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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第二章

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第7話 侵入する冒険者たち

冒険者視点

 冒険者――それは、この世界における傭兵、あるいは狩人のような職業だ。

 彼らはギルドと呼ばれる組合に所属し、ギルドが斡旋する仕事や依頼を引き受け、それらを遂行することで報酬を手に入れ、収入としている。

 辺境都市、リースリングを拠点とするダン・トレットもまたその冒険者の一人。

 彼はとある依頼を受諾し、信頼できる仲間たちと共に森の中へと歩を進め。

 やがて、雰囲気が変わった一帯に足を踏み入れようとしていた。


「――っ」


 ぴり、と肌が刺すような感覚に先頭歩いていたダンは手を挙げる。全員が動きを止め、辺りを警戒する。その気配を頼もしく思いながら彼は口を開いた。


「ジェシカ」

「うん、間違いないわ」


 その声と共に茶髪の女性が横に並んだ。魔力を集中させ、辺りを見渡して告げる。


「微弱だけど、不自然な魔力の流れがある――ダンジョンがあるわ」

「詳しい位置は?」

「もう少し歩かないと分からない。けど、多分――地下。あっちの方向」


 方向は正面よりやや右手。ダンは目を細めると、なるほど、と口の中で呟いた。


(これが、子爵家三男が行方不明になった原因か……?)


 今回、ダンたちが請け負ったのはバーンズ子爵家から発注された依頼だ。

 内容は調査依頼。子爵家の三男が行方不明になったことを受け、その原因を調査するというのが依頼内容だ。

 行方不明になった男、ジャン・バーンズは成人の通過儀礼として、北方のギヌアド山脈にて大型魔獣を討伐。その後、近くの温泉村で一泊したところまでは確認が取れている。

 つまり、そこから領地に戻るまでの間に、何かがあって遭難したということになる。

 そこでダンはその温泉村からのルートを推測し、その道中で原因があるはずと判断して丹念に調査をしていたのだ。


「恐らく、このダンジョンに足を踏み入れて三男坊は遭難した、のかね」


 仲間の一人、スライがダンの思考と同じことを口にする。ダンは少し考えてから頷いた。


「それに関しては大いにあり得ると思う。話を聞くに、ジャン・バーンズは兄に取って代わる野心もあったようだ。ここでダンジョンコアを獲得して、のし上がろうとしたのかもしれない」

「筋は通っているな。で、どうする?」


 仲間の問いかけにダンは思わず黙り込んだ。

 その質問の意図は明白だ。進むか、引き返すか――どちらを選ぶかである。

 調査依頼としてはもう目的を達成している。このダンジョンの情報を持ってギルドに報告すれば、調査依頼は完了だ。

 だが――そうしてもらえる報酬は正直、たかが知れている。

 そうなると、臨時報酬は欲しくなり――それが手に入る場所が目の前にあるのだ。


(だが、下手をすればジャン・バーンズの二の舞になるか……)


 このダンジョンで、彼と手練れ三人の護衛が行方不明になったかもしれないのだ。進むにはかなりリスクがある。ダンは考えながら仲間たちの目を見る。

 その瞳は全員、意欲に満ち溢れていて――ダンは思わず苦笑する。

 考えるまでもなさそうだ。


「行こう。みんな。ただ、慎重に様子見しながら、だ」

「分かっているさ。少しおこぼれが手に入ればいいんだがな」

「欲を出すなよ――何せ、ここは迷いの森だ」


 ダンは戒めるように告げると、全員が頷いて表情を引き締めた。

 迷いの森――それはここら一帯の俗称だ。昔から魔力が多く渦巻いており、それを糧とする手強い魔獣が行き交っている。

 表層ならまだしも、奥に進めば進むほど生存率が著しく低下する場所なのだから。

 ダンたちは改めて陣形を組み直し、慎重に進んでいく。四方を確認し、どこから攻められても良いように歩を進めると、不意にジェシカが手を挙げた。

 ダンもすぐに気づく――周りでうろついている魔獣がいる。


「……シャドウウルフね。賢いわ。襲ってこようとしない」

「……手ごわそうだな。近寄るまで手を出すな」


 小声でやり取りしながら慎重に進む。遠くで窺っていた気配はやがて離れ、駆け去っていく。ジェシカはその行方を捕捉し、軽く目を細めた。


「この先でシャドウウルフの姿が消えたわ。地下に潜ったみたい」

「そこがダンジョンの入り口か……?」

「魔力の流れの方向から考えても間違いないと思う」


 ジェシカの言葉にダンは頷いた。

 ダンジョンコアは辺りの土地から魔力を吸い上げる性質があるらしい。そうして吸い上げた魔力は魔獣たちに供給される。そのため、魔獣はダンジョンコアを守ろうとする――というのが、一般的な説だ。

 この考えに従えば、シャドウウルフたちはダンジョンコアを守るために行動していると判断できる。ダンは手で合図し、慎重に進んでいく。


 木々の間を抜け、茂みをかき分ける――その先に目に入ったのは、地面にぽっかり空いた大穴だ。その付近は真新しい土で覆われ、シャドウウルフの足跡もくっきりと残っている。

 陽射しが差し込み、風も穏やかに吹いている森――その中で、どんよりと空気が淀み、真っ暗な闇を湛えている場所はいかにも怪しい。


「――洞窟、だな」


 仲間の一人、スライが懐から魔石を取り出し、軽く魔力を込める。それによって光を帯びた魔石で行く手を照らす。少し先は階段状になり、奥へと続いている。

 スライは魔石を放ると、階段をころころと落ちていき、やがて拓けた場所で止まる。目を凝らしてみれば、その先に門らしきものが見えた。ダンは軽く洞窟前の土に触れ、その土が真新しいことを確かめる。


「新しいダンジョンみたいだな。土もあまりコアの影響を受けていない」

「なら、チャンスじゃねえか、ダン……!」


 スライが興奮した口調で言い、ジェシカはやれやれと苦笑をこぼす。

 確かに、とダンは頷きながらも、入念に辺りを見渡す。何かが、引っ掛かっている。


(真新しいダンジョンなら、ジョン・バーンズが足を踏み入れた理由も納得だ。けど)


 そんなダンジョンで後れを取ったというのも考えにくいのだ。

 違和感――どこか嫌な予感がする。考え込むダンだったが、仲間の一人が急かすように軽く肩を叩いてくる。


「行こうぜ。リーダー。ヤバければ退けばいいんだ」

「……ジェシカ、魔獣の気配は?」

「……ダンジョンコアの影響で分かりにくいけど、奥にシャドウウルフが三体いるのは確か。あとは細かい気配。分かりづらいけど」

「強い魔獣の気配は?」

「それは全くないわ。ダンジョンにしては圧倒的に静か」


 ジェシカの断言に、ダンは頷きつつも嫌な予感が拭いきれない。

 ダンジョンなら魔獣がうようよしているのが当たり前なのに、何故。違和感が拭いきれないが――だが、期待に目を輝かせる仲間たちを止めることはできない。

 出来立てのダンジョン、ということで説明がついてしまうからだ。


「――行こう。出来立てだとしても、用心は欠かせない」

「ああ、もちろんだ」

「索敵を怠るな。ジェシカ。それと――」


 視線を後衛の一人に向ける。弓を手にした青年、キリルは今まで無言で一言も発していない。だが、地面に手を当てて何か考え込んでいた。

 声に気づき、キリルは視線を上げる。目が合うと、ダンは告げる。


「万が一は頼むぞ」


 その言葉に彼はこくんと頷き、背中に担いだ長い武器を軽く揺らして見せた。


(あれに頼るのは、最終手段にしたいが)


 何しろ、弓手のキリルの持つ武器は金食い虫。一発撃つだけで莫大な金が吹っ飛ぶのだ。

 だが、万が一、ドラゴンが出てきたとしても彼の武器ならば圧倒できる。

 ダンは自分にそう言い聞かせ、仲間たちと共にダンジョンへ足を踏み入れた。


 ――彼らがもし、もっと慎重であれば、気づけたであろう。

 洞窟付近の森。迷いの森と言われるにも関わらず、そこに陽射しが届き、風通しが良かったこと。つまり――適度に木が伐採され、管理されていることに。

 地面も獣道が多く、踏み固められた場所も多かった。

 それも一朝一夕ではできないくらいに、しっかりと。

 それに気づければ、彼らの魔の手に掛からず、引き返せたのかもしれない。

 だが、もうすでに時は遅い。彼らは足を踏み入れてしまった。


 分水嶺の向こう側へと。

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