第7話 侵入者たちの末路
侵入者視点
同刻――洞窟内に取り残されたセシリアは状況を整理し、判断を下していた。
「――恐らく後方は全滅だ。森に火を放たれたのだろう」
セシリアの重苦しい声に、フリーダたちは黙り込む。ここにいる兵たちはセシリアとフリーダを含めて五十名。告げられた状況に信じられないようだ。
だが、反論はない。状況証拠から言って間違いないのだ。
クリスの最期の念話と、漂ってくる煙の臭い――それから大規模な焼き討ちが行われたのは確実だと言える。
(ガーランド、クリス――)
喪った仲間たちのことを思うと、胸がずきりと痛む。だが、セシリアはそれに蓋をすると、気丈な声で告げる。
「敵は想像以上に強大だったようだ。だが、我らに撤退はできない。何故なら、後背では炎が燃え盛っている。それが収まるのを待っていれば、ここの空気も濁っていき、呼吸もままならなくなるだろう。絶体絶命、とも言えるな」
だが、とそこでセシリアは声を張り上げると、兵たちは顔を上げる。
「まだ、我らは負けたわけではない。戦って生き残る術がある――この先に潜んでいる敵を倒せば、まだ希望はあるはずだ」
その言葉に兵士たちの目に光が戻り始める。彼らは視線を行き交わせてから背筋を伸ばし、セシリアを見つめる。その一人一人の目を見つめ返してから、セシリアは最後にフリーダを見つめた。彼女は一つ頷き、壁の方に掌を向ける。
「セシリア隊長――私の魔術で、ここを吹き飛ばします」
「分かった。それと同時に全員突入せよ。五人一組で駆け、向かい来る敵を奇襲で仕留めていく。総員、連携力と実力を活かし、死中に活を求めよ」
「応!」
兵士たちの気勢の声が上がり、総員抜剣する。セシリアも剣を抜いて一つ頷くと、フリーダは深呼吸を一つしてから意識を集中させ――全身から魔力が迸る。
直後、響き渡った轟音と共に土壁が吹き飛んだ。
舞い散る土埃。その中を臆することなく兵士たちが突入していく。その最後列からセシリアとフリーダも三人の兵を引きつれて突入。
土埃を突破し、広々とした空間に足を踏み入れ――思わず目を見開く。
(――っ、これは……っ)
盛り上げられた土塁と濠――地下空間に似つかわしくない、陣地が鎮座している。突入した兵士たちも果敢に突っ込んでいたが、立ちはだかる空堀と土塁に足を止めざるを得ない。直後、その土塁の頂上で、ぬっと巨影が動いた。
岩石の巨人――ゴーレムだ。それが四体動き、腕を大きく振るう。
その手から放たれたのは無数の石礫――咄嗟にセシリアは剣で身を守る。飛んできた石を弾き、致命打を避ける。
だが、全員がセシリアのように咄嗟に防御できたわけではない。数人の兵士は投石をまともに受け、崩れ倒れる。
「体勢を立て直せ! 負傷者は下がって投石の範囲外に!」
セシリアの下知に兵士たちは対応する。倒れた兵士の穴を別の兵士たちが入ってカバー。五人一組を再構築しながら土塁へと果敢に取りつく。
だが、それを待ち受けていたかのように、土塁の障害物の影から小さな人影が姿を現した。その彼らが手にしているのは弓矢――土塁に取りついた兵たちに矢を浴びせてくる。
(くっ……嫌らしい戦術だ……!)
小型の魔獣も、ゴーレムたちも、通常なら一人の兵士でも対応できる。
だが、彼らは陣形を巧みに使い、有利な位置取りから一方的に攻撃してきている。投石と弓矢の飽和攻撃に耐え切れず、一人、また一人と倒れていく――。
その光景にセシリアは歯噛みせざるを得ない。
(こんなの、まるで攻城戦だ……っ!)
用意した兵たちはどちらかといえば、魔獣との戦闘に特化した者たち――こんな土塁を攻略する訓練は一切受けていないのだから。
だが、退くことは当然できない。前に進むしか活路はないのだから。
(こうなったら、一か八かしかないか――)
セシリアはフリーダと目配せしながら駆け出す。
全身に巡る魔力を脚に集中。そして筋力を一気に活性化――直後、彼女の疾走がぐんと加速。一瞬で土塁の下に到達し、地面を踏み込む。
そして、爆発的な勢いでセシリアは跳躍した。
一瞬遅れ、フリーダも同じ方法で跳躍している。二人で土塁を飛び越え、放物線を描きながら剣を構える。目指すは土塁の頂上にいるゴーレムたちだ。
(ゴーレムさえ排除できれば、脅威はほとんどない――押し切る!)
宙を舞うセシリアとフリーダは頷き合い、剣を構えながら着地に備え――。
瞬間、視界一杯に火炎が広がった。
「――っ」
息を呑む。ゴーレムとゴーレムの間、そこで突然、炎が噴き出している。その火炎は見る間に巨大化し、魔獣の姿を形取る――その姿にセシリアは目を見開いた。
そこに鎮座していたのは、ドラゴン。大型魔獣にて、絶望の化身。
そのドラゴンが目を爛々に輝かせ、牙を剥き出しにしている。それを前にして、セシリアとフリーダは未だ中空。回避もままならない。
迫り来る死の気配に、セシリアは乾いた笑みをこぼすしかなく。
直後、振り抜かれた爪がセシリアの身体を引き裂いていた。




