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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第二章

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第4話 空中偵察

「ただいま戻りました。カイト様」


 後ろからフィアの声が響いたのは、実験を終えてしばらくしてからだった。振り返ってフィアの笑顔を見ると、先程見た光景がフラッシュバックして口ごもってしまう。


「あ、ああ、おかえり。フィア――ローラは?」

「実験は終わったから、もう偵察に出る、と言って空を飛んでいきましたよ」

(……なるほど、賢いな)


 お説教を避けるために、さっさと仕事に移ったらしい。小さくため息をつきつつ、カイトは何となくフィアから視線を逸らすと、彼女は眉を寄せながら顔を覗き込んでくる。


「……カイト様? 少しお顔が赤いみたいですけど、大丈夫ですか?」

「……ああ、気にしないでくれ。少し思うところがあってな」


 フィアを直視すると、その服の下の姿を想像してしまうのだ。

 来ているシャツとズボンはぼろぼろであり、その合間から肌が見えるのも目によろしくない。何せ腰回りもぼろぼろで蔦をベルト代わりにしているのだから。


(どこかで服は調達しないとな……ただ、どうしたものか)


 これに関してカイトはあまり知恵を持たない。原料は麻や綿花というのは想像がつくが、ここらでは見当たらなかった上に、栽培方法、加工方法は知らないのだ。

 カイトは軽く首を振って思考を切り替えると、フィアの目を見て告げる。


「僕はローラとこの辺りの測量を行う。フィア、地下の工事を監督してもらっていいか」

「はい、土塁の工事ですね」

「ああ、あの陣地は強化を進めておくべきだ」


 この前の侵攻では土塁は土を盛っただけであり、強度不足――さらに、よじ登ろうと思えばよじ登れる。現に重装備である彼らも慎重に進んでいたのだ。

 より強固な陣地を作り上げるのは急務。そのために、レムをはじめ、キキーモラたちには地下空洞の普請を頑張ってもらっていた。


「その後は通路にも手を加えたい。手伝ってできるだけ早く仕上げてくれ」

「もちろんです。お任せください」


 フィアはにこりと笑って一礼すると、軽やかな足取りで洞窟の出入り口に向かう。それを見送ってから左目を手で覆い、ローラに念話を送る。


『さて――お待たせ。お仕置きから逃げたローラ?』

『うぐ……っ、それはこの働きで挽回させてほしいかなぁ、って……』


 返ってきた念話はやや気まずそうだ。カイトは苦笑を返しながら告げる。


『反省しているならいい。その分、きちんと仕事をしてやれば、お仕置きはチャラだ』

『う、うんっ、もちろんだよ。兄さま。で、今、丁度ダンジョンの外周を低空で見回っているところなんだけど……兄さまも見えている?』

『ああ、もちろん』


 すぐに視界は繋がり、ローラの視界が飛び込んでくる。

 丁度、緩やかに飛んでいるようだ。地表から見えないように木々の合間を縫うようにしてダンジョン内を周回しているようだ。


『ローラ、適度に高い場所に立ってくれるか』

『うん――そこの木の上でいい?』

『ああ、もちろん』


 ローラが背の高い木の梢にひらりと降り立ち、ぐるりと辺りを見渡してくれる。その視界を借り、カイトも森を観察する。

 歩いてすでに実感していたが、森はかなり広く、果てしなく緑が続いている。特筆すべき点は北の方に山脈が見えることくらいだろうか。


(方角から見て、あそこから川が流れているんだな――っと)


 左目を掌で押さえたまま、傍らに置いてある荷物に手を伸ばす。

 カイトが地球から持ち込んだ荷物の中に入っていたノートとボールペン。それを取り出すと、手頃な切り株の上に広げる。

 そのページに書かれているのは、簡易な地図。それに加筆しながら、ローラに念話を飛ばす。


『ローラ、北の山脈以外に目立った何か見えるか?』

『んーん、森ばっかりかな……あ、でも西の方』


 そう告げた彼女が西に視線を向ける。その先には木々が続いているが、西に行くにつれて木の密度が下がっているように見える。


『何となくだけど、あっちは平原かも――少し飛んでみるね』

『ああ、ダンジョンから出ないようにな』

『了解。低空で移動するよ』


 ローラがひらりと梢から飛び立ち、緩やかに羽ばたいて飛ぶ。流れていく景色はなかなか見応えがある。空を飛べたらきっと気持ちがいいことだろう。

 ローラは慎重に飛ぶと、ひらりとまた手近な梢に着地して西を見る。


『……うん、やっぱり』

『平原が見えるな』


 視界に入ってきた遠くの景色は霞んでいるものの、森の途切れ目が見える。


(ということは、攻められるとすれば、西側か――)


 南側と東側は木々が延々と続いている。もう少し進めば、他の景色も見えるかもしれないが、そちらは後回しでも構わないだろう。


『兄さま、もう少し西の方を偵察する? それとも別の方角?』


 ローラの念話に思考を止めると、カイトは声を返す。


『いや、今日のところはこれでいい。迂闊に飛び回って姿を見られたら、侵入者に居場所を教えかねないし』

『そっか、それもそうだね』

『洞窟に帰投してくれ。ローラ』


 了解っ、と小気味よく返事が返ってきたところで、カイトは左目に当てた掌を外し、目の前のノートを見る。描かれた地図を眺めながら、少しだけ目を細めた。


(いずれにせよ、人間たちの町や村があるとすれば、西――そちらに偵察を送る必要はあるかな……少なくとも、人里までの距離を割り出さないと)


 その情報があれば、侵攻までの対策が取りやすくなる。

 ただ、ローラに偵察をお願いするのは目立ち過ぎてしまう。斥候として優秀な能力を備えた他の魔獣を召喚し、任せるのが良さそうだ。

 カイトは方針を軽くメモしてからノートを畳み、荷物の中にしまう。

 それからしばらくして羽ばたく音が響き渡る。振り返ると、空からローラが舞い降り、ひらりとカイトの傍に着地した。その手には大事そうに何か抱えている。


「おかえり。ローラ――何を持って帰って来たんだ?」

「その、空を飛んでいたら鳥を見つけて、それでよく見たら巣があったから……」


 彼女はそう言いながら、おずおずと抱えてくれたものを見せてくれる。

 その手にあったのは、卵。それに思わずカイトは目を見開いた。


(そうか――盲点だった。森があれば、鳥もいるということ)


 鳥がいれば巣もあり、そこでは卵がある。

 そして、何より大きいのは、卵は鳥が定期的に生んでくれるのだ。つまり、安定供給される食料の一つである。場合によっては、魚以上にでかい食料だ。

 思わず感心していると、ローラは上目遣いでカイトを窺っていた。軽く首を傾げると、ローラは小さな声で訊ねる。


「――これでお仕置き、なしにしてくれる……?」


 そのいじらしい声にカイトは目を丸くし――やがて、表情を緩めながら手を伸ばす。ぴくりと肩を震わせたローラの頭に手を載せ、優しく撫でる。


「むしろ、褒めるよ。ローラ。よくやった」

「あ……」

「もちろん、今後はあんな悪戯はしないで欲しい。それならお仕置きはなしだ」

「……ん、ごめんなさい。兄さま。それと……ありがと」


 ローラはほのかに頬を染め、こくんと頷くと心地よさそうに目を細める。ひとしきり撫でてから、カイトはローラの手から卵を受け取って笑いかける。


「さて、ご褒美にこれで美味しい卵料理を作るよ」

「あはっ、兄さまの卵料理ってどんなのだろう?」

「さ、それは食べてみてのお楽しみだな。フィアにも声を掛けるか」


 キキたちは草食なので、残念ながら食べてもらうことはできないが、きっとフィアもローラも喜んでくれるはずだ。

 彼女たちの笑顔を思い浮かべながら、カイトは振り返って洞窟に足を向ける。

 隣に並んだローラはすでに、楽しそうな笑顔を見せてくれていた。

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