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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第五章

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第5話 旅立ちを見送って

「それじゃ行くわよ。アリス、リリス、シズク」


 早朝――ダンジョンの穴倉から解放されたジェシカは三人のフェイを連れ、迷いなく歩き出した。もう振り返らまいと脇目も触れずに歩き去り。

 アリスティア、リリス、シズクもその後ろについて歩く。

 その姿を見届けていたカイトは小さく吐息をこぼすと、見送りに同席したフィアもため息をつき、不安そうに瞳を揺らす。


「大丈夫でしょうか。三人とも」

「ここは信じるしかないだろうな。ジェシカを含め、三人を」

(……ただ失敗に終わったとしても、何かリスクがあるわけではないんだよな)


 仮に三人の正体がバレて捕らわれたとしても、ダンジョンには何ら損害を及ぼすことはできない。精々、魔力を無駄にしてしまったという点である。

 無論、その場合はカイトの心が痛むし、仲間である以上、奪還は検討するのだが。

 そして、彼女たちはカイトに臣従を誓っている以上、虚偽の報告もできない――偽の情報を掴まされる心配もないのだ。


(そういう意味では、かなり優秀な密偵になってくれるはず――頼むぞ。三人とも)


 軽く祈りを捧げてから、カイトは踵を返して歩き出す。フィアはその後ろに付き従いながら、静かに首を傾げる。


「話は変わりますが――今日のご予定はいかがしましょうか」

「ん、昨日、何人か侵入者の気配があった。それの確認だな」


 侵入者であるにも関わらず、カイトが焦っていないのはその正体が分かっているからだ。ソフィーティアに確認に行かせ、避難民であることも確認している。

 ただ、ダンジョンに迎え入れた以上はきちんと臣従を誓わせ、危険を排除しなければならない。そのために顔を出す必要があった。


「一週間に数人ずつ、逃げてきますね。エルフたちで情報が共有されたのでしょうか」

「それもあるだろうな。それに僕たちは受け入れを拒否していないし」

「どれくらいになるのでしょうか。エルフの人口は」

「さてな。それに応じて計画を変更しないといけないだろう。地表の区画割は現状、五百人が住む想定で考えているけども」


 そう言いながらカイトは視線を周囲に向ける。エルフによって開拓が進められる一帯は目印になる杭が打ち込まれ、木の移植や建築が進んでいる。

 また洞窟の出入り口付近には建材が詰まれ、そこには屋敷を建てる準備が進んでいる。

 これならばまだエルフたちを充分に受け入れられるはずだが。


「もし、さらに数が多くなれば、またソフィーティアと相談だな」

「ですね。ただダンジョンに棲む者が増えれば、コアはさらに魔力の獲得量を増やせます。そういう意味では現状、悪くないかと」

「――そうだな。冒険者が不自然に攻めてこない、現状なら」


 その言葉にフィアは視線を伏せさせ、小さく頷いた。


「はい、ここまで静かだと不気味です。アリスティアたちの働きにて、その理由がはっきりと分かれば良いのですが」


 冒険者が攻め寄せない現状は、あまりにも不自然だった。

 シャドウウルフの斥候は辺りを警戒しているが、冒険者の影すらない。もしかしたら、大攻勢に出られる可能性すらもなくはないのだ。


(準備は、欠かせないな。大軍を受け止める準備が)


 土塁程度の防衛設備では足りない。もっと大掛かりな準備が。

 そのためにはソフィーティアと協議することが欠かせないだろう。カイトは少し考えてながら歩きつつ、フィアに視線を向ける。


「今日中にソフィーティアとも話を進め、区画割について再考する。あと、ローラは?」

「確か今日も森を巡り、卵や食料を集める予定です。夕方には戻るので、それまではカイト様のお傍は私がお守りします」

「……今日も、か?」


 ふと眉を寄せる。ローラは最近、仕事熱心ではある。

 それは助かるのだが、エルフたちの開発が進んだ畑からも収穫が徐々に上げられるようになっている。食料は喫緊の課題ではなくなったのだ。

 それはきちんと伝えているはずなのだが――。

 フィアは眉を寄せながら、はい、と頷いてみせる。


「どうも私たちに気を回しているようでして」

「……二人っきりにしようとしている、って魂胆か」

「はい。空回りしなければいいのですが」

「そうだな。少し心配だ」


 それにローラの元気な声を聞けないのもまた物足りなくなる。


(フィアといい、ローラといい、本当に自分にとって大事な存在になっていたんだな)


 思わずしみじみと痛感していると、ふとフィアがカイトの方をじっと見ていることに気づく。そちらに視線を向けて軽く首を傾げると、彼女は遠慮がちに告げる。


「その、聞くだけ野暮な話かもしれませんが」

「ん、何でも聞いてくれて構わないが」

「その、カイト様はローラのこと、どうお考えで――?」

「それは……大事な妹分、って言い方になるかな」


 フィアと同様、ローラには仲間や相棒というには図り切れない気持ちを抱いている。もしかしたら、それはフィアと同じような気持ちかもしれない。


「フィアのことも大事だけど、ローラのことも大事にしたい――ああ、もちろんそれは恋人という意味ではないぞ?」


 カイトの正直な言葉に、フィアは目を細めながら、はい、と頷いてくれる。


「承知しております。カイト様が私のことを尊重してくださっていることも――でも一つだけ、あの子の姉としてお願いがあります」

「ん、聞かせて。フィア」

「はい。もし、あの子が本音で向き合ってきたら、きちんと正直に応じて欲しいのです。カイト様の本音で。私について遠慮する必要はありませんので」


 その言葉に思わずカイトは足を止めてしまった。フィアの顔を正面から見れば、彼女は真っ直ぐに見つめ返しながら微笑んでいる。

 その動じない姿に思わずカイトの方が戸惑ってしまう。


「その――フィア、それってつまり……」

「はい、私と同じようにローラを傍に置きたいのであれば、私は構いません。というより、それに関して私が口を差し挟む余地はありませんから」


 私はあくまで従者ですから、と自身の立場を強調するフィア。それにカイトは何と答えるべきか視線を彷徨わせていたが、でも、とフィアは唇を尖らせて続ける。


「他の女だったら容赦なく物申させていただきます。私はローラならば良いと思って、進言しただけです。絶対に、他の女には目移りしないでくださいね」

「……フィア以外に目移りするはずがないだろう?」


 思わず苦笑しながら言うと、フィアは嬉しそうに頬を染めてこくんと頷いた。それから瞳を潤ませて小さく吐息をこぼした。


「ありがとうございます。カイト様――今日の夜はたっぷりお礼しますね」

「気が早いな。でも、楽しみにしておく」


 カイトはフィアの頭に手を伸ばし、くしゃ、と撫でてから再び歩き出す。その横を足取り軽いフィアが歩いてくれるのを感じながら、カイトは少し目を細める。


(――しっかり向き合って、気持ちに応じる、か)


 フィアがそう言ってくれたのだ。そのときが来ればきちんと向き合うべきだろう。ただ、ローラの場合だと恥ずかしがって逃げそうな気もするが。

 その様子を想像しながら何気なくカイトは空に視線を向け、眉を寄せる。どんよりとした雲が漂っており、雨が降りそうな天気だ。


「――今日は、天気が良くないな」

「久々に雨が降るかもしれませんね。エルフたちは大丈夫でしょうか」

「確かに。ソフィーティアと相談して、地下に何人か移してもいいかもな」

「じゃあ、エルフたちのところに行きましょうか」


 フィアと頷き合い、カイトはエルフたちの場所へ歩き出す。

 その空では徐々に雲が厚みを増しつつあった。

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