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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第15話 シズクの情報

「昨日の侵入者だが、どうやら人間の商人に雇われたらしい」


 翌朝、屋敷に顔を見せたソフィーティアは挨拶もそこそこに報告を述べた。

 フィアやローラと共に食事をしていたカイトだったが、思わずその手を止めて目を瞬かせる。報告自体は驚くべきものではないが――。


「情報を引き出せたのか?」

「生け捕りにしろ、といった人間たちがいただろう? それから丁重に聞き出させてもらっただけだ。そのための生け捕り、だったんだよな?」


 ソフィーティアの確認にカイトは頷き、続きを促す。彼女は頷き返して言葉を続ける。


「ギルドで進入禁止令は継続しているのは事実らしい。だが、ある商人はそれに構わずに人を雇い、エルフを高額で買い取ると唆しているらしい。なんでも一人当たり金貨二枚。女子供なら十枚で買うとか」

「――レートは分からないが、恐らく大金だな」


 恐らく禁を破る価値があるほどの大金なのだろう。


「ちなみに、このダンジョンにエルフがいる、という情報の源はどこか聞いたか?」

「一応な。その商人から聞いた、という話だった。その商人はリースリングでは新参者だが、羽振りがいいことで定評があった、とも」


 それからソフィーティアは聞き出したことを要約して話してくれる。カイトは食事を続けながらそれに耳を傾け、その情報を頭に入れる。


「――なるほど、大体わかった」


 ひとしきり情報を聞き出したカイトはソフィーティアに軽く頷いてみせた。


「助かった。聞き出す手間も省けたし、充分な情報が集まった」

「それなら良かった。まぁ、フィア殿からの言葉もあったのだがね」

「フィアの?」


 ちら、とカイトは隣で食事を摂っているフィアを見る。彼女はこくりと頷くと、少し眉尻を下げてカイトを見つめ返す。


「カイト様にあまり血生臭いものは見せたくなかったので、できる限り、私どもでやるべきだと申し上げただけです」

「――そうだったのか。すまない、ソフィーティアには手を汚させたか」

「いいや、気にするな。エルフ衆も嬉々としてやっていたからな」


 ソフィーティアは仕方なさそうに苦笑し、それからカイトを真っ直ぐに見る。


「感謝している。カイト様――エルフたちの不満を解消する機会を与えてくれて」

「むしろ、これくらいしかできなくてすまない」

「いいや、これ以上は望み過ぎだ。カイト様には感謝してもしきれない。他のエルフ衆たちも改めてカイト様に感謝していたくらいだ」

「――そうか」


 それならあの私刑を黙認した価値はあったのだろう。カイトは一瞬目を閉じて黙とうを捧げてから、視線をソフィーティアに戻した。


「死体はまとめて置いてくれ。コアに吸収させる――それと、エルフ衆にはしばらく警戒を怠らないように伝えるように。恐らく、次がある」


 何せ、今回はあくまで下っ端に過ぎない。指図しているのはその商人。恐らくまた莫大な金を投じ、雇った人間を送り込んでくるはずだ。


「ああ、分かった。備えは十分にしておこう」

「よろしく頼む。こちらでも手は打つようにする」


 再び感謝を示すようにソフィーティアは深々と一礼し、食堂を後にする。カイトはそれを見てから食事を再開すると、隣のローラは少し首を傾げた。


「兄さま、手を打つ、ってどうするつもり? また陣地でも構築するの?」

「いや、正規軍ならまだしも、来るのはせいぜい冒険者たち――それくらいなら、エルフで対応できる。場合によってはフィアやローラにもお願いするけど」


 ただ、と言葉を重ねながら、カイトは少しだけ目を細める。


「問題はしつこく攻めてくることだな。それが撃退できるレベルならいいが」

「――戦力が、向上すると?」

「ああ、場合によっては本格的な戦闘向きの冒険者を同行してくる場合もあるだろうし、他にも何かしらの手は打つ可能性はある。そうなれば多少なり犠牲が出る場合もあるな」


 構造物が壊される程度ならば、対応できる。だが、人的損耗は避けたいところだ。それに万が一討ち漏らしが出れば、情報を漏洩させてしまうことになる。

 そうなる前に手を打つか、あるいは手を打つ準備をする必要がある。


「――攻められる前に、攻めるべきだな」


 そう呟くと、フィアとローラは揃って目を見開いた。


「それってつまり――商人を叩く、ってこと?」

「……危険な考えです。それはつまり、ダンジョンの外での戦闘も想定されると思います。我々の実力は充分に発揮されません」

「だが、きっと相手も想定していない。そこが付け入る隙になると思う」


 カイトはそう言いながら、心配そうに見つめるフィアに手を伸ばし、その頭に手を載せた。


「――もちろん、フィアの心配も理解している。だから、攻める際は確実に相手の隙が見えたときを狙おうと思う」

「隙、ですか。あるのでしょうか」

「それを探ってもらう必要があるな。丁度、戻って来たみたいだし」


 カイトは視線を外の方に向ける――マスターとしての感覚が、仲間の気配を捉えていた。しばらくして扉がノックされ、キキーモラが小さく扉を開けて入って来た。

 身振り手振りで、来客を知らせてくれる。カイトは軽く頷いて告げる。


「入ってもらって」


 キキーモラが頭を下げて立ち去り、しばらくして一人の少女を連れてくる。入って来た彼女はいつものように恭しくその場で跪いた。


「ただいま戻りました。我が主」

「ああ、お疲れ――報告を聞こうか。シズク」


 その言葉に顔を上げたシズクは一つ頷き、瞳に強い光を宿して告げる。


「多少、子爵家について調べが進みました。どうやら一枚岩ではないようです」


   ◇


「まず、近くの街――リースリングを治める子爵家についてお話します」


 屋敷の執務室。

 そこでカイトはフィアやローラと共に、シズクの報告に耳を傾けていた。彼女はどこかで手に入れたのか、地図を机の上に広げてみせる。


「地図を手に入れられたのか」

「領邦軍に潜入し、手に入れることができました」

「これだけでも大分なお手柄だぞ。シズク」


 カイトは思わず目を見開きながら地図を眺める。それはリースリングを中心にした地図であり、迷いの森が北から東にかけて広がっているのが分かる。

 さらに北には大きな山脈が広がっており、リースリング自体が辺境の都市であることが伝わってくる。彼女はその資源地帯を指でなぞりながら告げる。


「バーンズ子爵家自体、騎士として武勇を上げた一族として有名です。その武勇から辺境を任せられ、彼らはその辺境の資源を糧に領地を営んでいます。現在、バーンズ子爵家は領内に十の街を有しており、リースリングはそのうちの一つ。現在は冒険者だけでなく、領邦軍も調練と称して森に定期的に入り、素材を回収しているようです」

「……なるほどな」


 道理で領邦軍の中に工兵が入り交じっていたのである。納得しつつ先を促すと、彼女は淀みない口調で説明を続ける。


「そのため、リースリング自体、領邦軍は千前後の兵を有しており、街の有する戦力としては比較的高い方でした――今までは」

「――僕たちがその内の三百を撃滅したからか?」

「それも一因です。が、どうやら北に派遣された軍勢も被害を受けたということらしいです。噂によれば、吸血鬼が出た、ということらしく」

「へぇ、北にも」


 つまり、期せずしてリースリングの領邦軍は二正面で被害を受けた形になる。そうなれば立て直しが必要にもなりそうだ。

 シズクは一息つくと、リースリングの位置を指で示して続ける。


「この失態により、リースリングを治めていた代官は左遷。その代わりに赴任したのが子爵家の嫡男、ダニエルです」

「子爵家自らの立て直し、か」


 領邦軍半数近くを失ったのだ。無理もない話だろう。


「これはアリスティアからの情報ですが、どうやらギルドにこの森の進入禁止令を出したのも、北の山岳や森を対象に依頼を出しているのもダニエルの指示が関与しているようです。その目的は恐らく――」

「各個撃破、か」

「はい、まずは北の吸血鬼狩りを狙っているのでしょう」


 カイトとシズクは視線を交わし合い、頷き合う。一連の流れが掴めつつあった。

 カイトたちが領邦軍を撃滅してしばらく冒険者しか来なかったのは、代官の左遷とダニエルの赴任による混乱のため。その後はダニエルが進入禁止令を出したことで、森は束の間の平穏を享受している、ということだ。

 そして、北からの魔物が流れ込んできているのは、吸血鬼狩りの影響だろう。


(たかだか吸血鬼を狩る程度で、こんなに魔物が逃げるのは少し違和感があるが)


 大体の流れは掴めてきた。カイトは思考を整理してから、シズクに頷いてみせる。


「良くやった――短い期間でよくこれだけ調べ上げた。アリスティア、リリスも含め、シズクを仲間に加えて良かったと実感している」

「……っ、ありがたきお言葉……っ!」


 ずっと無表情だった彼女はその言葉に頭を伏せさせ、肩を震わせる。その彼女を見つめながら、カイトは目を細めながら訊ねる。


「その実力を見込み、頼みたいことがある――今、このダンジョンのエルフたちが狙われている。襲ってきたのは、リースリングにいる商人だ」

「その商人を調べ上げる、ということですね」

「ああ。ダニエルは北を抑えたら恐らく、このダンジョンにも手を出してくるだろう。その前にケリをつけてしまいたい」

「仰せのままに。我が主。誓って我が主の敵の情報を掴んでみせます」


 そう告げた彼女の瞳は熱を帯び、表情は決意に満ちている。相変わらずの強い忠誠心――だが、それ故の危うさを感じさせる。

 カイトは少し逡巡してから、付け足すように告げる。


「情報収集はアリスティア、リリスとよく連携してくれ。多角的な情報が欲しい。それと必ず生きて情報を届けること」

「承知しました。ありがたきお言葉、しかと心に刻ませていただきました」


 シズクは今一度深々と一礼すると、その場を後にしようとする。その背にフィアは軽く声を掛ける。


「シズク、ソフィーティアのところに捕えた人間がいます。そちらからも情報を持って行ってください」

「――ご助言感謝します。フィア殿。主のことをよろしく頼みます」

「言われるまでもありません」


 振り返ったシズクとフィアは束の間視線をぶつけ合わせ、それからすぐにシズクは踵を返して歩いていく。フィアは小さく吐息をこぼし、腰に手を当てた。


「忠誠心が高いのは良いことですが、少し心配になりますね」

「フィアもそう思ったか?」

「はい――なんだか少し前の自分を見ているようで」


 フィアはくすぐったそうに笑うと、カイトの顔を見上げて小さく吐息をこぼした。その瞳は微かに潤み、甘えるような色を帯びている。


「でも、カイト様にいろいろと教えていただきましたから。甘えることも、頼ることも」

「わ、私も……っ」


 ローラもぴょこんと手を挙げて声を上げる。その二人に笑いかけながら、カイトは一つ頷きつつ、視線を去っていったシズクの方に向ける。


「まぁ、シズクも大丈夫だ。彼女は一人じゃない」


 アリスティア、リリスがいる。もしかしたら、ジェシカも。

 彼女たちを頼ればきっと問題ない。


(頼んだぞ。三人とも――情報をしっかり掴んできてくれ)

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