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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第二章

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第10話 独断専行のお仕置き

 ダンジョンの防衛は人的被害がほとんどなく達成できた。

 侵入者たちは虎口の防衛機構と火竜たちの登場に浮足立ち、満足に反撃することができなかった。一人の取り逃がしとローラの独断があったものの、結果的に全員を無力化。ダンジョンの平穏を保つことができた。


「ちなみに一人は気絶しただけで軽傷だったため、生け捕りにしています」

「……本当に? 驚いたな」


 森の一角。切株に腰かけたカイトは正面に立つフィアから報告を聞いていた。目を丸くするカイトに対し、彼女はこくんと頷いた。


「盾の戦士は叩き潰される前に魔術師を突き飛ばしたようです。彼女についてはこのまま始末することも考えましたが、カイト様の判断を待った方が良いと思いました」

「ちなみに、今はどんな状態?」


 カイトが訊ねると、フィアは髪の毛を風で揺らしながら答える。


「現在、意識はありませんが、厳重に縛り上げた上でレムが監視しています――これでよろしいですか?」

「ああ、その判断は正しいよ。フィア。生け捕りできたのは僥倖だった」


 カイトたちが今、不足しているのは圧倒的に情報だ。そういう意味では侵入者は森の外の情報を持っている貴重な情報源である。


(どうやってそれを吐かせるかは難しいが……上手くやるしかないだろう)

「撃退は完了した。ただ、問題は――」

「はい、問題はこれですね」


 カイトとフィアは視線を森に向ける。その視界に入ってくるのは根こそぎ倒された木々の数々――荒れ果てた森の惨状だった。


「ローラ、派手に暴れてくれましたねぇ」


 フィアが半眼をカイト――その背に向ける。ちら、と振り返ると、カイトの背に隠れるようにして、ローラが申し訳なさそうな顔をしている。


「ううぅ……ごめんなさいぃ……っ」


 泣きそうな声にカイトは小さく苦笑し、手を後ろに回して頭に手を置いた。


「やってしまったことは仕方ないよ。ローラ」

「……まぁ、それもそうですが、カイト様、これはどうしましょうか。さすがにこれだけ荒れていると原状復帰は難しいと思います」

「そうだな。となると、人目にもつきやすくなるな」


 今までは木々や茂みで覆い尽くされており、ダンジョンの発見はかなり困難だった。木々を伐るときも不自然さが出ない程度に留めていたのだが。

 ローラが暴れた後は生々しく森に刻まれている。近くで人が通り掛かれば不審に思うことは間違いない。つまり、ダンジョンが発見されやすい現状だ。

 ただ、カイトはあまりそれを悲観視していなかった。

 懸念を示すフィアに対し、穏やかに笑いかけながら声を掛ける。


「まぁ、いずれはここにダンジョンがあることは露見するんだ。それが遅いか早いかの違いであって、大きな戦略が変わりない。引き続き陣地を強化し、防御力を高めていく」

「――分かりました。カイト様の仰せに従います」


 カイトの言葉にフィアは真剣な表情で頷きつつも、ですが、と強く言葉を続ける。


「常々思っておりましたが、カイト様――ローラに甘すぎます」

「……そうか?」

「はい、今も甘やかしておりますし」


 その言葉に気づいてみれば、カイトはローラの頭を撫で、彼女はご満悦そうにごろごろと喉を鳴らしている。フィアの険しい視線に気づき、ローラは息を呑んで背筋を正す。

 それを見てフィアは小さくため息をつき、カイトに告げる。


「ローラが反省したのであれば、それはそれで良いでしょう。とはいえ、組織として示しはつけるべきだと思います。信賞必罰を明らかにすべきです」

「む……それは、確かに」


 フィアの言葉は一理ある。

 今はフィアとローラを中心に和気藹々と組織を構築しているが、今後ダンジョンの規模が大きくなれば、きちんと統制を取る必要がある。

 必要に応じて決まり事――場合によっては法も定めねばならなくなる。

 その上でカイトが一人を甘やかしていれば、不和が生じることは間違いないだろう。


(とはいえ、今回は別に構わない気がするが……)


 どうしたものか、とカイトは首を傾げていると、ローラが前に進み出て口を開いた。


「兄さま――私もそう思う。きちんと私は罰を受けるべき」


 彼女はいつになく真剣な顔つきであり、目の前に膝をついてカイトを見上げる。


「思えば、自分の力に慢心して、優先するべきマスターである兄さまの言葉をないがしろにしていたと思う。そんな悪い子にはきちんと兄さまが罰を与えるべきだよ」

「……ローラ……だけど……」

「よく言いました。ローラ。それでこそ我が妹です」


 フィアは頷きながら厳めしい声で言うと、カイトを振り返って告げる。


「では、カイト様――体罰の準備をします」


   ◇


(――言っていることは分かるけど、何故こうなるのか)


 カイトは途方にくれながら、目の前の光景にため息をつく。

 そこは洞窟の出入り口付近の木――その立派な枝の下で、一人の少女が両手を縛られ、吊るし上げられた状態で立っていた。

 言わずもがな、今回、独断専行を犯したローラである。

 罰を受け入れると宣言したものの、身動きが取れない姿にローラはやや不安そうだ。それを遠巻きに見守るのはシャドウウルフやキキーモラたち。

 その傍に立つフィアが厳しい顔つきで告げる。


「今回、ローラは主であるカイト様の命に従わず、独断専行に走りました。これはカイト様を危険にさらすことに繋がる重大な罪です。よって、ローラは罰を受けています――さぁ、カイト様、容赦なく懲らしめて下さい」

「……ああ、そうだな」

(ここまで来たら、きちんと示しをつけないとな……)


 みんなの目がなければ内々で済ませたことにもできる。だが、もう魔獣が集まり、この行く末を見守っているのだ。ここで生半可で済ませてしまえば、魔獣たちが甘い罰だと認識して、独断専行に走りやすくなってしまう。

 ならば、ローラには悪いが、とことん見せしめになってもらうしかない。

 カイトは深呼吸すると、竹の鞭を手にしてローラに歩み寄った。不安そうな眼差しを向けてくるローラにカイトは声を掛ける。


「――覚悟はいいか?」

「……うん、もちろん……っ、どこでもいいから……!」


 そう言いながらローラは歯を食いしばり、真紅の瞳を滾らせる。その目を見て一つ頷きながら、ローラの後ろに回り込み、軽く鞭を振る。

 ひゅん、ひゅんと音が鳴る鞭。しなりは充分あり、風切り音だけでも迫力がある。

 身を固くするローラの背をしっかりと見据えてから、カイトは踏み込んで鞭を振り抜いた。すぱんと鋭い音が響き渡り、んぐぅっ、とローラが押し殺した悲鳴を上げる。

 もう一度鞭を振るう。風切り音と共に、すぱんと鞭打たれる音。

 激しい音が響き渡り、シャドウウルフたちは身震いし、キキーモラたちも顔を顰める。それだけに風切り音と打たれる音は痛々しい。


(ただ、そういう風に聞こえるように、竹を加工しただけなんだけどな)


 カイトは内心で苦笑をこぼし、ローラに小声で訊ねる。


「――大丈夫か? ローラ」

「ん……っ、痛い、けど……そこまで、じゃないかも……っ、ん……っ」


 すぱんと鞭で打ち放つと、ローラは身を捩る。だが、吐息が荒いだけで辛そうな雰囲気はない。大丈夫そうだ、と判断してカイトはちら、と自分の振るう鞭を見る。

 それは竹の柔らかい部分を加工した簡単な鞭だ。実際に当たる部分は平らにして表面積を広げ、衝撃を和らげつつ、音を大きく鳴るようにしている。

 だからこれは、音が激しく衝撃もそれなりだが、致命的にはならないのだ。


 それに加えて、カイトは叩く場所も工夫している。

 頭や背中を打ってしまえば、脳や鼓膜、脊髄にダメージが入り、後遺症になる心配もあるのだ。だから体の中でも脂肪が分厚く音が鳴りやすい場所を選んで叩いている。

 すなわち――お尻だ。


(そう考えると、お尻ぺんぺんってある意味、理にかなっているんだよな……)


 カイトは思考しながらローラのお尻に目掛け、鞭を横薙ぎに振るう。柔らかい尻と平らな鞭の表面がぶつかり合い、激しい音を響かせ、ローラが悲鳴を上げる。


「んぐっ……っ!」


 すぱん、ともう一打。


「んぁ……くっ……!」


 すぱん、すぱん、と立て続けに二回。


「んんっ――んんんっ……!」


 手首を利かせ、さらに音を響かせて一打。


「んんぁあっ……っ!」


(……ん?)


 今、苦痛の声じゃないものが聞こえたような?

 わずかに眉を寄せ、カイトはローラの顔を見やる。肩で息をつき、身震いする彼女は涙目であり、顔が真っ赤で辛そうなのだが――その瞳が熱を帯びていて、どこか蕩けているような印象を覚えるのは気のせいだろうか。

 目が合うと、どこかぼんやりとした瞳でローラは首を振る。


「まだ――まだ足りないよ、兄さま……もっと、もっとぉ……っ」

「お、おう……」


 突っ込んだらいけないような気がして、カイトは考えるのを止める。そのまま、鞭を振るってローラのおしりを叩き続ける。


「んぁあっ、くぁあっ、あぁっ、ぁああっ、んん――っ!」

(……いや、痛さとは別のものを感じてきているだろ、絶対)


 吐息に交じった悲鳴は、どこか悦んでいるように聞こえてきて。

 カイトは思わず視線をフィアに向ける。フィアはその意を汲み、一つ頷いて近寄ってきてくれる。


「もう充分です。カイト様。ローラも反省したでしょう」

「ああ、そのようだな」


 カイトは鞭を降ろしてローラを見る。肩で息をする彼女は艶めかしく色っぽい。その様子にフィアはどこか引きつった笑みをこぼした。


「……やり過ぎたかもしれませんが」

「……フィアもそう思うか?」

「はい……姉として恥ずかしい限りです」


 フィアはため息をつきながら彼女を吊るし上げていた縄を解く。途端にローラは膝を折って倒れ込みそうになる。慌ててカイトはその背に手を添えて支える。


「まだ……まだイけるよぅ、兄さまぁ……」

「いやもう無理だろう。いろんな意味で」


 乞うようにふにゃふにゃ告げるローラの表情はあまりにも色っぽく蕩けていて、カイトは視線を逸らすしかなかった。

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