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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第四章

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第6話 エルフたちの参入

 ソフィーティアが仲間に加わって二週間が経過した。

 彼女はすぐさまダンジョンを発ち、このダンジョンに身を寄せるエルフの仲間たちを呼ぶべく東へ急いでいた。

 その一方でカイトたちはエルフを迎え入れる体勢を整えていた。

 レムを中心としたゴーレムたちが焼け焦げた地上の燃え残りを片付け、ダンジョンの入り口付近を空き地にする。途中、久々に侵入者が現れるなど、少しトラブルもあったが、だんだんと作業は進んでいき。


 そしてついにその日――。

 ダンジョンの東から侵入者の反応があった。


 森の中から荷物を担いで現れたエルフたち。

 カイトとフィアは彼らを洞窟の外で出迎えていた。先頭を行くソフィーティアはカイトたちを見つけると、頭を下げてからこちらに歩み寄る。


「お待たせしました。カイト様。先遣のエルフ、三十人を連れてきました」

「いや、想定よりも早かった。ようこそ、エルフの皆さん」


 カイトは歓迎する意思を示しながら歩み寄ろうとしたが、フィアが軽く腕を掴んで制する。その意図を察し、ソフィーティアは真面目な顔で一つ頷いた。


「カイト様、臣従していない相手に軽々しく近づくのはよろしくありません」

「そう、だな……ありがとう。フィア」

「いえ、私はカイト様の従者ですから、当然です」


 従者、のところを力強く告げるフィア。それに少し頷きながらも、カイトは内心で首を傾げる。


(――なんだか最近、フィアとの距離感がぎこちないような)


 いつものように接するのだが、何となくフィアから距離を置かれているような雰囲気がある。その一方で何かと口実をつけてカイトの傍にいようとするのだが。

 ただ、今はエルフの対応が先だ。カイトは思考を切り替えて正面を向く。フィアはカイトの前に進み出ると、ソフィーティアと言葉を交わしていた。


「ソフィーティア殿、まずは来たエルフの方々に臣従を誓っていただかねば」

「そうだな。フィア殿。荷物を下ろして一人ずつがいいか?」

「そうですね。それならひとまず安心かと。順番を作ってください」

「了解した――皆の衆、聞いて欲しい。こちらが我々を受け入れてくださったカイト様だ。集落でも話した通り、この地で暮らすには彼に忠誠を誓う必要がある。一人ずつ進み出て、カイト様に臣従を誓うのだ」

「カイト様はこちらに。あまり近いと、万が一のときに対応できませんから」

「あ、ああ――」


 フィアとソフィーティアがてきぱきとその場を仕切ってくれる。気が付けば、カイトの前に順番にエルフたちが整列していた。

 皆、若々しく顔立ちが整っている。それも女性ばかりであり、不安そうな表情を隠せない者も少なくない。だが、先頭に立った一人は迷いなくカイトの前に進み出た。

 短く切り揃えた茶髪を揺らしつつ、穏やかな眼差しでカイトを真っ直ぐに見つめる。柔らかい物腰を感じさせる彼女は恭しく一礼して言葉を述べる。


「ナハト族のミレーヌです。今回は受け入れてくださり感謝申し上げますわ」

「カイトだ。守り切る、とは断言できない。だけど、共に暮らし、支え合うことはできるはずだ。共にこの地で生きていこう」


 カイトは真っ直ぐに彼女を見つめ、手を差し伸べながら告げる。

 ミレーヌはカイトの目を見つめ返すと、ふと柔らかく目尻を吊り下げ、小さく笑う。


「ソフィーティアの言う通りの方ですわね。非常に真っ直ぐな目をしていらっしゃいますわ」

「彼女がそんなことを?」

「ええ。それでも少し不安でしたが、貴方様の目を見て安心しました」


 その言葉と共にミレーヌはカイトの手を取り、額に押し当てる。瞬間、胸の奥でどこかと繋がった感触――ソフィーティアのときと同じ。


 ミレーヌもまた臣従を誓ってくれたのだ。


 それからカイトは順番にエルフたちと名前を聞き、言葉を交わして、臣従を誓ってもらった。どんな相手に対しても真剣に向き合うと、緊張していたエルフたちも臣従を誓った後はどことなく安心した表情を見せていた。

 臣従したエルフたちはソフィーティアの元で順番に指示を受け、持ち込んだ荷物を広げ始めている。最後のエルフと主従契約を交わしたカイトは、その子を連れてソフィーティアの方へと足を向けた。


「ソフィーティア、契約は終わったぞ」

「ああ、カイト様。お疲れ様です――すみません、すでに荷物を広げさせてもらっています」

「大丈夫だ。構わない。この場所はエルフたちのために用意した場所だから」


 それと、とカイトは言葉を続けながら笑いかける。


「無理に敬語を使わなくても構わない。僕たちはすでに仲間なのだから」

「……しかし」


 少し迷うように視線を泳がせ、カイトの傍に控えるフィアに視線を向ける。彼女は小さく吐息をこぼすと、仕方なさそうに笑う。


「私は好きでこの口調ですので。それにローラ――私の妹はいつもカイト様に親しく話されています。タメ口でも問題はないでしょう」

「……なら、お言葉に甘えさせてもらおうか。カイト様。正直、敬語というのは慣れなくて」

「そうか? 随分と慣れているように感じたが」

「そう聞こえるように猛練習したんだ。礼を欠けば殺される状況も想定したものだから」


 ソフィーティアは苦笑交じりに告げ、砕けた口調で話してくれる。それを前にして周囲のエルフたちも少し緊張感を緩めたのか、雰囲気が明るくなっていた。

 それを見渡し、ソフィーティアは軽く手を叩いて告げる。


「では皆の衆、一旦、野宿の準備だ。役割分担して進めよう。ミレーヌ、指揮を執ってくれ。私はカイト様と少しお話することがある」

「了解。ソフィーティア、ごゆっくり」


 ミレーヌがひらひらと手を振って応じ、エルフたちに声を掛けてそれぞれ作業を始めさせる。それを見やってから、ソフィーティアはカイトを振り返った。その瞳はどこか深刻さを感じさせ、口調も堅苦しい。


「カイト様、フィア殿――少し話をさせてもよろしいだろうか」

「構わないが……何かあったのか?」

「ああ――少し離れよう」


 ソフィーティアの言葉に頷き、彼女と共にカイトとフィアは洞窟の入り口まで歩く。エルフたちから充分距離を取ると、小さな声で彼女は言葉を続けた。


「戻った際、族長から聞いた話だが――また他の集落が潰されたらしい」

「……人間たちに、か?」

「ああ、しかも今回は徹底して集落が焼かれ、エルフの男たちが皆殺しにされていたという。エルフの女子供が一部、這う這うの体で逃げて発覚したことだ」

「それは……なんというか」


 慰めを口にすべきか迷っていると、ソフィーティアは軽く手を振って微笑む。


「気持ちはありがたく受け取っておく。まぁ、このこともあって避難を決意したエルフも多くてな。本来ならば先遣は二十人ほどに収まるはずだったのだが、避難希望者が増えて今回の三十人になってしまったのだ」

「なるほど、それは大変だったな」

「なんの。それが私の役目だからな――だが、問題はこれからまた避難を希望するエルフが増える可能性がある。しかも私たちの集落だけでなく、他の集落も本格的に避難することを検討し始めたらしい。そこで――その、相談なのだが」


 言い淀むソフィーティアに、カイトは一つ頷きながらその言葉を口にした。


「もっとエルフを受け入れるようにしたい、ということかな」

「……ああ、そういうことだ。規模としては二百以上になるか……」

「それは……」


 想像以上の数に思わずカイトが言葉を失っていると、ソフィーティアは慌てて早口で言葉を付け足す。


「む、無論、全力でこのダンジョンに貢献するつもりだ。カイト様に迷惑をかけることは極力少なくなるようにする。だから――」

「お、落ち着いてくれ、ソフィーティア。別に拒むつもりはない」


 詰め寄りかけていたソフィーティアを落ち着かせるようにカイトは両手を挙げる。それから割って入ろうとしたフィアに目配せして、大丈夫だ、と微笑みかけた。

 それからソフィーティアに視線を戻してゆっくりと言う。


「見ての通り、このダンジョンの地上は広い。エルフを充分に受け入れることはできるはずだ。ただ、少し気になるのは、集落全体が避難してくるのか?」

「いや、女子供だけだ。男たちは命を懸けて森を守ると息巻いている」

「……それは大層な心構えだが……」


 そんな精神論で守り抜ければ、カイトたちはこんなにダンジョンで苦労はしていない。恐らく遠からず、その守りは瓦解して集落は次々と潰されるだろう。

 そうなれば、行き場を失くしたエルフたちがここに来ることも考えられる。


(――もっと避難してくる者の数が増えてくることを想定するべきか)


 そうなれば様々な懸念点が思い浮かぶ。住む場所の区画割や住む際のルール、公衆衛生など――数十人なら何とか対応できるが、数百人となるとそれはもはや町だ。

 明らかにカイトの手には負えなくなってくるだろう。

 だが、一度受け入れると決めた以上、拒む選択肢は彼にはない。

 カイトは小さく嘆息し、ソフィーティアに声を掛ける。


「承知した。一応、受け入れることは可能だと言っておく」

「……そうか。恩に着る」

「だが、ソフィーティア――多くのエルフが住めば、いろいろ問題が発生する。特に今、近々の課題になってくるのは食糧問題だ」

「分かっている。そちらについては私に考えもある」


 ソフィーティアは一つ頷くと、胸に手を当てて微笑んだ。


「これでも族長の娘だ。精一杯、対応させてもらおう。先も申した通り、極力、カイト様の手を煩わせるつもりはないつもりだ」


 その姿は凛として自信に満ちていて――カイトはそれに気圧されるがままに頷くしかない。


「――分かった。なら、ソフィーティアに一任する」

「ああ、失望はさせないつもりだ」


 その言葉は自然に言い放たれ、大言壮語にはまるで聞こえなかった。


 そして――その彼女の実力は、すぐに発揮されることになった。

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