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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第四章

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第4話 エルフたちは受け入れるべきか否か?

 女エルフ、ソフィーティアは非常に協力的だった。

 こちらが情報を求めていることを理解したのだろう。彼女は迷いの森の情報を提供しつつ、自身の集落の苦境を訴える。

 それらの情報をフィア経由で巧みに聞き出すと、カイトは一旦、ソフィーティアをその場で待たせてフィアとローラを呼び戻した。

 今後の対応を、協議する必要があった。


「まずはフィア――お疲れ様。よくソフィーティアから聞き出してくれた」


 ダンジョンの居住区。

 そこで白湯を入れたカイトはフィアを労った。フィアは木のコップを手で包み込みながら、小さく首を振って笑う。


「カイト様がいろいろ指示を出してくれたおかげです。念話は便利ですね」

「とはいえ、実際に交渉するには度胸も必要だからな。よくやってくれたよ」

「えへへ、ありがとうございます」


 労うべくその小さな頭を撫でると、フィアは嬉しそうに目を細めて少しだけ頭を下げた。ローラはカイトとフィアのやり取りを見ながら、こてんと首を傾げながら訊ねる。


「それで――兄さま、どうするつもりなの?」


 彼女はちびり、と白湯で唇を湿らせ、少しだけ目を細める。


「明らかにあの人――ソフィーティアさんはこのダンジョンに庇護を求めているよ」

「ああ、間違いなくその意図だろうな」


 本人はその希望を口にはしなかった。

 だが、彼女はエルフの窮状を訴えつつ、そのエルフの有用性について語った。様々な知識はもちろん、戦力としても役立つこと、迷いの森とも相性がいいことなど――。

 エルフたちを保護することを、こちらから言い出すのを待っているのだ。


(そうした方が、エルフたちの待遇は良くなるからな)


 したたかな交渉ぶりだ、と感心させられてしまった。

 本人曰く、族長の娘だという。それも納得の交渉術だった。


(こういう人材はウチのダンジョンには今、いないな――)


 素直に欲しいと思ってしまう人材だ。カイトは思わず白湯を口に運んで唇を湿らせてから、フィアに視線を移した。


「フィア、話していてどう思った? 嘘をついていると思うか?」


 それが一番の懸念点だった。交渉術が長けている相手だ。巧みに嘘を入り混ぜ、こちらを騙そうとしている線は否めない。

 その言葉をフィアは少し考えていたが、慎重に首を振る。


「交渉は素人ですが――聞いている限り、嘘は言っていないような気がします。というよりこの状況で多分、嘘はつかない気がしますね」

「確かに嘘をついて不興を買ったら、エルフたちの避難候補地を失うことになるからね。数は聞いていると数十人規模はいそうだし」


 ローラも姉の言葉に同意しつつ、カイトに視線を向けて口を開いた。


「――兄さま、私の意見を言っても?」

「もちろん。聞かせてくれるか?」

「いっそ、エルフたちを引き入れてもいいんじゃないかな。そうすれば四、五十人規模の戦力が魔力なしで手に入るよ」

「ん、確かにな」


 それは真っ先に思いついたメリットであり、ソフィーティアも提示していた事実だ。労働力を魔力消費なしで手に入れられるのは、大きな利点。

 彼らが暮らすことで、さらなる魔力の増収も見込める。

 非常に魅力的な話ではあるが――。


「確かにそれは魅力的ですが、ローラ。そう容易く考えるのは危険です。ソフィーティアはさりげなく言っていましたが、まず送り込まれるのは女子供なんですよ……?」


 ローラの言葉に待ったをかけたのは、フィアだった。慎重な彼女の言葉にカイトは視線を向けると、彼女は真剣な眼差しで言葉を続ける。


「彼らが屈強な男性であれば、戦力として充分数えられるでしょう。ただ、女子供では戦力として数えられるか未知数です。そうなれば、逆に足手まといになる可能性も」

「そう、だけど。でもそれは戦時中。平時の労働力としてなら充分――」

「ローラ。私たちのダンジョンはいつ攻め込まれてもおかしくない状況なのです。一応、ソフィーティアから興味深いことは聞けましたが……」

「西の街は規模が小さい、という話か」


 カイトの声に、フィアはこくんと一つ頷いた。

 ソフィーティアは迷いの森近郊についてある程度、知識を有していた。だから西の方にある街についても少しだけ教えてくれたのだ。


『とはいえ、今から五十年前に聞いた話にはなりますが――その頃はまだ小さな町程度だったと聞きます。二十年前まではそこで交易していたエルフと話を聞いていました。そのエルフももう来なくなりましたが――』


 その言葉を思い出し、カイトは小さく吐息をこぼしながら頷いた。


「確かに興味深い。だが如何せん、情報が古すぎる――その情報を鵜呑みにして楽観論に走るのは多少危険だな」

「はい、ですからどう転んでもいいように、慎重に対応すべきです」


 フィアの言葉にローラは小さく吐息をこぼし、少し半眼を向ける。


「――なんだか兄さまみたいな考え方になってきたね。姉さま」

「……っ、そ、そうですか? えへへ……」


 嬉しかったのか、表情を緩ませるフィア。ローラはそれにやれやれと肩を竦めながら、カイトの方に視線を戻して訊ねる。


「それで兄さま、どう考える?」

「ん――そうだな。ひとまずフィアの指摘は尤もだけど、実はそれは問題ない。エルフの女子供でも戦力にはできるはずだ」

「……そう、なのですか?」


 きょとんとするフィアに、ああ、とカイトは頷きながら笑いかける。


「忘れたか? 僕たちのダンジョンには防衛陣地があることを」

「あ……」


 それにフィアは微かに目を見開いて声をこぼす。カイトは目を細めて言葉を続けた。


「確かに運動戦なら訓練された者が重要になるが、防衛陣地であれば隠れながら矢を射かけるだけでいい。つまり、女子供でも使いようでは戦力になるんだよ」

「実際、キキーモラたちも充分な戦力になっていましたね……」


 フィアはしみじみと頷いていたが、ふと別の疑問が浮かんだ様子で首を傾げる。


「では、受け入れて良い――と思いますが、カイト様、何か気になることでも?」

「ああ、少しだけ懸念があって。ダンジョンが乗っ取られる可能性」


 カイトはそれを口にするが、フィアとローラはいまいち理解できていない様子で顔を見合わせている。彼は白湯で唇を湿らせてから言葉を続ける。


「現状、僕たちのダンジョンは二人を除くとゴーレムが六体、キキーモラが三十二体――かなり人数は増やせている。だけど、エルフたちに比べれば圧倒的に少数だ。もし、彼らが僕たちの拠点の中枢まで入り込み、反乱を起こされれば――」


 フィア、ローラ、ゴーレムたちはまだしも、キキーモラたちは戦力にならない。またゴーレムたちも巨躯ゆえに迅速な行動はできない。

 そうなれば、迅速にこのダンジョンが制圧される可能性があるのだ。

 だが、その説明に対してもフィアやローラは首を傾げている。


「魔物たちが、反乱……? そんなの、できるはずが……」

「……あ、姉さま、もしかして兄さま、主従契約について知らない?」

「主従契約?」


 聞いたことがない言葉に、今度はカイトが首を傾げる番だった。

 なるほど、とフィアは合点がいったように頷き、少し困ったように眉尻を下げた。


「すみません、もう存知とばかり……実はカイト様と魔物はコアを通じて主従関係を結ぶことができるのです」

「コアから召喚された魔物は自動的にその契約がされるから、説明する必要がなかったんだね。ごめん、兄さま。話しておくべきだった」

「いや、大丈夫――え、ということは、今、僕とフィアたちにも主従関係が?」


 思わず確認すると、フィアとローラは揃って頷いてみせた。


「はい、そうなります。これにより、私たちはコアの魔力の恩恵を受けられる代わりに、主人であるカイト様には危害を加えることができません」

「故意であっても、過失であっても、絶対にね。ああ、あと付け加えるなら、契約した魔物はダンジョンから離れると著しく弱体化するから、その注意は必要かな」


 フィアとローラが順番に説明してくれた内容に、思わずカイトは目を白黒させた。


(――すごいな、ファンタジー世界。そんな契約があるのか)


 しかも、わざとではないとしても、危害を加えることが防げるらしい。


「付け加えれば、カイト様が拒否する行為もできなくなりますね」

「そうそう。だから例えば――」


 ローラの目が悪戯っぽく光を放ち、軽やかに立ち上がる。カイトは視線を上げると、ローラは彼に歩み寄って頬に手を添えた。

 彼女の真紅の瞳と目が合う。彼女は真っ直ぐに見つめながら、わずかに頬を染める。


「もし兄さまが嫌なら、こういう行為は絶対にできないはず――」


 そう言いながらローラの唇がゆっくりと近づいてきて――。

 触れ合う、寸前。


「だ、だめ……っ」


 すんでのところでフィアの手が割り込んできた。彼女の小さな手がカイトの口を覆い、ローラの唇はフィアの手の甲に当たって防がれる。

 むぅ、とローラは唇を尖らせながらフィアに視線を向け、不満そうに言う。


「邪魔しないでよ、姉さまー」

「だ、だめですっ、ローラ。そんな実験のような真似で、カイト様の唇を奪おうなんて……っ! 不敬ですよ……っ」


 そう言うフィアは顔を真っ赤にしながら、必死な目つきでローラを睨んでいる。その牽制にローラは苦笑交じりに両手を挙げた。


「ごめんなさい、姉さま。だから、そんなに必死にならなくても」

「必死になりますよ……全く」


 フィアが吐息をこぼしたところで、カイトは手を挙げて彼女の腕を叩く。未だにカイトの口は彼女の手に塞がれたままだ。

 それにフィアは慌てて手を引っ込め、ぺこぺこ頭を下げる。


「あっ、すみません、カイト様……っ!」

「い、いや、気にしないで大丈夫だ。それとローラ、さすがに悪ふざけが過ぎるぞ」


 カイトは咳払いして動揺を鎮め、ローラを注意する。はーい、ごめんなさい、とローラは悪びれた様子もなく笑い、片目を閉じる。


「でも仮に兄さまがキスを嫌がったら、私は兄さまにキスをすることが絶対にできない。そういう契約になっているの」

「なるほど、な。まぁ、確かに分かりやすかったが」


 カイトは半眼でローラを見やり、小さくため息をこぼして告げる。


「ローラは後でお仕置きだな」

「え、なんで……っ」

「さすがに悪ふざけが過ぎているから」

「そんなぁ……」


 へなへなと椅子に腰を下ろし、机に突っ伏すローラ。フィアもうんうんとカイトに同意するように頷くと、視線をカイトの方に戻した。


「それで――話を戻しますが」

「ん、主従関係のことだよな」

「はい、これらは双方が同意すれば、ダンジョンコアから召喚された魔物以外にも適応することができるのです。つまり――」

「エルフを受け入れたとしても、裏切りを防止できるわけだ」

「はい、そういうことです」


 カイトの言葉ににっこりと笑ってみせるフィア。彼女に軽く頷き返すと、カイトは腕を組んで思考に耽る。


(――となれば、事実上は裏切ることができない配下を多く増やせるわけか)


 そして、彼らを拠点に主に使うことで防衛力を強化できる。

 そう考えれば願ってもない好機とも言える。

 しばらく思考を巡らせていたカイトは一つ頷くと、フィアとローラに視線を向ける。


「フィア、ローラ――エルフたちは迎え入れる方針で行きたいと思う。それにあたって、一度、直接ソフィーティアと話そうと思う」

「了解しました。私も同席し、万が一には備えるようにします」

「ん、お願い。ローラは念のため、ダンジョンコアの防衛についてくれ」

「はーい、了解っ――ちなみにお仕置きって……」

「その後だな。たまにはじっくりお説教っていうのも悪くなさそうだ」

「あはは……お手柔らかに……」


 カイトがにっこりと笑って告げれば、ローラは引きつり笑いを浮かべながら席から立ち上がり、そそくさと動き始める。


「じゃあ、私は配備につくね。兄さま、姉さま」


 そう言うより早く部屋から駆け出すローラ――相変わらずお仕置きからの逃げ足は速い。とはいえ、今回はきちんとお仕置きするつもりだが。


(またお尻ぺんぺんでもして、反省させておくか)


 お仕置きの内容を考えながらカイトも腰を上げ、フィアに声をかける。


「じゃあ、僕たちも行こう。フィア。ソフィーティアを待たせてもいけないし」

「あ、はい……っ」


 フィアは少しぼんやりとしていたが、すぐに立ち上がった。カイトは軽く頷くと、フィアと共に部屋から出て、地表へと歩き始めた。


   ◇


(――カイト様)


 フィアはカイトの後ろを歩きながら、何となく小さく吐息をこぼす。

 その脳裏に過ぎるのは、キスを迫るローラの姿。それに対してカイトは戸惑っていたが、明確に拒否しようとはしていなかった。

 もし、あのままローラが迫っていたら、もしかしたら――。

 その先の光景を想像してしまい、ずきりと胸の奥が痛む。それに息を詰まらせていると、ふとカイトが振り返って眉を寄せる。


「大丈夫か? フィア。なんだか様子が変だが――」

「い、いえ、問題ありません。少し緊張しているせいかも」

「そうか――まぁ、今回は僕も同席している。さっきよりは気を抜いて大丈夫だ」

「カイト様を守るのに、気が抜けるはずがありませんよ」

「それもそうか。ありがとう、フィア」


 そう言いながらカイトはフィアの隣に並び、頭を撫でてくれる。何度も撫でてくれる手は優しくて嬉しくて――だけど、今は素直に喜べない。


(カイト様は、どう考えているのですか? 私たちのこと――)


 そんな問いが口から出てきそうになり、フィアは口を堅く噤む。

 そんなことを問うても、きっと彼を困らせるだけだ。

 カイトは主人、フィアとローラは従者にしか過ぎない。

 それにそんな発言をしたら、きっと彼に気を遣われてしまう。この居心地のいい関係性が崩れてしまうかもしれない。

 だから、フィアは少しだけカイトの方に距離を詰め、頭を撫でることをねだる。

 彼はそれを察し、より丁寧に優しく頭を撫でてくれた。

 フィアはそれに満足しながらそっと吐息をこぼし。


 己の気持ちを直視しないように、心に固く蓋をした。

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