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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第三章

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第2話 想定外の要素

フィア視点

『フィア、ローラ、すぐに戻れるか。戦略の修正を相談したい』


 その声がフィアの頭に響き渡ったのは、前回の襲撃から五日経った日だった。

 つまり、カイトから指示を受けた四日後であり、最速の場合、明日にはダンジョンに攻め入られる。だとすれば、一刻の猶予も惜しいはずだが――。

 フィアは汗を拭い、腕の火竜化を解きながら念話を返す。


『分かりました。すぐに戻ります』

『もちろん、私も――あ、姉さま、合流するね』


 その声と共に翼をはためかせる音が頭上から響き渡る。顧みれば、ローラが籠を持って着地するところだった。翼を一打ちすると、すぐに火竜化を解く。

 ローラは一息ついてから辺りを見渡し、軽く目を見開いた。


「上から見て分かっていたけど――大分、木を伐り倒したね。姉さま」

「ええ、ある程度バリケードになるように寝かせています」


 そう言いながらフィアも辺りを見渡す。その森の様子は明らかに一変しており、半分以上が伐られ、行く先々を防ぐように横倒しになっている。

 まだ根を張っている木々と絡み合うことで、強固なバリケードになっている。


「ここを進むだけでも、二日は掛かるでしょうね。カイト様の戦略に貢献できること、間違いないでしょう」

「そうだね。姉さま――私もたっぷり卵を回収してきたし」


 そう告げたローラは籠を差し出す。その中にはいっぱいの卵が詰まっている。


「食糧事情は大丈夫そうだね。一ヵ月でも耐えられそう」

「そうなると逆に食料が傷んでしまいそうですね……」


 フィアは苦笑を一つ浮かべてから視線を洞窟の方を向けた。


「それよりもローラ、急いで戻りましょう」

「うん。何だろうね、戦略の修正って」

「そうですね……考えられるのは、想定外の事態が起きたことでしょうか」


 準備自体はフィア、ローラ以外も順調に進めているようだ。シャドウウルフも斥候として放たれ、情報収集しているはず。


(その過程で、何かあったのでしょうか……?)


 フィアとローラは顔を見合わせてから、どちらからともなく早足で洞窟内に足を踏み入れる。敵を待ち受ける虎口を抜け、蛇行するように続く洞窟を足早に抜ける。

 長い距離を抜け、最後に土塁を乗り越えて、奥に進んで石室に辿り着く。

 そこではカイトが胡坐を組んで座り、難しい顔で地図を見下ろしている。いつもの優しそうな面持ちはなく、余裕がなさそうに感じられる。


「――カイト様?」

「お呼びに応じて参上、だけど……?」


 フィアとローラが揃って首を傾げると、そこでようやくカイトは気づき、小さく苦笑を浮かべた。


「ああ、ごめん。少し考え事をしていて」

「大丈夫です。戦略の修正と聞きましたが――」

「ああ、少し想定外なことがあってね」


 カイトはそう告げると壁に寄りかかって深呼吸。それから二人を見ながら訊ねる。


「良い知らせと悪い知らせ、どちらが聞きたい?」


 その言葉にフィアとローラが顔を見合わせる。ローラが軽く首を振るので、フィアはカイトに視線を戻して一つ頷いた。


「では、良い知らせから」

「シャドウウルフが森に入ってくる軍隊を捉えたが、その進軍速度は著しく遅い。三日から四日は掛かると計算している」

「なる、ほど……」


 確かに迎撃までの猶予ができたことやシャドウウルフたちが役目を果たしていることは良い知らせと言えるだろう。だが、それにしてもカイトの表情は芳しくない。


(余程、悪い知らせなのでしょうか……)


 フィアは唾を呑み込み、続きを促す。


「では、悪い知らせは?」

「数は約三百。しかも工兵部隊らしき存在もある」

「三百……!」

「それに、工兵……ですか?」


 驚くべき数字と、聞き覚えのない単語。

 それにフィアとローラは目をぱちくりさせると、カイトは力なく笑った。


「平たく言うと、工事専門の部隊だ。僕たちが組んだ陣地を作るのに特化した部隊――といえば、分かりやすいかな」


 その言葉にローラは頷きながらも曖昧に首を傾げている。それのどこが悪い知らせなのか、分かっていないのだろう。フィアもいまいち実感はない。

 だが、少し考え込んで、はたと気づく。


「待ってください。陣地を作るのに特化した、ということは――もしかして、破壊も?」

「ご明察だ。連中は背負子や猫車らしい荷車で工具や資材を持ち込んでいる。やたらと足が遅いのはそれが原因だ。現に森を伐り拓きながら進軍してきている」


 カイトは忌々しそうな口調で言い、額を押さえていた。フィアとカイトの声にローラは息を呑み、後ろを振り返った。


「ってことは、あの陣地も――?」

「ああ、着実に破壊される可能性がある。それどころか、もっとヤバい事態も考えられる」


 カイトはそう言いながら指で天井を示し、言葉を続ける。


「一番考え得る最悪は――洞窟を無視し、直上から無理やり掘り進められることだ」

(そう、か……工兵がいる、ということは)


 これまでフィアやゴーレムたちが散々してきた土の掘り返しを速やかに実施できるということ。その手段を取られたら、陣地はほとんど機能を全うしない。

 ダンジョンコアは無防備な状況に晒されるのだ。


「物資から見ても腰を据えた戦いを念頭に置いている。こうなると籠城は悪手でしかない――打開するための策を考えているんだが……」


 そう告げるカイトは焦りを滲ませ、苦しそうに吐息をつく。眉を寄せると、彼は地図を指先で叩きながら小さく声を続ける。


「工兵だけを叩くか? それには本体と分離させる必要がある――やはり、支城になる砦を気づいて援護させる……間に合うか? それにそっちが先に叩かれたら……くそ、時間も人数も足りない、一体どうすれば……っ」


 それはフィアにとって、今までに見たことのない姿だった。

 だが、よくよく考えてみれば、まだカイトとフィアが出会って二か月と一週間しか経っていない。それでありながらずっと一緒にいたように濃厚な時間を過ごしてきた。


(……カイト様……)


 いつも優しく接してくれ、柔らかい物腰で、仕方なさそうに笑う彼。

 穏やかな一面の中にも、時折容赦なさを見せることもあり、それに驚いたこともあった。そんな一面のように、フィアはまだ彼のことを充分に理解したとは言えない。

 だけど――もっと理解していきたい、と思う。

 そして、彼をもっと支えていきたい――そう自然と思えていた。

 気づけば、フィアはそっと彼に歩み寄り、傍に膝をついて手を伸ばす。顔を上げた彼の頬に手を当てると、彼女は真っ直ぐに彼の目を見つめる。


「大丈夫です。カイト様。私たちがいます」

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