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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第三章

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第1話 タイムリミットは5日

「近いうち――早くて五日以内にこのダンジョンを討伐するべく、バーンズ子爵家の領邦軍が差し向けられる。恐らくその数は百人以上になる」


 侵入者を撃退し、ジェシカを生け捕ったその翌日――。

 ダンジョン最奥の石室にカイトはフィアとローラを集め、その確信を口にしていた。その言葉に彼女たちは言葉を失い、顔を見合わせている。


「……事前に少し聞いていましたが……」

「兄さま、それは本当……? 間違いない……?」

「ああ、ほぼ間違いない。多少、誤差はあるかもしれないが」


 最初の尋問から時間を置いて数度、ジェシカから尋問を繰り返し、確かめていた。

 彼女は投げやりであり、誘導尋問をするまでもなく、素直に様々な情報を受け答えしてくれた。仲間のことだけは教えず、憎しみの眼差しを向けてきたが――。


「バーンズ子爵家の情報、その本拠の街からここまでの距離も大体、聞き出せた。それらの情報から加味した判断だ」

「確かですか? 嘘をつかれている可能性も――」

「細かい部分には嘘があるだろうが、大軍が攻めてくるのは事実だろう」


 そう言いながらカイトはノートを取り出して広げる。

 そこには簡単に街と森、そしてダンジョンとの位置関係が記されている。フィアとローラはそれを覗き込むようにし、似たような顔で唸り声を上げる。


「――距離的には大体、三日かな。姉さま」

「そうですね。それで仮に今日戻ってこないことが判明して、出陣の準備をするのに三日かかるとして……」

「いいや、軍となれば準備はもう少し早い。二日で出陣すると考えた」


 だからこそのタイムリミットが五日以内。

 それまでにカイトたちは迎撃の準備を整えねばならない。

 ローラは顔を上げると、不安そうな眼差しでカイトを見つめて訊ねる。


「兄さま、どうするの……?」

「どうするもこうするも、迎撃するしかないでしょう。ローラ」


 叱咤してくるフィアに対し、ローラは床に座り直しながら半眼を向ける。


「それは分かるけど。でも姉さま、数は百以上いるんでしょ? それを無策で迎撃するなんて、脳筋がやることだと思うんだけど」

「ぐ……だ、誰が無策だと……」

「じゃあ、何か考えがあるの? 姉さま」


 ローラの問いかけにフィアは言葉を詰まらせ、視線を泳がせ――やがて、カイトの方を縋るようにおずおずと見てくる。カイトは思わず苦笑をこぼし、フィアの頭に手を置いた。


「大丈夫だ。フィア。一応、考えはある」

「――だ、そうですよ。ローラ」

「姉さまが自慢げに言うことではないと思いますけど」


 自信なさげだったのが一転、見事なドヤ顔を決めるフィア。それにローラは深くため息をこぼしていたが、やがてカイトを見上げて首を傾げる。


「兄さま、それで今回の戦略は?」

「ああ、ローラが言ったように百以上、しかも正規軍を正面から受け止めるのはよろしくない。一方で、昨日使ったフィアとローラに後背を衝かせる奇襲もあまり効果がないだろう。だから、今回はダンジョンの陣地を全面で使用して迎撃する」

「それは、地下空洞の土塁も使って、でしょうか?」

「もちろん。今回、フィアとローラは最奥で待機してもらい、体力を温存しながら戦ってもらう。つまり、完全な持久戦になることを予測している」


 つまりは、籠城戦だ。カイトはフィアとローラを見て頷いてみせる。


「大丈夫。あの土塁はガチガチに組んであるから、百人規模の攻撃も耐え切れる。それ以上が攻めてこようとしても、洞窟は狭いから一度に大量に入って来られない」

「つまり、私たちが立てこもっている限りは負けない、ということですね……!」


 フィアが表情を明るくさせて頷き、うんうん、とローラも夢中で頷いてくれる。


「さすが兄さま! まさに稀代の軍略家!」

「それは言い過ぎだよ。歴史上の軍略家に怒られちまう」

「カイト様の世界ではそうかもしれませんが――ダンジョンに陣地という概念を持ち込んだのはカイト様です。素晴らしいお考えだと思いますよ」


 称賛するフィアとローラに面映ゆくなってくる。カイトは軽く手を振ってから、とにかく、と話の矛先を逸らす。


「籠城戦は事前の準備が肝心だ。食料や物資の調達に、陣地の補強を行わないといけない」


 その言葉に二人は真っ直ぐな視線で頷いて見せた。フィアは胸に手を当てて頭を垂れ、ローラは拳を胸の前で握ってやる気を見せる。


「何なりとお命じ下さい。カイト様」

「私たちが全力でお手伝いするから……!」

「ああ、頼りにしている」


 頼もしい二人の言葉にカイトは頷き、まずフィアを見て告げる。


「幸いにも、今回の迎撃で魔力は充分補給できた。ゴーレムを数体増やすから、フィアはそれを率いて木材や泥炭の回収を頼む。もう隠蔽は考えなくていい」


 その言葉にフィアはすぐに理解を示し、真紅の瞳を光らせて訊ねる。


「では、もう木を選んで狩る必要はない、ということですか?」

「そういうことだ。どうせ森全体に攻められたら居場所は割れるのは時間の問題だし。できるなら、木でバリケードを作るくらいに伐り倒してくれ」

「ふふっ、思いっきり暴れていいんですね。大得意です」


 意気込んだフィアに微笑みかけ、カイトは言葉を付け足す。


「燃料になる泥炭も念のため、できる限りゴーレムに収集させるように」


 地中に潜れるゴーレムは地下資源を採集するのにはもってこいだ。現在、台所の竈の燃料や、冷える夜のストーブ用に使っている。


(石油とかなら、火計に使えるんだが――)


 ないものねだりをしても仕方ない。カイトは思考を切り替えてローラを見る。


「ローラは森の幸や卵を回収。取っておいた芋や果実も全部回収してくれ」

「了解っ。魚もやっとくね!」


 心得た様子でローラは手を挙げる。その溌溂とした笑顔に釣られてカイトは笑って頷く。


「僕はフィアたちが回収した木を、キキーモラたちと一緒に加工する。逆茂木はいくらあってもいいからな。シャドウウルフは偵察に向かわせ、いち早く接近を察知できるようにする」


 カイトの言葉に頷き、フィアとローラは同時に立ち上がった。


「なら、一刻も早く行動しないとね」

「ええ、森を丸裸にするくらいに行動しましょう……!」

「フィア、防衛を意識できる程度には木を残すんだぞ」

「わ、分かっています……! 物の例えです……!」


 カイトが茶々を入れると、フィアが頬を膨らませ、ローラが楽しそうに笑う。その雰囲気に少しだけ和みながら、カイトは笑いかける。


「焦らなくてもいい。怪我せず、的確に仕事をしてくれ。いつも通り、夕方に返ってきてくれれば、みんなでご飯の時間だ」

「はいっ」「うんっ」


 二人が元気よく応じ、石室を後にする。それを見届けてからカイトは長く吐息をこぼして視線を落とす。その視線の先にあるのは地図が描かれたノート。

 事細かにメモを残し、見落としがないように進め、万全を期しているが――。


(陣地も万全じゃない。弱点もある)


 それを衝かれれば陣地は直ちに無力化される。

 それ以外にもこの世界には魔術も存在する。あくまでこの陣地は対人戦を想定して組み上げたもの――魔術は想定に入れていないのだ。

 不確定要素は絶えない。カイトは不安を抱えながらも首を振り、前を向く。


(どうであれ、今は最善を尽くすしかない。人事を尽くして天命を待つしか――)


 そして、弱点を衝かれないことをただひたすらに願うしかない――。


 だが、数日後、カイトの祈りはいとも容易く打ち砕かれることになる。

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