第11話 ダンジョンの屋敷
「どうだ。カイト様――エルフたちが丹精込めて作った屋敷だ」
「おお……見事な建物だ」
とある昼下がり。ソフィーティアに呼ばれて、カイトはフィアとローラを連れて外に向かうと、そこには大きな建物が目に入った。
座標的には丁度、ダンジョンコアの直上にあたる位置。そこに荘厳な面構えの屋敷が建っている。石組みの土台の上にログハウス調の構造物が載っており、外観も非常に綺麗だ。思わず感心していると、ソフィーティアは自慢げに笑ってみせる。
「エルフはツリーハウスなどの建築を主にするが、こういう建物も作れるんだ。時に木々は間伐する必要があるからな」
「なるほど――だが、僕たちだけこんな家をもらっていいのか?」
「むしろ、エルフたちの希望だ。我々は土地を貸し与えてくれたカイト様に感謝している。だからこそ、この屋敷作りに志願する者も多くてな」
「そうなのか――ありがたい限りだ」
カイトはそう言いながらソフィーティアに視線を移し、見ても? と訊ねる。
もちろん、と頷いた彼女は前へと進み、玄関の扉を引き開けた。
「ここはもうカイト様たちの家だ。存分に見てくれ」
屋敷内は広々としていた。
木を基調にした内装になり、家具などはすでに最低限入れられている。一緒に足を踏み入れたフィアとローラも興味深そうに家中を見て回っている。
厨はもちろん、食堂なども設けられており、居心地は充分良さそうで。
何より嬉しかったのは、広い風呂が設けられていること。いつも三人は川で水浴びして身体の汚れを落としていたので、湯に浸かれるのはありがたい。
設備が行き届いた、満足いく屋敷にカイトは感謝の言葉しかでなかった。
「ソフィーティア、本当にありがとう――こんないい家を作ってもらえるとはな」
「なんの。気に入ってくれたか?」
「ああ、あとは洞窟をここに繋げれば完璧かな」
今後のダンジョン改造計画を加味すると、それは欠かせない。
ソフィーティアもそれを加味した設計にしているのだろう。防衛拠点としても機能するように様々な仕掛けをこの屋敷に施している。
彼女は壁に寄りかかると、隣の寝室の方を見てにやりと笑う。
「ちなみにベッドも広く用意した――その方がいいだろう?」
「……下世話なことだ。けど、礼は言っておく」
今、そちらはフィアとローラが確認に行っている。ことのほかフィアが気に入ったようで、部屋の隅々まで確認しているのだ。
余談だが、ローラは大きなベッドを見て何を想像したのか、顔を真っ赤にしていた。
ソフィーティアは軽く肩を竦めながら告げる。
「礼には及ばんよ。カイト様。これでも恩義に報いたとは思えんのだよ、我々は」
彼女はそう言いながら執務室の窓の方に視線を向けた。
「定期的に地上を見て回っていると思うが、エルフたちの居住区も大分整備が進み、避難してきたエルフたちも大層喜んでいる」
「そうみたいだな。第二区画は大分、建築も進んでいるようだし」
執務室の窓を開くと、二階からその景色が入ってくる。
ダンジョンの地上部分は大きく分けて三つで開発が進んでいる。
この屋敷を中心とした本丸。
その周囲を取り囲むように建築が進んでいる第二区画。ここはツリーハウスと木造建築が入り交じり、エルフたちの居住区になっている。
そして、第二区画を取り囲むように広がるのは第三区画。そこはまだ開発中だが、ゴーレムが動き回って精力的に建築を手伝っている。
全体としてみると、自然豊かな町や村という様相が出来上がっているのだ。
「まさか、こんな規模な共同体に仕上がるとはな」
「同感だ。ただ、私としては嬉しい。期せずして、エルフたちが同じ街を作り上げているのだからな。できれば、ここをエルフの国にしたい――なんて大それたことも考えてしまう」
そこまで言ってからソフィーティアはカイトを見て付け足す。
「別にここの主の座を簒奪しようとは思っていないぞ?」
「分かっているよ。ソフィーティア。むしろ、国か……まぁ、悪くないと思うぞ。ただ、それには多種族国家、という括りにはなるが」
「はは、それは大変そうだ。今ですら大変なのにな」
彼女は視線を第三区画に向ける。その表情は微かな憂いがあった。
「……難民たちか」
「ああ、どちらかというと、一部のエルフが難民に対して暴言や侮辱、恩着せがましい発言などをする者がいてな。それこそ、この土地をエルフの者だと勘違いし、のぼせ上っている者もいる。それには頭を悩まされている」
そこで小さくソフィーティアはため息をつき、ふと視線を下に向ける。そこには慌ただしく駆け寄ってくるミレーヌの姿があった。
「ミレーヌ、どうした?」
ソフィーティアが声を掛けると、彼女は上を振り返り、安堵の吐息をこぼす。
「ソフィーティア、手を貸していただけますの? また第三地区でトラブルですわ!」
「――またか。すまない、カイト様。私は席を外すが、ゆっくりしてくれ」
「ああ、ありがとう。気をつけてな」
カイトがそう言うよりも早く、彼女はひらりと窓から飛び降りてミレーヌの傍に着地し、第三区画に向けて駆けだしている。
「戻ったよ、兄さま――あれ? ソフィーティアは?」
その声に振り返ると、フィアとローラが部屋に入ってくるところだった。カイトは窓の外を指で示し、軽く肩を竦める。
「向こうでトラブルだそうだ。エルフと他種族の間で軋轢があるらしい」
今まではエルフだけであり、ソフィーティアが統率を取っていたからトラブルはあまり露呈しなかったのだろう。だが、今や他の種族まで暮らしているのだ。
知り得る限り、獣人たちが多く、中にはドワーフ、フェアリーなども見える。
文化的摩擦は当然、あるだろう。
(呉越同舟――なんて、四字熟語があるが、そんなことはない)
特に目先の不安が失われれば、持ち上がるのは不平不満。
その不平不満はどこへ向かうか――傍にいる異分子である。
ソフィーティアも軋轢を生まないように最大限、気を遣っているのだろうが、人数が多くなればそうもいかない――。
「なるほど、ソフィーティアさんも苦労してそうですね」
フィアは同情するように頷き、ちら、とカイトの方を伺う。その目つきは何かを確信しているようで――思わずカイトは目を細めて告げる。
「そうだな。手を貸しに行くとするか」
「ですよね。カイト様」
「兄さまならそうすると思った」
フィアとローラは笑みをこぼすと、揃って手を差し伸べた。カイトは両手を伸ばし、二人の手を取って歩き出した。




