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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第二章

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第11話 手に入れた情報

「カイト様、ローラは預かります。少し落ち着かせますので」


 腰砕けで動けそうにないローラ。それにため息をこぼしたフィアは、仕方なさそうに両手を差し出す。


「その間にすみませんが、冒険者の亡骸と遺留品の確認をお願いできますか?」

「そうだな。やっておく。ローラのことは任せた」


 カイトの腕の中でくたっと力を失っているローラの身体はあまりにも熱い。いろんな意味で少しやり過ぎたのかもしれない。

 フィアはその身体を受け取り、横抱きにして抱えると、声を掛けながら洞窟の方に向かっていく。それを見届けていると、ふと袖がくいと引かれた。

 視線を向けると、そこにはキキーモラのリーダー、キキがこちらを見上げている。


「ん……ああ、あっちに亡骸をまとめてあるのか?」


 キキはこくこくと頷き、袖を引いてくれる。それに従ってカイトは洞窟の入り口から少し離れた場所に向かう。そこは二体の火竜が動き回った爪痕が大地に残されており、キキーモラたちがそれを消すべく丹念に動いていた。

 その一角に並べられた四体の亡骸――それには丁寧に武器と共に並べられている。フィアが配慮してくれたのか、その姿は葉っぱで覆われていた。その傍らの切株には彼らの持ち物らしく遺留品がまとめられている。


(――正当防衛とはいえ、やはり気分は悪いな。人が死ぬというのは)


 カイトはその前で手を合わせる。しばらく黙とうを捧げてから視線を上げると、傍にいたキキも手を合わせて一緒に祈ってくれていた。

 それから気遣うような眼差しでこちらを見上げてくる。それに笑いかけながら、ありがとう、と囁いて頭を撫でた。それにキキは機嫌良さそうに応じてくれる。


 しばらくキキと戯れてから、カイトは視線を亡骸に戻して手をかざす。

 コアに取り込むように意識すると、土に包まれていく。その中で立てる湿り気を帯びた、何かが潰れるような音から意識を逸らし、近くの切株に置かれたものを見る。

 侵入者たちの遺留品。剣や短刀、杖、あと革製の鞄など――。

 損壊が少ないものが丁寧に並べて置かれている。


(短刀や剣は刃物として使い道があるな。杖は保管で、鞄の中身は――)


 鞄を開き、中を検める。薬草や手紙、紋様が書き込まれた石など。いろいろなものが雑多に入っている。その中の手紙を開き、中の文字に目を走らせる。


(――やっぱり日本語ではないか)


 カイトの言葉が通じているから、公用語が日本語かそれに類するものだと期待していたのだが、残念ながらそうではないらしい。

 見覚えのない文字が並んでおり、解読はできない。

 カイトは小さく苦笑しながら、ふと最後に刻まれた文字列を見る。

 その末尾には何か印が押されている。見覚えのある印――。


(そうだ、あのとき見た指輪――)


 前回、侵入してきた四人組。彼らの装備品にこの印がついていた。

 奇妙な共通点。嫌な予感が暗雲のように立ち込めてくる。カイトはその手紙を手にして洞窟を振り返ると、脳内に声が響き渡る。


『カイト様、今よろしいですか?』

『ああ、フィア、大丈夫だけど』

『捕らえた侵入者が目を覚ましたようです。尋問しますか?』

『ああ、もちろん』


 すぐにでもこの手紙の内容は確かめなければならない。


(悪い予感が外れてくれればいいんだが――)


 そう思いながらキキに遺留品の整理を任せて、カイトは洞窟に向かった。


   ◇


 洞窟内は以前は一本道だったものの、改良の過程で敵を惑わすためにいくつか分岐を設けている。

 その分岐の一つの先まで進んでいくと、フィアが手を振って出迎えてくれた。


「こちらです。カイト様」

「お待たせ、フィア」

「いえ――それよりもこちらです。カイト様」


 フィアはそう言いながら少し先にある地面の穴を指差す。ぽっかりと空いた穴を覗き込めば、その底に一人の女が膝を抱えてうずくまっていた。


(深さは……五メートル、くらいか)


 さすがにそれだけ高さがあれば出るのも困難だ。よく考えられている。


(それに――壁にはレムがいる、か)


 視線を壁に向ける。そこでは信頼するゴーレムがいる気配がする。レムが地中に潜れることを活かして、見張りをしているらしい。

 特段、指示したわけではないが、見事な采配で侵入者を無力化している。


「よくやった。フィア」

「いえ、カイト様がするであろう処置を真似してみました――合っていましたか?」

「大正解。いや、正解以上かも」


 カイトが褒めながら彼女の頭を撫でると、えへへ、とフィアは緩んだ笑みを見せる。しばらく撫でてから、カイトは視線を穴の下の侵入者に向ける。


「さて――尋問か。一旦、降りないといけないかな」

「カイト様、それはさすがに危険です。やるならば、私が代わりに――」

「いや、僕が行く。聞きたいことがいろいろあるんだ」


 それに、とフィアを見て笑いかけながら言葉を続ける。


「フィアがいてくれる。もちろんレムも。その状況で危険があるとでも?」

「――ずるいです。カイト様。そう言われると止められません」


 唇を尖らせるフィアは拗ねたように拳で胸を叩いて言う。


「……分かりました。ただ、魔力を少しでも感じたら、レムに命じてカイト様を引き上げさせます。その際、手荒になっても文句を言わないでくださいね」

「分かっている」


 カイトの言葉にフィアは仕方なさそうにため息をつくと、手を叩いた。それを合図に地面が盛り上がり、岩石の掌が姿を現す。レムの手だ。

 カイトがそれに乗ると、レムの手は地面をゆっくりと動き、穴の中へと安全にゆっくり降ろしてくれる。穴の底にカイトが降り立つと、膝を抱えた女は視線を上げた。

 茶髪を三つ編みで一本に結った大人の女性だ。目には力がなく、顔も土で汚れてしまっている。小さくため息をつくと、彼女はぼそりと告げる。


「――私を生かして何のつもり?」

「聞きたいことがあるから生かしている、と言ったら納得してくれるか?」

「そう。でも答える気はないわ。どうせ答えても殺すんだから」

「それなら手っ取り早く拷問とかするぞ。僕は」


 そう言いながらカイトは地面に腰を下ろし、胡坐を掻いて女の目を見据える。


(――戦意は、ないな。多分、勝てないことを分かっているんだろう)


 それでも、彼女にとってカイトたちは明確な敵だ。彼女の仲間を手に掛けている。そんな相手に彼女は情報を提供してくれるとは思えない。

 とはいえ――交渉次第ではもしかしたら、何か聞き出せるかもしれない。


(こういう尋問の経験はないが――できる限り、やってみるか)


 カイトは深呼吸を一つし、女の目を真っ直ぐに見て訊ねる。


「信じられないかもしれないが、僕はあまり殺しは好まない。だから素直に話してくれれば、少なくとも命と食事は保証する。場合によっては解放してもいい」


 その言葉に女は鼻で笑い、嘲るような口調で言う。


「ダンやスライ――私たちの仲間を殺したのに?」

「攻めてきたのはそっちだ。正当防衛だな」

「それで私は生かして捕えた?」

「それは偶然だな。もしくは仲間たちのおかげか」


 その言葉に彼女は微かに顔を背け、表情を歪める。

 フィアの話によれば、彼女は盾持ちの男に庇って突き飛ばされ、フィアの直撃を免れたのだ。つまり、自分一人だけ生き残ってしまった――。

 その気持ちは察しても余りある。カイトは軽く首を振りながら言葉を続ける。


「いずれにせよ、情報を話すなら生かす。話さないならこの穴倉で放置させてもらう。そちらに取れるのは二者択一だ。生きて帰りたいなら、全部話すんだな」


 女はカイトの声に無言だったが、やがて億劫そうに口を開いた。


「……そう。ちなみに何を聞きたいの」

「……話してくれるのか?」

「私に選択肢はないじゃない。あるとすれば、干乾びて死ぬか、話して死ぬか――それなら少しでも楽に死ねそうな方を選ぶわ」


 そう告げる彼女の口元は自虐するように歪んでいた。カイトは困惑を滲ませながら、少しだけ頬を掻く。


(――殺すつもりは、本当にないんだがな)


 だが、勘違いしてくれるなら好都合だ。カイトは咳払いして訊ねる。


「じゃあ、まず何者か――名前を聞かせて欲しい」

「……ジェシカよ。冒険者をやっているわ」

「ジェシカ、この森に来た理由は?」

「依頼のため」

「何の依頼だ? もしかして、これか?」


 そう言いながらカイトは持って来た手紙を軽く振って見せる。それを見てジェシカは苦笑いをこぼし、一つ頷いてみせた。


「それを見たなら分かっている癖に。そうよ、私たちの目的はバーンズ子爵家三男が行方不明になった原因を探ること。その先でここを見つけた、ってわけ」

(……やはり)


 前回の侵入者は只者ではなかったが、それもそのはず、貴族とその護衛だったのだ。だからこそ、あんな金目の装備を持っていた。

 そして、彼女たちはその貴族の行方を探り、ここに行きついた、ということだ。


(となれば、他の依頼を受けた者――冒険者が来る可能性が高い。いや……)


 嫌な予感は徐々に確信へと繋がっていく。真剣に考え込むカイトを前に、ジェシカは憐れむような視線を向けてくる。


「子爵家はいろんな冒険者に依頼を出して、息子が行方不明になった原因を探っているわ。その中で『迷いの森』を調査していた私たちが帰って来なければ、どうなるかしらね?」

「子爵家子飼いの人間――部隊が、派遣されてくる、か」


 カイトの言葉に返ってきたのは、ジェシカの哄笑だった。


「あははっ、そうよ! しかも子爵家の持つ軍隊、領邦軍はダンジョン狩りの経験が豊富なの。あんたたちなんか、ひとたまりもなく終わるわ――間違いなくね。あははははっ」


 狂ったように笑い声をあげるジェシカ。それに思わずカイトが面食らっていると、ひらりと横にフィアが降り立ち、カイトを庇うように立つ。


「大丈夫ですか。カイト様」

「ああ、問題ない」

「……不気味ですね、この女」


 フィアが眉を寄せ、薄気味悪そうに見る。ジェシカは腹を抱えて笑い転げている。その笑い方はあまりにも虚ろである。


(……心が病んでしまった、かな)


 こうしてすんなり答えてくれたのは、仲間を失ったことでもう心が打ちひしがれ、絶望していたからかもしれない。そうなれば、いっそ殺すのも慈悲だ。

 だが、約束は約束――カイトはフィアに告げる。


「有意義な情報は提供してもらった。きちんと三食は届けるように」

「――生かしておくので?」

「それが約束だ。それすら守れないような男には、なりたくない」


 カイトの断固とした言葉に、フィアは目をぱちくりさせていたが、やがて感じ入ったような眼差しで頷き、胸に手を当てて頭を垂れる。


「敵にすら約定を違えぬその姿勢――さすがです。カイト様」

「僕としては当然なことだよ。戻ろう。フィア、レム」


 声をかけると土の中から掌が出てきて、カイトとフィアを掬い上げる。そのままゆっくりと穴の外に運び出されながら、フィアはカイトを振り返る。


「それでカイト様――有意義な情報とは?」

「ああ……あまりいい知らせではないよ」


 カイトは顔を顰めながら穴の外に足を踏み出す。未だにジェシカの笑い声は響き渡っており、反響して不気味だ。彼はため息を絞り出してから、言葉を続ける。


「もうすぐこのダンジョンに、大軍が襲撃する」

第二章はここまで。第三章はいよいよ大軍を迎えることになります。

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