第13話 ソフィーティアの愚痴
「すまない、カイト様。手間をかけさせた」
その夜、屋敷にはソフィーティアが足を運び、カイトに謝罪していた。ローラは仕方なさそうに笑いながら彼女に茶を出し、カイトはそれを勧めながら手を振る。
「気にするな。あそこは引き締めるべき場面だと思ったし」
「だが、カイト様に悪役を演じさせてしまったな」
「そこは役割分担だ。何よりこれから大変なのはソフィーティアの方だろうからな」
今回、カイトがソフィーティアの顔を免じてエルフたちを赦したことにより、彼女の立ち位置は確固たるものになった。責任者としての、立場が。
これまで以上に彼女の行動には責任がつきまとうことになるだろう。
それを自覚しているのか、ソフィーティアは仕方なさそうに苦笑して頷いた。
「それは覚悟していることだ。こうなると、このダンジョン内の法も早々に定めなければならないだろうな」
「それは手伝うよ。多少なり、知識はある。」
鎌倉時代の御成敗式目を参考にすれば、それなりに形にはなるだろう。カイトはそう考えながら告げれば、ソフィーティアは安堵の吐息をこぼした。
「助かる――そういえば、シエラは大丈夫か?」
「シエラはフィアルマ姉さまがついているよ。洞窟の方にいるけど」
「ドウェルグはどうも、地中の方が居心地が良いみたいだからな」
「そうか。それなら良かった。絞り上げたところ、大分、あのエルフたちはシエラを目の敵にしていたようでな。いずれ謝らなければなるまい」
「まぁ、いずれな」
今はエルフと接触させず、落ち着かせる方が先決だ。その点、洞窟内はソフィーティアを除けば、エルフは誰も足を踏み入れない。
エルフと軋轢がある子たちを迎え入れるには、うってつけだった。
(洞窟内の開拓にも人員が欲しかったし、丁度いいかもな)
そろそろ魔力も溜まってきている。洞窟内の構造を変えることも検討すべきだろう。
「ソフィーティアは、エルフの取りまとめと開拓に専念してくれればいい。ここは適材適所――やれるところをやればいい」
「……そう、だな。すまない。カイト様」
ソフィーティアはそう言いながら眉尻を下げる。その端正な顔つきには少し疲れが滲んでいた。彼女は湯飲みを手で包み込みながら、小さくぽつりと告げる。
「どうにも、抱え込み過ぎているようだ。私は」
「みたいだな。まぁ、僕が無茶振りしているせいでもあるが」
「はは、それを言うなら押しかけたエルフたちのせいだ。カイト様には感謝している。受け入れてくださっただけではなく、いろいろと便宜を図っていることも含めて」
ただ、とソフィーティアは表情に憂いを滲ませながら吐息をこぼす。
「ここに辿り着いたエルフたちの心境は複雑だ。自分の森を追われ、おめおめ落ち延びているのだから。家族も、森も守れず、自分だけ生き延びて安寧を得ている――その苦衷は察しても察しきれん」
「……ああ、そうだろうな」
そしてきっと今、その憎き人間たちは我が物顔で彼らの森を闊歩しているのだ。それを想像してしまえば、夜も眠れない。荒むのも無理はない。
「その苦衷の矛先をシエラに向けるのは、明らかに間違っているが――それでも彼らの気持ちを汲まずにはいられない……すまない、愚痴になっているな」
「今日は謝り過ぎだぞ。ソフィーティア。同じ仲間なんだ、愚痴くらい聞く」
「……なら、ありがとう、だな。カイト様」
ソフィーティアは小さく笑い、ひっそりとため息をこぼす。その表情は曇ったままであり、いつもの聡明さは感じられない。
カイトはローラに目配せすると、彼女は一つ頷いてソフィーティアの傍に寄った。
「ソフィーティア、お茶のお代わり、いる?」
「……いただこうかな。一人でいると塞ぎこんでしまうし」
「ふふ、了解。じゃあお茶を煎れてから、いろいろお話しようか。あまりソフィーティアとこうしてお話すること、あまりなかったし」
「ああ、お茶なら僕が煎れてくるよ。たまには働かせてくれ」
「兄さまは働き過ぎだと思うけどなー?」
「ああ、全くだ。だが、今日はお言葉に甘えるとしようかな」
二人は仲良く笑い合いながら、食堂で話に花を咲かせ始める。それに目を細めると、カイトは食堂から厨に移動する。
ローラが湯を沸かす際に火を入れていたのか、窯にはまだ炭が燃えている。それを使って湯を沸かしながら一息つき――。
不意に、胸がどくんと脈打った。
「――っ」
久方ぶりの、嫌な予感。カイトはその場で神経を研ぎ澄ませ、コアと感覚を同調させる。ダンジョンの中に意識を巡らせれば、何かが静かに近づいてくる気配がある。
カイトは無言で薬缶を窯から降ろし、フィアに念話を飛ばしながら食堂に戻る。談笑していた二人はすぐにカイトに気づき、振り返った。
「兄さま、どうか――もしかして」
「ああ、二人とも夜遅くに悪いが、仕事の時間だ」
カイトは乾いた声で淡々と告げる。
「侵入者だ――西から、迫ってきている」




