第9話 焼け野原になった森の中で
洞窟の外に出ると、辺りは焼け野原になっていた。
黒焦げになった大地からはまだ白い煙が立ち上っている。まさに戦の後、という様子に思わず顔を顰めてしまう。その中に少し垣間見えるのは人の形を保った消し炭だ。
カイトはそれを見やりながら、小さく嘆息をこぼした。
(――人殺しにも、慣れてしまったか)
最初の頃は夢に出てきて悪夢に魘されることもあった。
だが、寝ているとき、傍にフィアとローラがいてくれることもあり、悪夢はあまり見なくなった。こうして死体を見ても罪悪感はあれど、以前ほど苦痛には感じない。
だからこそ、カイトは無言で手を合わせる。
その死を悼み、供養するために。
しばらくそうしてからカイトは手を降ろすと、後ろから聞き慣れた声が響き渡る。
「――カイト様」
「……ん、フィア」
振り返ると、視界に入ったのはフィア。吹き渡る風に金髪をなびかせ、紅眼を細めながら前に進み出た。その姿はいつもの使い古された服ではない。
「似合っているぞ。フィア」
「そう、ですか? えへへ、嬉しいです」
フィアはそう言いながら小さくはにかみ、ひらりとその場で一回転する。その身体を覆うのは軍服だ。討ち取った敵から手に入れ、それをキキーモラが手直ししてくれた。
少しアレンジも加わり、スカートも相まって、どちらかというと元の世界の学生服にも見える。
(服が手に入ったのはありがたい限りだな――)
正直、もう服がぼろぼろで目に毒な展開が増えていたのである。
下着などはもう擦り切れていて、彼女はもはや履いていない。この前、垣間見たときにはなんと木の葉を下着代わりにしていたのだ。
その状況から解放されるのはありがたい。楽しそうに服を見せてくれるフィアをカイトは目を細めながら見ていると、不意に強い風が吹いた。
「――ぁっ」
小さく声を上げ、フィアは慌ててスカートを抑える。だが、風の悪戯ははっきりとスカートを舞い上げ、その下を露わにしていた。思わずカイトは視線を逸らすと、フィアは真っ赤な顔で睨んでくる。
「……見ました、よね?」
「……悪い、フィア」
「いえ、カイト様なら、大丈夫、ですけど……」
思わず気まずくなって視線を逸らし合う二人。
カイトとしては見えた光景が頭に焼き付いて離れない。そのスカートの下に見えたのは、無防備な下半身で――布は一切なく、葉っぱ一枚で覆われていたのだ。
(手に入れた布で下着を用意するように、キキたちに頼んだつもりだったんだが――)
何故、彼女は履いていないのか。疑問符が絶えない。
だけど、恥じらっている彼女に声を掛けることは憚られる。カイトは視線を泳がせた後、咳払いをして話題を変えることにした。
「これから忙しくなるぞ」
そう言いながら眺めるのは、焼け野原の森。
敵は退けた。魔力も充分得た。だが、その代償は森の恵みだ。これからはそれに頼らずに、魔力を増やしていかなければならない。
「はい。あの後、軽く雨が降ってくれたおかげで被害は抑えられましたが、それでもダンジョン一帯は焼け野原。恐らくこの火事は遠くまで知られたでしょう」
フィアが打てば響くように現状を説明し、視線をカイトに向ける。
「あの軍勢も完膚なきまでに討ちました。軍が戻らなければ、また兵が差し向けられるでしょうね。今度はさらに多く、強い軍勢が」
「ああ、それに備えなければならない――猶予はどれほどか分からないが」
子爵家が充分兵力を備えていれば、すぐに軍を寄越してくるだろう。
だが恐らくすぐではない。軍を組織するにも時間がかかる――その間にダンジョンを守り切るための戦略を練らなければならない。
(――できるだろうか)
わずかに不安が過ぎる。だが、横にいるフィアは真っ直ぐな眼差しでカイトを見つめ、微笑みながら手を握ってくれる。
「大丈夫です。カイト様。私もいます。ローラもいます」
「……ああ、そうだな」
そう言いながら表情を緩めて振り返れば、洞窟の出入り口からローラが姿を現すところだった。ぱっと表情を明るくさせ、こちらに駆けてくる少女。
そちらに向かってフィアは歩み出し、カイトの手を引く。
「行きましょう。カイト様――先へと」
「ああ、続けていこう」
このダンジョンの暮らしを――火竜の少女たちと共に。
第三章にてこの第一部は完結になります。




