェシカは振り返り――瞬間、ちゅ、と間近な距離で水音が響き渡った。思わず驚いて目を見開くと、いつの間にかリリスがジェシカの隣に来ていた。

 彼女は触れ合った唇をそっとなぞり、にへら、とまた嬉しそうに笑う。


「無防備だから、キスしちった」

「……貴方ねぇ」

「怒った?」

「――呆れているだけよ、もう」


 怒りは湧かず、どちらかというと愛おしさすら湧いてくる。リリスを見やりながら、思わずため息をつきながら頬杖をついた。


(随分と絆されてしまったわね。この子に)


 道中、一番なついてきたのがリリスだった。スキンシップも激しく、子犬のように傍に寄ってくる。それは街についてからもそうだった。

 リリスは見た目が可愛く、男たちはすぐに寄って来た。

 だけど、彼女はそれになびかず、いつもジェシカの傍で嬉しそうに笑っている。


『なんでいつも私の一緒にいるのよ。アリスティアやシズクはいいの?』


 この部屋で酒を飲んでいたとき、思わずぼやいてしまうと、リリスは拗ねたように唇を尖らせていた。


『一緒にいたいからに決まっているでしょ、ジェシカのばか』


 そう言いながら真っ直ぐに見つめてくる瞳は揺るがなく、何かを伝えてきているようで――ジェシカは思わず動揺しながら酒を煽って笑う。


『……っ、そんな殺し文句、女相手に言うものじゃないよ』

『ジェシカだから言っているの。分かんない?』


 微かに苛立ったような口調と共に、リリスが距離を詰めてくる。思わず距離を取ろうとしたけど、椅子の背もたれがそうはさせてくれなくて。

 気づけば、リリスと唇が触れ合っていた。

 それからはもうなし崩しである。一緒のベッドにもつれ込み、服を脱ぎ捨てて抱き合った。女同士とかもう関係なく、互いに貪り合って。


 その夜から、ジェシカとリリスは恋人も同然だった。


 告白はしていない。だけど、リリスはジェシカの隣を譲らないし、そんな彼女が傍にいることをジェシカは許してしまっていた。

 そして今日もまた、こうしてリリスと同じ一時を過ごしている――。


「ね、ジェシカ。まだ昼だけど――いいでしょ? たまには」


 そういうリリスは頬を染め、甘えるように告げる。それと共に彼女の腕はジェシカの首に絡みつき、熱を伝えてきている。

 それにぐらりと理性が揺れ、思わずジェシカの手が動きかけ――。


 不意に、扉のノックが響き渡った。


「リリス、いますか?」


 シズクの声。それに我に返ると、ジェシカは振り返って扉に声を掛ける。


「い、いるわよ。シズク。少し待ってくれる?」

「――すみません。ジェシカ殿。ご迷惑をおかけします」

「気にしないで――ほら、リリス」


 ジェシカはいそいそとリリスの身体を押し戻すと、彼女は名残惜しそうに身を離し、不機嫌そうに扉の方を睨んだ。


「全く、タイミングが悪いなー」

「そんなこと言っていないで。ほら」

「わーっているって――んっ」


 リリスはさりげなく距離を詰め、ジェシカにもう一度キスをする。それから悪戯っぽく片目を閉じると、彼女はすたすたと扉の方に歩いて行った。

 その鮮やかな口づけにジェシカは束の間、呆然とし――苦笑する。


(全く、あの子は――)


 その一つのキスだけでなんだか嬉しくて。

 ジェシカはそわそわしてしまい、それをごまかすためにお茶の支度をすることにした。その一方でリリスはシズクと玄関先で話しているようだ。


「はー、なるほど……やー、でも心当たりがないなー」


 しばらく話しているリリスは少し困ったように首を傾げる。ジェシカはお茶の支度を終えて戻ると、彼女は振り返って声を掛けた。


「ねぇ、ジェシカ、聞きたいんだけどさ、不審な商人って知っている?」

「なによ、知るわけないじゃない」

「だよねぇ。シズクが依頼で調べ事をしているんだけどさ。奴隷とかに手を出している商人をあぶり出そうとしているって」


 リリスの言葉にジェシカは眉を寄せ、小さくため息をついた。


(また面倒な仕事を請け負ったわね)


 シズクはジェシカの伝手でギルドに登録し、いろいろな仕事を請け負っている。時折、情報収集もしているようで、相談されることはしばしばある。

 リリスの肩越しにシズクは顔を見せ、申し訳なさそうに眉を寄せた。


「申し訳ありません。ジェシカ殿――ただ、知恵を拝借できれば」

「そうねぇ……ただ、奴隷を扱っている商人は実際、そこまで珍しくはないのよ。表立って取引はしないけど、闇市なんかに行けばね」

「闇市、ですか」

「そ。流通が規制されている品や非合法の物が流れている市場。冒険者をやっていると時折聞いたりするんだけどね」


 ギルドから追放された奴が闇市で働いている。

 闇市で激レアなアイテムを見かけた、などなど――。

 ギルドは闇市を容認していないが、何でもリースリングの領邦軍が黙認しているため、手を出せない状況にある。無論、闇市に関与すればギルド追放は確定だ。


「……そこを調べるべきでしょうか」

「止めておきなさい。シズク。あんた、可愛いんだから、騙されて逆に奴隷堕ちするわよ。知りたいなら、男でも雇って調べさせなさい」


 その言葉に黙り込むシズク。納得していない表情を見て、ジェシカは思わずため息をこぼし、仕方なしに告げる。


「――分かったわよ。それなら手ぇ貸してあげるわ」

「……よろしいのですか?」

「良いも何も、あんた、闇市を調べる気満々じゃない。それにどうせ暇だったのよ」

「えー、あたしと遊ぶ予定はー?」


 リリスが拗ねたように唇を尖らせ、腕を掴んでくる。面倒くさい女のようだが、目は笑っている。だからジェシカも素っ気なく突き放すことにした。


「リリスとはいつでも遊んであげるわよ」

「……聞いたかんね?」


 目をきらんと輝かせるリリス――妙な言質を与えてしまった。

 だけど、悪い気はせず、ジェシカは苦笑を一つこぼしてから視線をシズクに向けた。


「ま、少し待っていなさい。いろいろ調べてきてあげるから」

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