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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第四章

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第5話 ソフィーティアとの直接会談

 ソフィーティアは洞窟の外で待っていた。

 長い銀髪をなびかせ、その紫紺の瞳には利発そうな輝きを宿している。顔立ちも整っており、今までで見たことがない美人だと感じられる。風が吹くと、その長い髪がなびいて長い耳が露わになる。

 カイトがそこに近づくと、彼女は振り返ってその場で一礼して見せた。


「――ここのダンジョンの主とお見受けします。私は――」

「挨拶は不要。ここのダンジョンで起きたことは全て把握できる立場にある。それにここのフィアから直接見聞きした」


 カイトは手を挙げて制しながら、静かに言葉を続ける。


「ここのダンジョンマスターのカイトだ。ご覧の通り、人間ではあるが」

「だが、魔物の味方であられる――そうではありませんか?」


 ソフィーティアは下げた頭を上げず、慎重な口ぶりで告げる。カイトは軽く肩を竦め、傍らのフィアを見やりながら言葉を返す。


「少し違うな。ここのダンジョンの魔物の味方、だ。つまり、フィアたちの」

「……なるほど。でしたら、そこに加わりたいという魔物がいたら、どうされるおつもりでしょうか」

「相手による、という答え方になるだろうな。服従を誓う覚悟があれば、迎え入れることを検討するのだが」


 その言葉にソフィーティアは顔を伏せたまま動かない。恐らくは頭の中でいろいろと計算を巡らせているのだろう。それを見据え、カイトは小さく苦笑をこぼした。


「こういう駆け引きも悪くないが、いっそ肚を割って話さないか。ソフィーティア殿」

「……と、申しますと?」


 微かに顔を上げたソフィーティア。こちらを伺うような視線を真っ直ぐにカイトは受け止め、言葉を続ける。


「僕たちとしては、行き場を失くしたエルフたちを受け入れることは歓迎したい。この場所を見てもらえば、分かると思うが」


 カイトは視線を森に向ける。ソフィーティアは視線を辺りに走らせた。

 洞窟の出入り口を中心に一帯に広がっている焼け野原。そこにはかつてあった緑の気配はなく、まだ焼け跡が生々しい。

 一部、回復しているのは畑として作り直した部分だけだ。


「ここは敵が侵入した際に、焼けてしまった――ただ、エルフたちならばこの環境を再び緑豊かな土地にできる。そうじゃないかな」

「無論です。我らは森と生きてきた民ですから」


 ソフィーティアは即答し、それから、ちらりとカイトの方を伺う。


「――もしや、この土地を我々に与えてくれる、と?」

「貸す、という言い方が正しいかもしれないな」

「失礼しました。そのような寛大なお考えであったとは」

「お世辞は結構だ。ソフィーティア殿。肚を割って話したいと言ったはずだぞ」


 カイトの言葉にソフィーティアは口を噤むと、少し視線を伏せさせてから告げる。


「――正直、ありがたいお話だと思います。このような地であっても、問題はありません。傍には生きた森もございますから。ただ……」


 そこで迷うように言葉を切り、カイトの方を伺う。カイトが頷いて続きを促すと、彼女は静かに言葉を続ける。


「避難を求めるエルフは女子供であり、自衛する術を持ちません。土地を貸していただけたとしても、我々は無防備であることには変わらず……」

「つまり、人間が攻めてきたときには保護して欲しい、と?」

「……恥を忍んで、申し上げれば」


 ソフィーティアが押し殺した声で告げる。それにはフィアは呆れたように小さく吐息をこぼした。そちらに視線を向けると、フィアが念話を飛ばしてくる。


『すみません、厚かましいと思ってしまいまして』

『まぁ、気持ちは分かる。きっとソフィーティアも同じように思っているはずだ』


 苦笑を一つ返し、カイトはソフィーティアに視線を戻して頷いた。


「よく肚を割ってくれた――だからこそ正直に申し上げるが、我々は戦力が乏しく、ここのエルフたちを保護するだけの戦力はない」

「――っ、そう、ですか……」


 それに肩を震わせたソフィーティアに対し、カイトは言葉を続ける。


「だが――共に、戦うことはできる」


 カイトの言葉にソフィーティアは顔を上げ、瞳を微かに揺らす。カイトは後ろを振り返りながら、彼女に声を掛けた。


「ダンジョン内を、お見せしよう――それで決めていただきたい」


   ◇


「――っ、これは……っ」


 ダンジョン中枢の地下空洞。

 そこで構築された大規模な土塁を見て、ソフィーティアは言葉を失っていた。カイトは土塁に渡された梯子に足を掛けながら手招きする。


「ぐるりと一回りしながら案内するが――僕たちはここで敵を防ぎ続けてきた」

「……凄まじい。見たことがない構造物です」

「防御陣地、という言い方になる」


 カイトは土塁を上る。それに続きながらソフィーティアはしげしげと陣地の構造を観察し、その中をせっせと駆け回るキキーモラを見て目を丸くする。

 だが、すぐに合点がいったように頷き、吐息をこぼした。


「なるほど、高所と遮蔽を組み合わせることで、一方的に投石や矢を射かけられる仕組み、でしょうか。非常に効率的です」

「その通り。この場所であれば、剣の腕や体力も必要ない」

「……女子供でも、戦える」


 ソフィーティアは目を瞬かせ、考え込むように顎に手を当てた。


「私たちの集落でも櫓など建造物を活かす考え方はありましたが……」

「櫓に比べると、ここは敵が来る方向が一か所に限定されている」

「なるほど、ちなみに一部、斜面の角度を変えているのは、敵を誘導するためですか」

「ご明察だ。さすがの聡明さだな」


 カイトは頷きながら陣地の中を案内する。余計な行動をされないようにフィアが目を光らせているが、ソフィーティアはそれが気にならないように興味津々に辺りを見渡し、熱心にカイトに質問を飛ばし始める。

 それは逆茂木や切岸まで及び、鋭い指摘まで飛び出す。それにカイトは解説しながら、一通り陣地を案内し終える。

 最後にレムの背負子にキキーモラたちが乗っている様子を見せると、ソフィーティアは感嘆の声をこぼし、カイトを振り返って興奮を露にする。


「素晴らしい……! なるほど、人間を退けたのも納得の技術や知識だ……!」


 興奮のあまり、敬語が抜けている。それに気づき、あ、とソフィーティアは顔面が蒼白になる。カイトは苦笑交じりに軽く手を振って告げる。


「気にするな。敬語が喋りづらいなら、そのままでも」

「い、いえ――失礼、しました。ご無礼をお許しください」


 こほん、とソフィーティアは咳払いし、カイトの目を見て告げる。


「改めて感服しました。このような防衛陣地を築き上げていたとは」

「こちらこそソフィーティアの――いや、エルフの聡明さに感心させられた。一部の指摘はこの陣地に反映させようと思う」

「お役に立ったのであれば、何よりです」

「できれば今後も意見を聞かせて欲しいが――それはさておき」


 カイトは一息ついてから、言葉を続ける。


「もし人間が攻め込んできたとすれば、まずここにエルフたちを避難させようと思う。そして、この陣地を活かすことで、共同で敵を迎撃する」

「……非常に面白い提案だと思います。エルフは女子供であっても弓に優れているため、このような場所では充分、戦力を発揮できます」


 ソフィーティアは顔を上げると、真剣な表情で頷いた。そして、カイトに向かって深々と頭を下げる。


「お願い申し上げます、カイト様。ぜひ我らエルフの民をこのダンジョンに受け入れてくださいませんか。無論、全員がカイト様に臣従を誓い、共にこの地を繫栄に導くよう尽力いたします」


 その言葉にカイトは一つ頷き、目を細めながら手を差し出した。


「僕はエルフたちを歓迎する。ソフィーティア。ぜひ、この地に来て欲しい」

「ありがたきお言葉です……!」


 ソフィーティアは顔を上げると、感激したように瞳を揺らし、そっとカイトの手を取る。瞬間、どくん、と掌が脈打ち、何かが繋がる気配が伝わってくる。


(これは――)


 カイトが目を見開いていると、ソフィーティアは彼の手を取ったまま、恭しく自身の額に押し当て、誓いの言葉を述べるようにゆっくりと告げる。


「ナハト族のソフィーティア、今より私はカイト様の配下となります。どうぞこの知勇を惜しみなく使っていただければ幸いです」


 そう告げるソフィーティアとは、今までと違ってどこか繋がっている感覚がある。これがきっと主従契約――それにカイトはゆっくりと目を細めて頷いた。


「ありがとう。ソフィーティア。これから僕たちの仲間だ」


 改めてしっかりと握手し、カイトとソフィーティアは視線を交わし合う。


 こうしてカイトのダンジョンには新たにエルフという力強い仲間が加わった。

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