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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第四章

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第1話 東部に棲むエルフたち

エルフ視点

 カイトたちが暮らすダンジョンがある迷いの森――。

 その東方へ離れた場所は一際深い森になっており、そこに隠れるようにしていくつかの集落が存在していた。木々と共に生きるエルフたちの住処である。

 彼らは木々から魔力を得ることができ、その恵みで暮らしている。

 そのため、高密度で木々が生えている迷いの森東部には代々、多くのエルフが暮らしている。


 だが――その環境に、ある異変が起きようとしていた。


「ムーディの集落も、やられたそうだ。族長」

「……そうか。ついにそこまで」


 木を活かす形で作られた、エルフ特有の建築――ツリーハウス。

 その一つでエルフたちは集まり、深刻そうな顔つきで話を続けていた。族長に報告をあげたエルフは殊更神妙な顔つきで言葉を続ける。


「生き残りはほとんどいないらしく、集落も焼かれた。足跡から見ても間違いなく、人間たちの仕業だろう。東部の集落は戦々恐々としていて、集落を捨てるエルフも出てきた。この前、この集落に逃げてきた奴もそうだったな」

「畜生、人間風情が――っ」


 エルフの一人が憤りの表情で床に拳を叩きつける。他の面々も怒りを抱える様子に、そこに参加する銀髪の女エルフ、ソフィーティアは視線を伏せさせる。


(無理もない――これで五つ目だ)


 十数年前に迷いの森東方に大規模な街が興って以来、人間たちは迷いの森に足を踏み入れ、自然を荒らし始めていた。始め、エルフは静観していたものの、次第にそれが拡大。エルフの集落まで接近したため、撃退せざるを得なくなっていた。

 それによって、エルフの存在が露見したのだろう。ここ最近は集団でエルフの集落を狙う人間が現れ始めた。捕えて拷問したところ、エルフを奴隷として売買するために狙っていたことが明らかになった。

 エルフたちは集落間でその情報を共有し、連携して集落を守るようにしたのだが――。


(百人、二百人と攻められれば、さすがに抗し得ない――)


 さらには夜闇に乗じて攻め入る、子供を人質に投降を迫るなど、卑劣な手段を講じており、それによって一つ、また一つと集落が潰されている。

 そして、同時に森は徐々に燃やされ、人間たちによって拓かれているのだ。


(……許しがたい……っ)


 神聖なるエルフの森が、土足で踏みにじられている。そのことにソフィーティアは肚の底を煮え立たせていると、一人のエルフが不安げな顔つきでおずおずと手を挙げた。


「我々は、どうするべきでしょうか。今にもムーディ殿の集落を潰した人間たちの魔の手が迫っています。現に集落周辺には怪しげな足跡が確認されています」

「決まっている。先祖代々の土地だ。守り抜くしかねぇだろう……!」

「そうだ。実際、何度か人間どもを退けている。できるはずだぜ!」


 エルフたちの半数以上が鼓舞するように声を上げる。

 だが、一部のエルフは無言を保っている。ソフィーティアは彼らを代表するように、静かに声を上げた。


「ただ、人間たちは卑怯な手段も辞さない。それを前にムーディたちも敗れ、女子供は連れ去られた――我々がそうならない保証はどこにもない」


 その言葉に強気の発言をしていたエルフはぐっと言葉を詰まらせる。

 そう、ムーディの集落は人間たちに滅ぼされてしまった。彼らはエルフの誇りを胸に、森を守ると誓っていたのだが――。

 そして、同じ運命を辿る可能性も、少なくはない。


 そこで話に耳を傾けていた一人のエルフが手を挙げる。集まったエルフの中で一番、年老いているが、その瞳にははっきりとした光が宿っている。

 自然と発せられる威圧感――その場にいる全員が背筋を伸ばし、老エルフを見る。彼は注目を集めると、ゆっくりとした口調で告げる。


「それぞれの意見、よく分かった。我々エルフの誇りにかけて、人間たちにこの森を汚されることは断じて許すことはできない。そういった気持ちが皆にはあろう。だが、ソフィーティアの言うことも一理ある。腹立たしいがこのままでは、人間たちから未来の苗木たちを守れる保証はどこにもない」


 そこで彼は目を閉じて何かに耐えるように深呼吸する。それから目を開けると、全体をぐるりと見渡してはっきりとした声で続ける。


「森を守るよりも、時には血を守ることも重要だ――故に一部のエルフは集落から逃がすべきだろう、と思う。特に女子供は人間に狙われやすい。その無用な被害を防ぐためにも、避難を進めるべきだろう」


 その言葉にエルフたちは無言を貫いた。否定する言葉はあがらず、だが一部のエルフは悔しそうに拳を握りしめ、肩を震わせている。

 それを認めるように長老は一つ頷き、目を細めて告げる。


「無論、この集落に残ることを否定はせん。私もこの地に骨を埋めるつもりだ。例え人間が何人来ようと抗ってみせよう。だが――」


 長老の視線が傍の女エルフに向けられる。長い銀髪を揺らし、切れ長の瞳で見つめ返す彼女はその視線に頭を下げた。


「ソフィーティア、其方には万が一のことを考え、避難の手筈を整えて欲しい」

「避難の手筈、ですか」

「うむ――当然だが、避難先について検討せねばなるまい。最低限、五十名のエルフを収容できるような場所でなければな」

「……確かに他の集落で受け入れてもらうには、厳しい人数ですからね」


 ソフィーティアの言葉に族長は、然り、と頷くと、言葉を続けた。


「風の噂によれば、西の方にはダンジョンがあると聞く。どうにもそこでは人間の大軍を退けたとか。そこも含め、避難に適した場所を見つけてきて欲しい」

「……承知致しました。族長」


 ソフィーティアはその命令に深々と頭を下げる。

 それを見届けると、族長は視線を全体に向けて低い声を響かせた。


「これより我らには苦難な道が訪れるだろう。森は捨てざるを得ないかもしれん。焼かれるかもしれん。だが、木々はまたやがて芽吹き、大樹へと至る――エルフもまた苗木が生きてさえいれば、また森は甦ることができるのだ」


 族長の言葉はもはや集落を捨てることを覚悟しているようだった。

 それと同時に伝わってくる、死への覚悟。それを前にして、その場に座するエルフたちは背筋を伸ばし、その言葉を正面から受け止める。

 誰もが覚悟を決めた顔つきを見せる中、族長は号令を下した。


「皆の衆――ここが正念場だ。各々の務めを全うせよ」

「応!」


 エルフたちは激しい声で応じ、床を拳で鳴らす。ソフィーティアもまた拳で床を叩くと、静かに立ち上がって視線を窓の外に向けた。


(避難場所を見つけ出す任務か――なかなか骨が折れそうだな)


 迷いの森は足を踏み入れた人間は必ず迷うと言われるほどの密林だ。無論、エルフであるソフィーティアは庭のようなもの――迷うはずはない。

 だが、広大であり、同時に強力な魔獣も跋扈している。

 それらを掻い潜りながら、女子供たちを逃がせる場所を探さねばならないのだ。

 それを覚悟しながら、ソフィーティアは思う。


(西のダンジョン……か。果たしてどのような土地なのだろうか)


 そして、エルフの避難場所になり得るのだろうか。

 迫り来る苦難を覚悟し、ソフィーティアは静かに唾を呑み込んでいた。

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